四百年、同じ腕で抱いている——ベルリンギエーロ・ピサーノ・ロッセリーノほか九点
十三世紀の板絵、十四世紀の大理石、十五世紀のテラコッタ。材料も場所も違うのに、抱き方が同じである。九点で、抱く腕を数えたい。読める五点のうち四点が左腕だった。型の伝わり方も追う。輪郭に針で穴を開けた素描が、その仕組みを残している。

金の地の上に、二人がいる
板に描かれた絵である。
背景は、一面の金である。
その前に、二人がいる。
大きいほうの人物は、青い衣を頭からかぶる。
顔は細長く、目が大きい。
眉が細く、弓なりに引かれる。
顔はやや傾き、こちらを見る。
その左腕に、小さな人物が座っている。
赤茶色の衣を着ている。
片手を上げ、指を二本立てる。
もう一方の手に、巻いたものを持つ。
大きいほうの人物の右手が、画面の前に大きく出る。
指が細く長い。
その指先が、小さいほうの人物を指している。
金の地には、細かい線が刻まれている。

館の記録は、寸法を二つ書いている。
全体が80.3×53.7センチ。
描かれた面が76.2×49.5センチである。
縦横それぞれ四センチほど、絵の来ない部分がある。
第一回でも、同じ書き方の板絵を見た。
横顔の話で扱った一点にも、二つの寸法があった。
板絵は、枠にはめ込まれることがある。
隠れる部分には、絵を描かない。
そして、この作者の絵は第七回にも出てきた。
手の話で扱った一点は、別の館にある。
同じ名前の作者による、同じ時代の作である。
前の回まで、二人と、群衆と、行列を見てきた。
今回も二人である。
ただし、特別な二人だ。
母と子である。
九点を選ぶとき、記録に母の語があるものを拾った。
すると、四点が同じ題を持っていた。
「聖母子」である。
残る五点は、別の題を持つ。
順に並べたい。
同じ型が、四百年続く

館の記録は、台の寸法を別に書いている。
台が5×15.9×15.1センチ。
台を除いた像が32.7×15×9.6センチである。
第三回で、彫刻の台の働きを扱った。
切る位置の話で書いたとおり、台は切り口を隠す装置でもある。
ここでは、像と台が別に測られている。
つまり、台は後から付けられた可能性がある。
館の記録は、そこには触れていない。
小さな大理石の像である。
台を除いた高さは32.7センチ。
人物が立っている。
長い衣が、足元まで落ちる。
衣の襞が、縦の線として並ぶ。
体は、わずかに左へ傾く。
その左腕に、小さな人物を抱える。
小さいほうは、片手を上げる。
大きいほうの右手は、胸の前にある。
指が細い。
顔は、どちらも小さく、丸い。
表面に、金の跡が残るという。
館の記録によれば、この作者の彫刻でこの国にあるのは、この一点だけらしい。
そして、帰属の根拠も書かれている。
同じ作者の、記録の確かな作品と比べたのだという。
これは館の記述である。
第十四回で、作者の欄の決め方を扱った。
比較による帰属は、素描や彫刻でよく使われる。
先の板絵と、百年ほど離れている。
材料も違う。
だが、組み立ては同じである。
大きいほうが左腕で子を抱き、右手を前に出す。

館の記録は、この作者の家系にも触れている。
彫刻家と建築家の一族で、いちばん年下だったという。
いちばん上の兄のもとで学んだと書かれている。
第十五回で、工房の仕組みを扱った。
家族が工房を作る例は、各地にある。
そして、その中で誰の手によるかを分けるのは難しい。
館の記録は、この一点を一人の名で記録している。
さらに百五十年ほどあとの像である。
高さは121.9センチ。
先の大理石の四倍近い。
材料は焼いた土で、色が塗られている。
青い布を頭からかぶる。
その下に、赤い衣を着る。
裾が床に広がる。
左腕に、小さな人物を抱える。
小さいほうは、裸に近い。
両手を、大きいほうの胸のあたりに置く。
顔は、どちらも下を向く。
色は、ところどころ剥がれている。
赤い部分に、下地の色が見える。
三点を並べると、続き方がよく分かる。
十三世紀の板絵、十四世紀の大理石、十五世紀のテラコッタ。
材料も、大きさも、場所も違う。
それでも、抱き方が同じである。
型が、そのまま受け継がれている。
転写のための穴が、開いている

紙は23.9×18.7センチ。
九点でいちばん小さい。
そして、この小ささには理由があると考えられる。
転写して使うためなら、大きくする必要がない。
必要な大きさに、あとで拡大できる。
点線を写し、それを目安に線を引き直せばよい。
褐色の素描である。
中央に、大きな人物が座る。
その膝の上に、小さな人物がいる。
まわりに、翼のある姿が何人もいる。
上のほうにも、下のほうにもいる。
線は速く、重なる。
淡彩が、影のところに置かれる。
紙は褐色に変わっている。
館の記録には、重要な語がある。
輪郭に針で穴が開けられている、という記述である。
これは、転写のための処置だ。
線に沿って細かい穴を開け、その上から粉をはたく。
すると、下に置いた紙や壁に、点線が写る。
同じ図を、何度でも移せる。
つまり、この素描は使うための道具である。
第十六回で、習作の残り方を扱った。
習作の話で見たとおり、準備の段階のものが残る。
そして、穴が開いているということは、実際に使われたということでもある。
使われた跡が、紙に残っている。
第十五回で、複製と反復を扱った。
型が受け継がれる仕組みの一つが、ここにある。
同じ図を写せば、同じ構図が広がる。