作品を知る

鶴と亀は、名前になって画面から消える——清風与平・陳洪綬・キドールほか九点

西洋の沼に立つ長い脚の鳥は、鶴と呼ばれない

ここで、いちど東アジアから離れる。

コウノトリのいる沼
シャルル・フランソワ・ドービニー《コウノトリのいる沼》1851年ごろ。館の記録では、エッチング。版の跡は15.2×21.6センチ。クリーヴランド美術館蔵。番号は1920.674。シャルル・フランソワ・ドービニー《コウノトリのいる沼》クリーヴランド美術館蔵

黒い線だけで刷られた沼の絵である。

画面の右半分を、大きな木が一本占めている。

幹は太く、枝は四方に伸び、葉は細かい点の集まりで表されている。

左には低い茂みが続き、その向こうに水が光る。

空は白く残され、そこに小さな鳥が十数羽、点のように散っている。

水辺にも、細い脚の鳥が何羽か立っている。

首を伸ばしたもの、水面に頭を下げたものが混じる。

一羽ずつは、数ミリの黒い印にすぎない。

館の記録では、この版の題は「コウノトリのいる沼」である。

同じ形の鳥を、東アジアなら鶴と呼びうる場面である。

しかし記録は鸛と呼び、鶴とは呼ばない。

首が長く、脚が細く、水辺に立つ鳥という点では変わらない。

呼び名だけが、土地によって別のものになる。

そして呼び名が変わると、意味も変わる。

東アジアの鶴には千年の寿命が付いていた。

西洋の沼の鸛には、そうした札が付いていない。

館の記録は、この版の主題を長寿とは説明していない。

説明しているのは、署名の位置だけである。

版の左下に、作者みずからが下絵も彫りも行ったと記してあるという。

同じ画家が舟を画室にしたことは、舟を画室にするで扱った。

沼に立つ鳥は、そこでは主題ではなく、水辺の点である。

亀は、子どもに抱かれ、水を吐く

鶴から亀に移る。

亀を抱く幼子
イーディス・バレット・スティーヴンス・パーソンズ《亀を抱く幼子》1910年から16年ごろ。館の記録では、ブロンズ。高さ104.2センチ。番号は1923.724。クリーヴランド美術館蔵。イーディス・バレット・スティーヴンス・パーソンズ《亀を抱く幼子》クリーヴランド美術館蔵

ブロンズの立像である。

裸の幼い子どもが、丸い球の上に立っている。

両手を体の前で下げ、それぞれに何かを握っている。

握られているのは亀である。

甲羅の縁と、突き出た頭が見分けられる。

子どもは顔を少し下げ、口を結んでいる。

足もとの球にも、亀が回るように並んでいる。

高さは104.2センチ。

大人の腰ほどの背丈になる。

館の記録では、作者は幼い子どもと動物の組み合わせで名を知られた。

庭に置く彫刻を多く作ったという。

この《亀を抱く幼子》は、その中でもっとも知られた構図だと記録は書く。

女の子の姿は、作者自身の娘をもとにしたという。

そして、この像は噴水として構想された。

内部に水の通り道があり、台座を巡る四匹の亀の口から水が出る。

館の記録は、そう説明している。

つまりこの亀は、長寿のしるしではない。

水を出すための口として選ばれている。

亀は口が小さく、首が前に伸び、水を細く飛ばすのに向いている。

めでたさではなく、形の都合で選ばれた亀である。

亀は、狩られる

さらに用途の側へ寄った一点がある。

亀狩り
ジョージ・カトリン《亀狩り》1854年から1869年。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は45.5×61.1センチ。番号は1965.16.259。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ジョージ・カトリン《亀狩り》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

暗い画面である。

上半分は黒々とした木の茂みで埋まっている。

葉は幅広く、垂れ下がり、熱帯の林であることを示す。

下半分に、明るい灰色の水面が横に広がる。

水と林のあいだの浅瀬に、人が十数人立っている。

みな裸に近い姿で、腰を落とし、前かがみになっている。

手には棒のようなものを持つ者がいる。

水面には、丸く黒いものがいくつも浮かんでいる。

亀である。

人と亀の大きさは、ほとんど変わらない。

館の記録では、題は「亀狩り」である。

作者のカトリンは、北米と南米の先住民の姿を大量に描いた画家である。

この一点も、その仕事の一部にあたる。

記録は、制作の年を1854年から1869年のあいだと幅で示している。

一年に絞れていない。

カトリンの絵は、記録という言葉が何を指すかを考えさせる。

その点は「記録」という言葉を疑うで扱った。

ここで確かめておきたいのは、亀の役どころである。

この画面の亀は、長寿でも装飾でもない。

食べるために追われている。

九点のうち、亀が食べものとして出てくるのは、この一点だけである。

亀は、家具の表面になる

ここから、生きものではない鶴と亀に入る。

キャビネット
アンドレ=シャルル・ブール《キャビネット》1690年ごろ。館の記録では、黒檀に金属と亀甲の象嵌。全体は101.3×117.6×50センチ。番号は1949.539。クリーヴランド美術館蔵。アンドレ=シャルル・ブール《キャビネット》クリーヴランド美術館蔵

黒い箱形の家具である。

正面は上下五段に分かれ、左右に引き出しが並ぶ。

中央には扉が一枚あり、そこだけ赤茶色に光っている。

扉の中央に、金色の丸い飾りがはめ込まれている。

引き出しの前板にも、金色の細い模様が渦を巻いている。

天板の縁は金色の帯で囲まれ、脚は丸く太い。

赤茶色に見える部分が、亀の甲である。

館の記録では、作者は1672年にフランス王の指物師に任じられた。

象嵌の技で知られ、金属の模様を亀甲に嵌め込み、それを家具の表面に貼ったという。

その水準に並ぶ者は少なかった、と記録は書く。

中央の飾りには王の肖像が入っており、持ち主を宮廷に結び付けたと記録は読む。

そして館は、もとはもっと高い台の上に載る形だったと付け加える。

18世紀の終わりに、寸法を詰めるために作り替えられたらしいという。

ここでの亀は、生きものではない。

甲羅という素材の名前である。

亀は千年ではなく、家具の表面として何百年かを過ごしてきた。

意匠した人と作った人の関係については、意匠した人と、作った人で扱った。