作品を知る

四百年、同じ腕で抱いている——ベルリンギエーロ・ピサーノ・ロッセリーノほか九点

十三世紀の板絵、十四世紀の大理石、十五世紀のテラコッタ。材料も場所も違うのに、抱き方が同じである。九点で、抱く腕を数えたい。読める五点のうち四点が左腕だった。型の伝わり方も追う。輪郭に針で穴を開けた素描が、その仕組みを残している。

聖母子
ベルリンギエーロ《聖母子》メトロポリタン美術館蔵

金の地の上に、二人がいる

板に描かれた絵である。

背景は、一面の金である。

その前に、二人がいる。

大きいほうの人物は、青い衣を頭からかぶる。

顔は細長く、目が大きい。

眉が細く、弓なりに引かれる。

顔はやや傾き、こちらを見る。

その左腕に、小さな人物が座っている。

赤茶色の衣を着ている。

片手を上げ、指を二本立てる。

もう一方の手に、巻いたものを持つ。

大きいほうの人物の右手が、画面の前に大きく出る。

指が細く長い。

その指先が、小さいほうの人物を指している。

金の地には、細かい線が刻まれている。

聖母子
ベルリンギエーロ《聖母子》おそらく1230年代。館の記録では、板にテンペラ、金地。全体80.3×53.7センチ。描かれた面は76.2×49.5センチ。番号は60.173。メトロポリタン美術館蔵。ベルリンギエーロ《聖母子》メトロポリタン美術館蔵

館の記録は、寸法を二つ書いている。

全体が80.3×53.7センチ。

描かれた面が76.2×49.5センチである。

縦横それぞれ四センチほど、絵の来ない部分がある。

第一回でも、同じ書き方の板絵を見た。

横顔の話で扱った一点にも、二つの寸法があった。

板絵は、枠にはめ込まれることがある。

隠れる部分には、絵を描かない。

そして、この作者の絵は第七回にも出てきた。

手の話で扱った一点は、別の館にある。

同じ名前の作者による、同じ時代の作である。

前の回まで、二人と、群衆と、行列を見てきた。

今回も二人である。

ただし、特別な二人だ。

母と子である。

九点を選ぶとき、記録に母の語があるものを拾った。

すると、四点が同じ題を持っていた。

「聖母子」である。

残る五点は、別の題を持つ。

順に並べたい。

同じ型が、四百年続く

聖母子
アンドレア・ピサーノ《聖母子》1330年から40年ごろ。館の記録では、大理石、金の痕跡がある。台を除いて32.7×15×9.6センチ。台は5×15.9×15.1センチ。番号は1972.51。クリーヴランド美術館蔵。アンドレア・ピサーノ《聖母子》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、台の寸法を別に書いている。

台が5×15.9×15.1センチ。

台を除いた像が32.7×15×9.6センチである。

第三回で、彫刻の台の働きを扱った。

切る位置の話で書いたとおり、台は切り口を隠す装置でもある。

ここでは、像と台が別に測られている。

つまり、台は後から付けられた可能性がある。

館の記録は、そこには触れていない。

小さな大理石の像である。

台を除いた高さは32.7センチ。

人物が立っている。

長い衣が、足元まで落ちる。

衣の襞が、縦の線として並ぶ。

体は、わずかに左へ傾く。

その左腕に、小さな人物を抱える。

小さいほうは、片手を上げる。

大きいほうの右手は、胸の前にある。

指が細い。

顔は、どちらも小さく、丸い。

表面に、金の跡が残るという。

館の記録によれば、この作者の彫刻でこの国にあるのは、この一点だけらしい。

そして、帰属の根拠も書かれている。

同じ作者の、記録の確かな作品と比べたのだという。

これは館の記述である。

第十四回で、作者の欄の決め方を扱った。

比較による帰属は、素描や彫刻でよく使われる。

先の板絵と、百年ほど離れている。

材料も違う。

だが、組み立ては同じである。

大きいほうが左腕で子を抱き、右手を前に出す。

聖母子
アントニオ・ロッセリーノ《聖母子》1475年ごろ。館の記録では、彩色したテラコッタ。全体121.9センチ。番号は1942.780。クリーヴランド美術館蔵。アントニオ・ロッセリーノ《聖母子》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、この作者の家系にも触れている。

彫刻家と建築家の一族で、いちばん年下だったという。

いちばん上の兄のもとで学んだと書かれている。

第十五回で、工房の仕組みを扱った。

家族が工房を作る例は、各地にある。

そして、その中で誰の手によるかを分けるのは難しい。

館の記録は、この一点を一人の名で記録している。

さらに百五十年ほどあとの像である。

高さは121.9センチ。

先の大理石の四倍近い。

材料は焼いた土で、色が塗られている。

青い布を頭からかぶる。

その下に、赤い衣を着る。

裾が床に広がる。

左腕に、小さな人物を抱える。

小さいほうは、裸に近い。

両手を、大きいほうの胸のあたりに置く。

顔は、どちらも下を向く。

色は、ところどころ剥がれている。

赤い部分に、下地の色が見える。

三点を並べると、続き方がよく分かる。

十三世紀の板絵、十四世紀の大理石、十五世紀のテラコッタ。

材料も、大きさも、場所も違う。

それでも、抱き方が同じである。

型が、そのまま受け継がれている。

転写のための穴が、開いている

天使たちのいる聖母子
アウレリオ・ルイーニ《天使たちのいる聖母子》16世紀後半。館の記録では、黒チョークの上にペンと褐色のインク、筆と褐色の淡彩。輪郭に針で穴が開けられている。紙全体23.9×18.7センチ。番号は1988.107。クリーヴランド美術館蔵。アウレリオ・ルイーニ《天使たちのいる聖母子》クリーヴランド美術館蔵

紙は23.9×18.7センチ。

九点でいちばん小さい。

そして、この小ささには理由があると考えられる。

転写して使うためなら、大きくする必要がない。

必要な大きさに、あとで拡大できる。

点線を写し、それを目安に線を引き直せばよい。

褐色の素描である。

中央に、大きな人物が座る。

その膝の上に、小さな人物がいる。

まわりに、翼のある姿が何人もいる。

上のほうにも、下のほうにもいる。

線は速く、重なる。

淡彩が、影のところに置かれる。

紙は褐色に変わっている。

館の記録には、重要な語がある。

輪郭に針で穴が開けられている、という記述である。

これは、転写のための処置だ。

線に沿って細かい穴を開け、その上から粉をはたく。

すると、下に置いた紙や壁に、点線が写る。

同じ図を、何度でも移せる。

つまり、この素描は使うための道具である。

第十六回で、習作の残り方を扱った。

習作の話で見たとおり、準備の段階のものが残る。

そして、穴が開いているということは、実際に使われたということでもある。

使われた跡が、紙に残っている。

第十五回で、複製と反復を扱った。

型が受け継がれる仕組みの一つが、ここにある。

同じ図を写せば、同じ構図が広がる。