美術史・技法

型で押すか、手で吹くか——19世紀アメリカのガラス

色が、連続して変わる

吹きガラスの色を見たい。

花瓶
ホッブス・ブロキュニア社《花瓶》1886〜1890年。吹きガラス(ピーチブロウ)。高さ19.7センチ、径7.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。ホッブズ・ブロキュニア社《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

縦長の器である。高さ19.7センチ。

胴は下がふくらみ、上へ細くすぼまる。首から口へ、わずかに広がる。

色は、上部が赤である。中ほどで橙になり、下部は黄になる。

境目はなく、連続して移る。

記録は、この材料を「ピーチブロウ」と呼ぶ。桃の花の色を指す名である。

色は、どう作られるか

技法にも触れておきたい。この種のガラスでは、加熱の度合いで発色が変わる。

同じ材料でも、再加熱した部分だけ色が変わる。

つまり、器の一部を炎に近づけることで、色の移り変わりを作る。

型では、この効果を得にくい。手で保持し、加減する必要がある。

銀色に光る器

もう一つ、別の技法を見たい。

花瓶
ニューイングランド・ガラス会社《花瓶》1855〜1875年。吹きガラス(銀被せ)。高さ26.7センチ、径12.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ニューイングランド・ガラス製造所《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

脚付きの器である。高さ26.7センチ。

胴は釣鐘形で、上が開く。下に球形の節があり、円い台に載る。

そして全体が銀色に光る。金属のように見える。

これは、二重のガラスの内側に銀を流し込む技法である。

つまり、内部が鏡になっている。

金属に、見せる

代用の話をもう一度したい。銀器は高価である。

銀色に光るガラスなら、安く似た効果が得られる。

つまり、これも代用品である。

19世紀には、こうした「別の材料に見せる」工夫が数多く作られた。

金の粒が、散っている

もう一点、変わった材料を見たい。

水注
ホッブス・ブロキュニア社《水注》1884年ごろ。吹きガラス(スパングルド)。高さ20.3センチ、径10.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ホッブズ・ブロキュニア社《水注》メトロポリタン美術館蔵

胴の広い水注である。高さ20.3センチ。

地は暗い褐色である。その中に、金色の粒が散っている。

粒は不規則に分布し、光を反射する。

記録は、この材料を「スパングルド」と呼ぶ。金属片を混ぜたガラスである。

内側は青い。つまり、色ガラスを重ねている。

口は三方に引き出され、取っ手が付く。

名前が、商品を作る

呼び名についても書いておきたい。ピーチブロウ、スパングルド、ホブネイル。

いずれも、工場が付けた商品名である。

技法の名でもあり、宣伝の言葉でもある。

名前が付けば、客はそれを指名して買える。

つまり、名前は商品を成立させる装置でもある。

偶然を、模様にする

粒の分布について考えたい。金属片は、均等には散らない。

つまり、模様は一点ずつ違う。

同じ工程でも、同じ結果にはならない。

偶然を模様として使う方法は、
別のコラムで扱った陶器の釉と共通する。

糸を巻きつけた皿

装飾の技法をもう一つ見たい。

皿
ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス会社《皿》1880〜1888年。糸状装飾を施した吹きガラス(琥珀色)。径16センチ。メトロポリタン美術館蔵。ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス社《》メトロポリタン美術館蔵

平たい皿である。径16センチ。

中央は濃い赤で、外周へ向かって琥珀色に変わる。

表面には、細い糸のような線が渦を巻いて並ぶ。中心から外へ、同心円状に走る。

これは、熱いガラスに細いガラスの糸を巻きつけた装飾である。

つまり、糸を巻きながら回転させて作る。

手の作業でしか作れない模様である。

器の用途

用途も確かめておきたい。公開分には、花瓶、水注、皿、鉢、蓋物が並ぶ。

いずれも食卓や居間で使う器である。

つまり、日用品として作られている。

装飾的に見えても、飾るためだけの品ではない。

使われることを前提にした造形である。

四つの会社

作り手の側も整理したい。公開分には、四つの会社の名前が並ぶ。

ボストン・アンド・サンドウィッチ、ニューイングランド、
マッキー兄弟商会、ホッブス・ブロキュニア。

いずれも19世紀のアメリカで操業したガラス工場である。

つまり作者は個人ではなく、会社である。

個人の名が、記録されない

作者名について触れておきたい。ガラス工場では、多数の職人が分業する。

型を作る人、ガラスを溶かす人、吹く人、仕上げる人。

しかし記録に残るのは、会社の名だけである。

同じ問題は、別のコラムでも扱った。

作品が残っても、作った人の名は残らない。

動物の器には、会社名がない

さらに注意したい。動物の蓋物二点には、会社名が記録されていない。

つまり、どの工場で作られたか分かっていない。

同種の器は複数の工場で作られ、型も流通した。

だから帰属が難しい。記録は、分からないものを空欄にしている。

見立て——同じ器が、二つの方法で作られる

ここまでを整理したい。型で押せば、同じ器が大量にできる。

手で吹けば、一点ずつ違うものができる。

そして工場は、両方を使い分けている。

量産品には型、装飾品には手。あるいは、一つの器の中で工程を分ける。

つまり、対立ではなく組み合わせである。

値段と、技法

値段についても考えたい。型で押した器は、安く売れる。

手で吹いた器は、高くなる。

つまり同じ工場が、価格帯の違う商品を並行して作っていたことになる。

品揃えの設計は、別のコラムでも扱った。

分野は違うが、構造は似ている。

九十二点の内訳

公開分の構成も確かめておきたい。四社を合わせて92点。

花瓶と水注が中心で、皿、鉢、蓋物が続く。

制作年は1830年代から1890年代に及ぶ。六十年ほどの幅である。

つまり、機械による量産が広がった時期にあたる。