美術史・技法

型で押すか、手で吹くか——19世紀アメリカのガラス

型に押し込んで作る器と、手で吹いて作る器。19世紀アメリカのガラス工場は、両方を使い分けていた。九点を技法で分け、色の工夫と代用品の設計を確かめる。会社名しか残らない記録にも触れておきたい。型の合わせ目という手がかりも示しておく。

花瓶
ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス社《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

型に押し込んで、作る

一点の器から始めたい。

花瓶
ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス会社《花瓶》1835〜1845年。プレスガラス。高さ29.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス社《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

縦長の器である。高さ29.2センチ。

下部は六角形の台である。角がはっきりし、面が平らである。

その上に、球形の節がある。さらに柱が立ち上がる。

柱の表面には、細かい四角い凹凸が規則的に並ぶ。

口は八つの山を持つ波形である。

色は淡い黄緑である。透明で、光を通す。

記録に「プレスガラス」とある

技法の名に注目したい。記録は「プレスガラス」と書いている。

溶けたガラスを型に入れ、上から押し込んで成形する方法である。

型の内側の文様が、そのまま器の表面になる。

つまり、同じ型を使えば同じ器が何個でも作れる。

型で作ると、何が変わるか

プレスの利点を整理したい。第一に、速い。溶けたガラスを型に入れて押すだけである。

第二に、技能の差が出にくい。吹きガラスは、職人の熟練で厚みが変わる。

第三に、複雑な文様を一度に作れる。彫りや削りの工程が要らない。

その結果、値段が下がる。ガラス器が、一般の家庭にも届くようになる。

つまりプレスは、装飾を安く配る技術である。

手で吹くと、どうなるか

比較のため、別の技法を見たい。

「ワイルドローズ」リリー花瓶
ニューイングランド・ガラス会社《「ワイルドローズ」リリー花瓶》1886年ごろ。吹きガラス。高さ59.4センチ、径19.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。ニューイングランド・ガラス製造所《「ワイルドローズ」リリー花瓶》メトロポリタン美術館蔵

細長い器である。高さ59.4センチ。人の腕ほどの長さがある。

形は百合の花に似る。細い茎から立ち上がり、上部で大きく開く。

口の縁は波打ち、三つの山を作る。

色は、上部が濃い赤である。下へ行くほど薄くなり、脚のあたりでは白に近い。

境目はない。色が連続して変わっている。

つまり、型では作りにくい形と色である。

型の跡は、残る

プレスの弱点にも触れておきたい。型は複数の部品を合わせて作る。

その合わせ目に、細い線が残る。器の側面を触ると、縦の稜が指に触れる。

丁寧に仕上げれば目立たなくなるが、完全には消えない。

つまり、作り方の痕跡が製品に残る。

見分ける手がかりとして、この線は役に立つ。

問い——型と、手はどう使い分けられたのか

ここで問いを立てたい。19世紀のアメリカでは、ガラス器が大量に作られた。

型で押す方法と、手で吹く方法の両方が使われている。

その使い分けは、何で決まったのか。

当サイトには、この時期のガラス工場の作品が数多く公開されている。

四つの会社を並べて確かめたい。

動物の形をした器

型の利点を示す例を見たい。

動物の蓋物
《動物の蓋物》1880〜1890年。不透明白のプレスガラス。高さ11.1センチ、幅11センチ、奥行14センチ。メトロポリタン美術館蔵。動物の蓋物》メトロポリタン美術館蔵

蓋のある器である。下は浅い鉢で、外側に籠のような編み目の文様がある。

その上に、獅子の形をした蓋が載る。伏せた姿勢で、たてがみが渦を巻く。

顔は正面を向き、口を閉じている。

色は不透明の白である。乳白色で、光を通さない。

つまり、陶器のように見えるガラスである。

同じ形式の、別の動物

同じ形式の器を、もう一点見たい。

動物の蓋物
《動物の蓋物》1880〜1890年。不透明白のプレスガラス。高さ9.5センチ、幅10.8センチ、奥行13.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。動物の蓋物》メトロポリタン美術館蔵

寸法はわずかに小さい。高さ9.5センチ。

下の鉢は、同じ籠形である。編み目の文様も同じである。

しかし蓋の動物が違う。こちらは象である。鼻を下へ垂らし、耳が体に沿う。

つまり、同じ鉢に別の動物を載せている。

型は、資産である

工場の経営から考えたい。型は鉄で作られ、費用がかかる。

しかし一度作れば、何千個も押せる。

つまり型そのものが工場の資産である。

売れる意匠の型は、工場が変わっても使われ続けることがある。

だから同じ形の器が、別の会社の製品として出回る場合もある。

部品を、組み替える

生産の仕組みを考えたい。鉢の型は共通で、蓋の型だけを替える。

そうすれば、少ない型で品数を増やせる。

つまり、部品の組み替えによって商品を展開している。

型で作るという方法は、この設計と相性がよい。

白いガラスの意味

材料についても触れておきたい。不透明の白いガラスは、陶磁器に似せて作られた。

磁器は高価である。ガラスなら安く、同じ白さが得られる。

つまり、これは代用品である。

代用品が広がると何が変わるかは、
別のコラムでも扱った。

銀器に対する錫合金と、同じ構造である。

突起の並ぶ水注

型で作る器を、もう一点見たい。

ホブネイル水注
ホッブス・ブロキュニア社《ホブネイル水注》1886年以降。プレスされたクランベリー色、乳白色、無色のガラス。高さ10.3センチ。メトロポリタン美術館蔵。ホッブズ・ブロキュニア社《ホブネイル水注》メトロポリタン美術館蔵

小さな水注である。高さ10.3センチ。

胴の表面に、丸い突起が規則的に並ぶ。上下に六段ほど重なる。

この文様を、記録は「ホブネイル」と呼ぶ。靴底の鋲に由来する名である。

口の縁は波形に折れ、右に取っ手が付く。

つまり、型で突起を作り、口と取っ手は手で仕上げている。

色ガラスの作り方

色についても補いたい。ガラスの色は、金属の酸化物で作られる。

銅は青や緑、金は赤、コバルトは濃い青になる。

材料の値段は色によって違う。金を使う赤は、高価である。

つまり、色の選択には費用の判断が入る。

同じ形でも、色によって値段が変わることになる。

型と手を、組み合わせる

工程を整理したい。胴は型で押す。口の形と取っ手は、熱いうちに手で加工する。

つまり、一つの器の中に二つの方法が混在する。

型だけ、手だけ、という単純な区分にはならない。

工程を分けることで、速さと変化の両方が得られる。