画家を知る

判型ごとに、別の商品——磯田湖龍斎

中判では、物語を借りる

判型を変えると、主題の扱いも変わる。

風流やつし二十四孝——郭巨
磯田湖龍斎《風流やつし二十四孝——郭巨》1770年ごろ。木版摺、紙に墨と色。縦26.4センチ、横19.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。磯田湖龍斎《風流やつし二十四孝——郭巨》メトロポリタン美術館蔵

縦26.4センチ、横19.4センチ。中判と呼ばれる大きさである。

室内の場面である。左に女性が座り、赤子を抱く。

右にもう一人。膝を突き、火鉢の道具を扱っている。

床は緑、柱と縁は褐色。窓の外に竹が見える。

右上に短冊形の枠があり、題が入る。

題にある郭巨は、中国の孝行説話に出る男である。

母を養うために子を捨てようとしたところ、
土から黄金が出たと伝えられる。

その説話を、当世の母子の場面に置き換えている。

説話を、家の中に移す

置き換えの手つきを確かめたい。

画面には、中国風の要素がほとんどない。

衣装も家具も、当時の日本のものである。

つまり、物語の筋だけを借りている。

見る側は題名で元の話を思い出し、画面で当世の姿を見る。

二十四孝という揃物は、他の絵師も繰り返し扱っている。

型が共有されているから、変奏が成り立つ。

中判という判型の位置

中判の大きさも確かめておきたい。

縦25センチ前後、横19センチ前後である。

現代の雑誌より、ひとまわり小さい。

大判のおよそ半分の面積にあたる。

紙が小さければ、値段も抑えられる。

錦絵が広まる時期に、この判型が多く使われている。

新しい技術は、まず小さな商品で試される。

版木の数が増えるほど、位置合わせの手間が増えるからである。

名所の型も、借りられる

同じ方法は、風景にも使われる。

風流金沢八景——内川暮雪
磯田湖龍斎《風流金沢八景——内川暮雪》1768年ごろ。木版摺(錦絵)、紙に墨と色。中判。縦25.4センチ、横18.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。磯田湖龍斎《風流金沢八景——内川暮雪》メトロポリタン美術館蔵

雪の場面である。上部に雪雲、遠くに白い山。

中央に二人。傘をさす人物と、身をかがめる女性。

傘は赤い骨が放射状に開く。

右に竹の垣が斜めに立ち、雪が積もる。

右上の枠に、題と歌が入る。

金沢八景は、相模の名所を八つに分けた型である。

その八景という枠組み自体が、中国の瀟湘八景に由来する。

つまり、借り物の枠に、借り物の枠を重ねている。

八景という数え方

八景の型についても触れておきたい。

八つの景色に、それぞれ決まった時候が割り当てられる。

晴嵐、暮雪、夜雨、秋月、落雁、帰帆、晩鐘、夕照。

この一点は、そのうちの暮雪にあたる。

雪の夕暮れを描くという主題が、先に決まっている。

画家は、その主題を当世の人物で埋める。

名所の絵が売れる仕組みは、
別のコラムでも扱った。

雪という主題の便利さ

雪の描き方にも触れておきたい。

雪は、紙の白をそのまま使える主題である。

垣の上、竹の葉、遠くの山。

いずれも塗り残すだけで表現できる。

色版を増やさずに、画面の明暗を作れる。

つまり雪は、多色摺の初期に向いた主題でもある。

白を塗らずに作る話は、
別のコラムで詳しく扱った。

絵の中に、絵がある

もう一点、中判を見たい。

福禄寿の絵を見る遊女
磯田湖龍斎《福禄寿の絵を見る遊女》1768年ごろ。木版摺(錦絵)、紙に墨と色。中判。縦25.4センチ、横18.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。磯田湖龍斎《福禄寿の絵を見る遊女》メトロポリタン美術館蔵

室内の場面である。右に女性が座り、左上を見上げている。

左上には、掛物のような枠がある。

その中に小さな人物が数人描かれている。

福禄寿を描いた絵だと、題名は説明する。

手前の縁には鶴の置物が立つ。

つまり、絵の中に別の絵があり、その中に神仙がいる。

見立ての構造が、画面の中に入れ子になっている。

上部には和歌が三行、雲形の枠に入る。

歌と絵は、どちらが先か

和歌の入る絵についても書いておきたい。

歌が先にあり、それに合わせて絵を描く場合がある。

逆に、絵に合わせて歌を選ぶ場合もある。

どちらであったかは、作品ごとに違う。

この一点について、所蔵館の記録は何も書いていない。

だから、どちらが先かは分からない。

分からないことは、分からないと書いておきたい。

肉筆の一点

版画ばかりではない。

雪兎に目を描く
磯田湖龍斎《雪兎に目を描く》1780年ごろ。掛軸、絹に墨と色。画面は縦60.3センチ、横40.6センチ。表装を含めて縦158.1センチ、横58.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。磯田湖龍斎《雪兎に目を描く》メトロポリタン美術館蔵

これは版画ではなく、絹に描かれた一点物である。

画面は縦60.3センチ、横40.6センチ。

雪の庭が奥に見える。窓の格子越しに、白く積もった枝がある。

手前に女性が二人。一人は座り、赤い盆の上の雪兎に手を伸ばす。

もう一人は立ち、緑の衣を着ている。

雪で兎を作り、目を入れる遊びである。

版画の柱絵とは、線の性質がまるで違う。

筆の入りと抜けがそのまま残り、色に濃淡がある。

表装込みの寸法が示すもの

寸法欄をもう一度見てほしい。

画面は縦60.3センチだが、表装を含めると158.1センチになる。

軸首まで入れると、横は62.9センチ。

つまり絵の二倍以上の高さの布に、絵が貼られている。

掛軸は、床の間に合わせて仕立てられる。

絵の大きさより、掛ける場所の高さが優先される。

形式が絵を包む話は、
別のコラムで詳しく扱った。

一点物と、量産品

肉筆と版画の違いも整理しておきたい。

版画は、同じ図を何百枚も摺れる。

一枚あたりの値段は下がり、多くの人が買える。

肉筆は一点しかない。だから値段は高い。

同じ絵師が両方を手がけるのは、珍しいことではない。

版画で名が知られ、その名で肉筆の注文が来る。

複製が評価を運び、評価が一点物の値段になる。

この順序は、他の時代や地域でも繰り返し現れる。