作品を知る

紫は、青と赤のあいだで揺れる——ブリオーニ・ターナー・ルンゲほか九点

名前の中の紫、二点

最後の二点で、紫は言葉になる。

ライラック
フィリップ・オットー・ルンゲ《ライラック》1800年から1805年。館の記録では、オフホワイトの簀の目紙を切り抜いた影絵、現代の青い簀の目紙に貼付。紙は39.4×27センチ。番号は2023.120。クリーヴランド美術館蔵。フィリップ・オットー・ルンゲ《ライラック》クリーヴランド美術館蔵

濃い青の紙の上に、白い形が貼られている。

形は一株の植物である。

下から茎が立ち上がり、左右に葉が広がる。

葉は先の尖った楕円で、縁が滑らかである。

葉脈は切られていない。

茎の先には、細かい花の塊がある。

小さな花が幾百と集まり、円錐形をつくる。

一つずつの花びらまで、紙が切り抜かれている。

白と青の二色しかない。

輪郭はすべて刃で切られた線である。

館の記録では、この影絵は一群の切り抜きの一つである。

それぞれが植物や花を、花びらと葉の一枚ずつまで正確に示すという。

そして館は、技法の出どころも書いている。

これは民間に伝わる手わざで、作者は早くに母から習った。

最後には百点を超える作を生み、ときに贈り物にしたという。

この一枚も、ある一家に贈られたものだと記録は書いている。

つまりこの植物の名には紫の含みがあるが、画面は白と青だけである。

そして青い紙は、後から加えられたものである。

館の記録は、現代の青い簀の目紙に貼付と書いている。

つまり作者が選んだ地の色ではない。

もとは別の色の紙に貼られていたか、貼られていなかった。

いま見える白と青の対比は、後の手による。

切り抜きそのものは、白い紙一枚である。

色のない作品が、貼られることで二色になっている。

九点のうち、地の色が後から決められたのは、この一点である。

薄紫の服の少女
ジョン・ブラッドリー《薄紫の服の少女》1840年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は85.7×69.4センチ。番号は1958.9.3。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ジョン・ブラッドリー《薄紫の服の少女》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の肖像である。

85.7×69.4センチある。

背景は暗い褐色で、右に赤い実の付いた木がある。

木は鉢に植えられ、鉢は赤い。

床は緑の敷物である。

その上に、少女が立っている。

顔は正面を向き、目を大きく開いている。

髪は中央で分けられ、頬のあたりで巻いている。

首には、赤い玉の飾りが掛かる。

上半身の衣は、桃色に近い薄い色である。

肩から大きな襟が広がる。

腰から下は黒い前掛けで、その下に薄い色の裾が見える。

手には、小さな籠を提げている。

足もとには、白い猫がいる。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

題には、薄紫という色の名がある。

しかし衣は、桃色に近く見える。

紫という語が指す幅は広く、赤に寄る紫もある。

平らな作りの肖像については、平らな肖像で扱った。

そして絵の具は、時とともに変わる。

赤みの強い顔料は褪せやすく、青が残ることも、その逆もある。

いま桃色に見える衣が、描かれたときは薄紫だったことも考えられる。

ただし、それは記録に書かれていない。

書かれているのは、題と、油彩とカンヴァスであることと、寸法だけである。

数えてみると

九点を並べ直す。

紫が絵の具や釉として置かれているのは、三点である。

聖母の内衣、菖蒲の花、そしてガラスの渦。

光や輝きとして現れるのは、三点である。

靄、夕日、そして鳥の羽と釉の金属。

そして三点では、紫は画面より先に、題と名前の中にある。

もっとも、そのうち二点には薄い紫が実際にある。

まったくないのは、白い切り抜きの一点だけである。

もう一つ数えておく。

九点のうち、紫が青に寄っているのは四点である。

靄、羽、釉、そしてガラス。

赤に寄っているのは、聖母の内衣と、少女の衣である。

同じ紫という語が、青と赤のあいだで揺れている。

そして揺れる幅は、ほかのどの色よりも広い。

菫色、藤色、薄紫、赤紫。

日本語でも、紫を指す語はいくつにも分かれている。

その一つずつが、青と赤のあいだの別の位置を指している。

言えることと、言えないこと

言えるのは、紫が「混ぜて作る色」だということである。

青と赤の配合で、いくらでも位置が変わる。

だから題に紫とあっても、画面がどちらに寄るかは決まらない。

九点のうち二点で、題の紫と画面の色は一致していなかった。

赤や黄や緑では、そこまでの揺れは起きなかった。

言えないのは、紫がつねに高貴な色だという話である。

九点のうち、紫を身分と結び付けて書いた記録は一つもない。

書かれていたのは、作り手に特有の色であること、光の働きであること、そして砕いた金属であることだった。

材料の側から見れば、紫は特別な色ではない。

最後に、はじめの浮き彫りへ戻る。

聖母の外衣は青く、その内側だけが紫である。

外から見えるのは、ごく一部にすぎない。

そして館は、その紫をこの作り手に特有の色と書いていた。

つまり見分けの手がかりは、いちばん見えにくい場所にある。

九点を数え終えて残るのは、その内側の色のほうである。

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