作品を知る

絵のなかでは、大人もよく遊ぶ——華嵒・リュノワ・ネッチェルほか九点

遊びは子どもの時間だと言われる。だが遊びを描いた九点を数えると、子どもが遊ぶ絵は三点、大人が遊ぶ絵は四点あった。目隠し鬼は清の中国と世紀末のフランスで同じ布一枚。盤と札を囲むのは神と大人たち。絵のなかの遊び手を数え直す。

ネイサン・スターの子どもたち
アンブローズ・アンドルーズ《ネイサン・スターの子どもたち》メトロポリタン美術館蔵

開いた扉の上に、白い羽根がひとつ

赤い扉が、左右いっぱいに開いている。

その向こうには川が流れ、白い帆と小さな町が見える。

手前の部屋には、子どもが五人いる。

左端の年かさの少年は、柄の付いた丸い板を高く構えている。

隣の少年は同じ板を胸に抱え、上を見ている。

青い服の幼い子も、指を立てて空を差す。

右端では白い服の少女が立ち、板を目の高さに掲げている。

椅子に座る少女だけが、膝の上に緑の本を置いて動かない。

床は赤く、大きな花模様が織り出されている。

窓辺には鉢植えが並び、緑の足載せ台が椅子のそばに置かれている。

そしてみんなの視線の先、扉の上のあたりに、白い羽根が浮かんでいる。

床にも、羽根がもう一つ落ちている。

打ち上げた羽根が落ちてくるまでの、短い一瞬である。

ネイサン・スターの子どもたち
アンブローズ・アンドルーズ《ネイサン・スターの子どもたち》1835年。館の記録では、油彩・カンヴァス。72.1×92.7センチ。番号は1987.404。メトロポリタン美術館蔵。アンブローズ・アンドルーズ《ネイサン・スターの子どもたち》メトロポリタン美術館蔵

題は、ネイサン・スターの子どもたち。

アメリカの画家アンドルーズが、1835年に描いた。

つまりこれは五人まとめての肖像画であり、同時に遊びの絵である。

館の分類の札には、少年、少女、遊び、家族、遊戯の語が並ぶ。

体の向きは五人ばらばらで、それでも画面は一枚にまとまっている。

全員の目が、同じ一枚の羽根を追っているからである。

五人を順に立たせて描けば、堅い記念写真のような絵になっただろう。

羽根をひとつ打ち上げたことで、五人の顔は自然に上を向いた。

遊びが、肖像画の名脇役を務めている。

開いた赤い扉は、川と町の風景を絵のなかの額縁のように切り取っている。

部屋の遊びと、外の広い世界が、一枚のなかで隣り合う。

さて、遊びは子どもの時間だと言われる。

この絵で遊んでいるのも、たしかに子どもたちである。

けれど、絵のなかの遊びは、いつでも子どものものだったろうか。

遊びの絵と聞いて思い浮かぶのは、凧あげや、こま回しかもしれない。

今回集まった九点の遊びは、もう少し顔ぶれが広い。

鬼ごっこ、盤、札、羽根、船の宴、おもちゃ。

遊ぶのは人の子だけでなく、大人がいて、神がいて、獣の子までいる。

九点を順に見て、遊んでいるのが誰かを数えてみたい。

目隠しの布が、二枚ある

まず、灰色の庭石の絵から。

大きな葉の茂る庭で、子どもが遊んでいる。

真ん中の赤い服の子は、白い布で目を覆われ、両手を前に泳がせる。

まわりの子どもたちは、体をかがめ、忍び足で間合いをはかる。

庭石の穴からは、別の子の顔がのぞいている。

目隠し鬼である。

庭で目隠し鬼をして遊ぶ子供たち(古詩を描いた山水画帖より)
華嵒《庭で目隠し鬼をして遊ぶ子供たち(古詩を描いた山水画帖より)》1745年。館の記録では、画帖の一葉、紙本淡彩。絵は11.2×13.1センチ。番号は1982.68.9。クリーヴランド美術館蔵。華嵒《庭で目隠し鬼をして遊ぶ子供たち(古詩を描いた山水画帖より)》クリーヴランド美術館蔵

描いたのは、清の時代の中国の画家、華嵒である。

古い詩を絵にした画帖の一葉だと、題は言っている。

館の記録では、華嵒は揚州八怪のひとりに数えられる。

型どおりの画法によらなかった画家たち、という説明が付く。

たしかに、主役は庭石で、子どもはその足元に小さい。

石の黒い染みと大きな葉が、墨の遊び場のように描かれている。

隅には、赤い印がひとつ押されている。

絵は縦11センチほどしかない。

帖を閉じれば、記録の寸法で15センチほどの小さな冊子になる。

手のひらの上の帖のなかで、子どもたちが鬼ごっこをしている。

その百五十年ほどあと、フランスでも同じ遊びが刷られた。

夕方の色の公園の芝生で、五人の女性が輪になっている。

真ん中の赤い服の人が、白い布で目を覆われ、両腕を広げる。

まわりの四人は、身をよじって手の届く外へ逃げる。

奥には見物の人だかりがあり、木々は橙に染まっている。

空の高いところには、点々の筆致で日ざしが放射状に描かれている。

手前の白い柵が、遊びの場をゆるく囲う。

目隠し鬼
アレクサンドル・リュノワ《目隠し鬼》1897年。館の記録では、多色刷りリトグラフ。番号は2016.218。クリーヴランド美術館蔵。アレクサンドル・リュノワ《目隠し鬼》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、目隠し鬼は子どもの遊びである。

目を覆われ、ぐるぐる回されてから、声を頼りに仲間を探すとある。

その子どもの遊びを、ここでは大人の女性たちが遊んでいる。

場所は手入れされた公園で、19世紀末のパリの人々の憩いの場だった。

緑と黄の鮮やかな色は、戸外の光の明るさを出すための選択だという。

用いた多色刷りリトグラフは、もともとポスターなどの商業印刷の技法だった。

1890年代に、画家たちの間へ広まったと記録は書く。

付記によれば、リュノワは他人の絵を版に写す仕事から出発した。

この版画のころ、ようやく自作を刷り始めたのだという。

九点のうち、目隠し鬼の絵はこの二点ある。

18世紀の中国では子どもが、19世紀末のフランスでは大人が遊ぶ。

布が一枚あれば、道具はそれで足りる遊びである。

子どもらしい体の比を数えた回で見たように、子どもの描き方は時代で揺れる。

だが目隠しの布の使い方は、国と時代をまたいで、ほとんど同じである。

二点の作りも対照的である。

華嵒のそれは、一冊の帖のなかの、持ち主だけが開く小さな絵だった。

リュノワのそれは、刷って配ることを前提にした版画である。

同じ遊びが、私的な帖と、量産の紙という別の器に納まっている。

器は違っても、布一枚の遊びの形は変わっていない。

盤のある遊び、札のある遊び

次は、道具が主役級の二点である。

一点目は、黄一色の地の絵。

縞模様の敷物の上に、二人が向かい合って座っている。

左は肌の白い男神、右は赤い衣の女神である。

敷物には縞が走り、端には爪のある足がそのまま残っている。

獣の皮を、敷物にしているのである。

二人の間には十字の形の盤が広げられ、赤と黒のこまが並んでいる。

左右には濃い緑の木が一本ずつ立ち、空は上端に白く細い。