作品を知る

止まった画面で、動きをどう示すか——ホーマー・キルヒナー・劉節ほか九点

走る人を、上から見る

タブリーズの狼追いの競技(アクバル・ナーマより)
バナヴァリー(一世)《タブリーズの狼追いの競技(アクバル・ナーマより)》1595年から1600年ごろ。館の記録では、紙に樹脂を混ぜた顔料、墨、金。ページ全体35.2×23.8センチ。番号は2003.38。クリーヴランド美術館蔵。バナヴァリー(一世)《タブリーズの狼追いの競技(アクバル・ナーマより)》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、ページ全体の寸法だけを書いている。

35.2×23.8センチである。

前の回で見たムガルの一葉では、画面と縁が別に測られていた。

この一点では、分けられていない。

同じ館の同じ部門でも、記録の細かさが揃わない。

縦長の一葉である。

上のほうに、赤い城壁と建物がある。

塔と、丸屋根が並ぶ。

その手前から、緑と桃色の斜面が広がる。

斜面の上に、人が四十人以上いる。

多くが走っている。

腕を振り、脚を開く。

倒れている人もいる。

中央に、獣が一頭いる。

その周りに、人が集まる。

上のほうの城壁の窓から、人々が見下ろす。

視点は高い。

真上に近い角度から、斜面全体が見える。

館の記録によれば、これは歴史の書物の挿絵である。

亡命中の君主が、ある都で歓待された場面だという。

そして、その席で競技が催されたと記録は書く。

これは館の説明である。

こちらで確かめられるのは、大勢が走っている、ということだ。

高い視点は、動きを見せるのに向いている。

真横から見ると、手前の人が奥の人を隠す。

上から見れば、全員が重ならずに置ける。

四十人以上の姿勢を、一枚に並べられる。

そして、姿勢が全部違う。

同じ形の人が一人もいない。

逃げるという動き

トロイアを逃れるアイネイアスとその一族
アゴスティーノ・カラッチ《トロイアを逃れるアイネイアスとその一族》1595年。館の記録では、エングレーヴィング。版40.6×52.5センチ。紙全体40.7×54センチ。番号は1963.456。クリーヴランド美術館蔵。アゴスティーノ・カラッチ《トロイアを逃れるアイネイアスとその一族》クリーヴランド美術館蔵

版と紙の寸法が、ほとんど同じである。

版が40.6×52.5センチ、紙が40.7×54センチ。

縦は一ミリしか違わない。

つまり、版の縁ぎりぎりで紙が切られている。

余白がほとんど残っていない。

前の回でも、こうした裁断の例を見た。

持ち主が余白を切ることは、珍しくない。

画帖に貼るとき、余白は邪魔になる。

石造りの建物の間である。

左に、太い柱が立つ。

右奥に、崩れかけた建物が見える。

中央に、人物の塊がある。

一人の男が、老人を肩に担いでいる。

老人は、小さな箱のようなものを抱える。

その足元に、子どもがすがりつく。

後ろに、女性が続く。

さらに後ろにも、人がいる。

床には、倒れた人と、割れた石がある。

衣が、全員の後ろへ流れる。

線は細かく、密度が高い。

館の記録によれば、これは古い叙事詩の場面である。

そして館は、この版が別の画家の構図に基づくと書いている。

うねるような構図と、細かい線の網が、次の時代を予告するという。

これは館の見解である。

こちらで確かめられるのは、衣が後ろへ流れている、ということだ。

第十九回で、動きは布で描かれると書いた。

布の話で見たとおり、体はそれほど動かない。

ここでも、動きの大半は衣が担っている。

人物の脚は、実はあまり開いていない。

だが、衣が後ろへ引かれることで、前へ進んでいると読める。

恥じらいのヴィーナス型の水浴、トリトン、逃げる人物の構図(素描帖より)
トマス・サリー《恥じらいの型の水浴、トリトン、逃げる人物の構図(素描帖より)》1810年から20年。館の記録では、紙にインクと淡彩。22.9×29.2センチ。番号は53.182.13裏。メトロポリタン美術館蔵。トマス・サリー《恥じらいのヴィーナス型の水浴、トリトン、逃げる人物の構図(素描帖より)》メトロポリタン美術館蔵

線だけの素描である。

紙の中央に、人物が数人いる。

左に、体をひねった人物が立つ。

その右に、水から出る人物がいる。

さらに右に、腕を上げた人物が走る。

背景に、木らしい線がある。

輪郭は細く、途切れがちである。

濃淡は、薄い淡彩で示される。

館の記録は、番号に「裏」と付けている。

素描帖の一葉の、裏側である。

三つの人物が、それぞれ違う姿勢を取る。

一つの場面というより、姿勢の見本に見える。

第七回で、手だけを並べた紙を見た。

手の話で扱った素描と、性格が近い。

構図を試すための紙である。

走る姿勢も、その中の一つとして描かれている。

走る形を、立体にする

梟の巣を持って走る幼い女サテュロスと梟を持って走る幼いサテュロス(一対の小像)
クロディオン《梟の巣を持って走る幼い女サテュロスと梟を持って走る幼いサテュロス(一対の小像)》1770年代。館の記録では、テラコッタ。全体32.1×14.8×18.1センチ。台を含めて45.1センチ。番号は1944.129。クリーヴランド美術館蔵。クロディオン《梟の巣を持って走る幼い女サテュロスと梟を持って走る幼いサテュロス(一対の小像)》クリーヴランド美術館蔵

二体の小さな像である。

どちらも、円い台の上に立つ。

台は大理石らしい模様を持ち、金色の輪がはまる。

像は、白っぽい焼き物である。

左の像は、腕に丸いものを抱える。

右の像は、片手に小さな鳥らしいものを持つ。

どちらも、片脚を前に出す。

もう片方は、後ろで曲がる。

体は前へ傾く。

腰に、葉のような形の布が巻かれる。

その布が、後ろへ流れる。

走る姿を彫刻にするのは、難しい。

第十一回で書いたとおり、彫刻は立たなければならない。

立つ話で見たとおり、支えの問題がある。

走る姿勢では、片脚しか地面に着かない。

この二体は、後ろの脚も台に触れている。

つま先か、脇の葉の形が、台に達している。

そうやって、二点で支えている。

動きを見せながら、倒れないようにする。

その折り合いが、この形になっている。

組み合う体