借りてきた品格——ジョシュア・レイノルズの大様式
若い頃の一点と比べる

1758年、イタリアから帰って数年後の作品である。
女性が野外に座っている。
赤褐色と金の絹の服で、袖に白い襞飾りが重なる。
膝に花の束を抱え、両手を添えている。
髪に赤い花飾り。顔は青白く、視線は正面を向く。
背後は暗い樹と空である。
服の描写が細かい。刺繍と縁飾りが一つずつ描かれている。
晩年の柔らかい筆とは、明らかに違う。
制作年を並べると、変化がはっきりする。
1748年の群像は硬く、細部が均一に描かれている。
1758年の一点は装飾が細かく、色が強い。
1770年代後半の全身像では、筆が緩み、背景が大きく開く。
1780年代の子どもの肖像は、輪郭がぼかされ、光が柔らかい。
三十年余りで、描き方が明確に変わっている。
ただし構成の型は保たれている。変わったのは仕上げの質である。
絵具の実験と、その代償
技法についても書いておきたい。
この画家は、絵具と媒材の実験を繰り返したことで知られる。
古い絵の色を再現しようとして、樹脂や蝋を混ぜたと伝えられる。
その結果、絵具の層が動き、ひび割れや変色が生じた作品がある。
肌の赤みが褪せて青白く見える例も指摘されてきた。
当サイトの公開画像でも、表面に細かい亀裂が見える作品がある。
ただし、亀裂の原因を一つに決めることはできない。
保存の環境、修復の履歴、下地の作りも関わる。
本稿では「実験的な材料が使われたと伝えられる」までにとどめたい。
品格を借りることの意味
まとめておきたい。
この画家の肖像は、三つの層でできている。
顔は注文主のもの。姿勢は過去の作品から借りたもの。
そして寸法と価格は、市場の規格に従ったものである。
つまり肖像画は、個人と伝統と商売の交点にある。
借用は隠されていない。むしろ見る側が気づくことが期待されていた。
古代の彫刻を知っている人には、その引用が分かる。
分かる人にだけ通じる仕掛けが、格の証明になっていた。
見る側の教養が、絵の一部として組み込まれている。
古典を知る人だけが引用に気づき、注文主の趣味を評価できる。
つまり肖像は、注文主と見る人のあいだの合図でもあった。
現代の写真や広告でも、同じ仕掛けは使われている。
名画の構図を借りた広告は、見る人の記憶に働きかける。
引用が通じる範囲が、その作品の宛先を示している。
型は、次の世代へ渡る
この方法は、後の画家にも引き継がれた。
アメリカで肖像画を商売にした画家たちも、同じ型を使っている。
その事情は別のコラムで扱った。
初代大統領の肖像が英雄の型で描かれたこともこちらのコラムで触れた。
つまり大様式は、イギリスの中だけの流行ではない。
肖像画という商品の作り方として、広く輸出されている。
肖像画家の一日
制作の実務にも触れておきたい。
18世紀のロンドンの肖像画家は、日ごとに座らせる客を決めていた。
一回の座りは一時間から二時間程度。
顔を描くのに数回、衣装と背景は助手が進める。
つまり一点の絵に、複数の日程と複数の手が関わる。
流行の画家であれば、年に百点を超える注文を受けることもあった。
そのためには工房と分担が不可欠である。
そして注文の記録は、帳簿として残る。
同時代のアメリカの画家が帳簿を残した例については、
別のコラムで扱った。
帳簿を読むと、肖像画が制作ではなく事業として動いていたことが分かる。
姿勢の借用も、その事業の効率と結びついている。
型があれば、迷わずに始められる。
公開分の内訳
最後に数を確かめておきたい。
19点のうち、女性と子どもの肖像が半分以上を占める。
男性の単独像、群像、そして家族の像が残りである。
風景や物語の場面は含まれていない。
つまり公開分はほぼ肖像で構成されている。
肖像画家として大量の注文を受けた画家の、仕事の中心がそのまま現れている。
暮らしへ——姿勢を、絵から借りてみる
最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。
写真を撮るとき、姿勢を絵から借りてみてほしい。
片脚に体重をかけて立つ。壁に肩を預ける。手を腰に当てる。
それだけで、写真の印象が変わる。
まっすぐ立った写真は、証明写真に近くなる。
崩した姿勢は、余裕のある人物に見える。
18世紀の肖像画家が使っていた手が、そのまま使える。
飾るときは、大きな全身像は目線より低い位置に中心を置くと見やすい。
高さの決め方は別のコラムにまとめた。
もう一つ。手に何を持つかを決めてから撮ってみてほしい。
杖、帽子、本、花。持ち物が変わると人物の説明が変わる。
18世紀の肖像は、この仕掛けを丁寧に使っていた。
そして、同じ人を直立と崩した姿勢で撮り比べてほしい。
直立は格式を、崩した姿勢は余裕を示す。
十八世紀の肖像画家が調整していたのは、その二つの配分である。
群として見ると、規格が見える
最後に、見方をまとめておきたい。
19点を寸法で並べると、全身像の規格が浮かぶ。
238×147センチ前後に、複数の作品が集まっている。
価格の等級が、寸法として残っているのである。
数字を並べる作業は、商売の形を教えてくれる。
公開画像は、そのための道具である。
寸法の数字を並べ、規格の存在を確かめられる。
展示室で寸法を書き写す手間は要らない。
数字を集めて比べる作業は、公開記録の得意分野である。










