美術史・技法

茶屋は静かで、宿屋は暗い——俊満・オスターデ・スローンほか九点

立ち寄る場所には、知らない人が居合わせる。九点で数えると、器や杯があるのは六点だった。日本の茶屋は明るく人が少なく、ヨーロッパの宿屋は暗く人が多い。床の高さが姿勢を決めている。店の名が読めるのは二点だけである。

宿屋の踊り
アドリアーン・ファン・オスターデ《宿屋の踊り》クリーヴランド美術館蔵

宿屋の土間で、人が踊っている

一枚の銅版画に、宿屋の内部がある。

館の記録に、寸法の欄はない。

画面は横長である。

天井は低く、太い梁が渡る。

梁からは、布や道具が下がる。

奥の壁には、大きな暖炉がある。

火が焚かれ、その前に人が集まる。

画面の中央、土間の広いところで、二人が踊っている。

一人は腕を上げ、脚を曲げる。

もう一人は、手を差し出す。

その周りに、人が二十人以上いる。

座る人、立つ人、酒を飲む人がいる。

右のほうには、卓を囲む一団がある。

左には、樽と桶が積まれる。

手前の床には、器と道具が転がる。

犬らしい影も見える。

線は細かく、無数に刻まれている。

床の敷石の目地まで描かれている。

館の記録の題は、宿屋の踊りという。

宿屋の踊り
アドリアーン・ファン・オスターデ《宿屋の踊り》1652年。館の記録では、エッチング。番号は1943.608。クリーヴランド美術館蔵。アドリアーン・ファン・オスターデ《宿屋の踊り》クリーヴランド美術館蔵

宿屋も茶屋も、人が立ち寄る場所である。

住む場所ではなく、通りすがりに使う場所だ。

だから、そこには知らない人同士が居合わせる。

九点を並べて、その居合わせ方を数えたい。

東と西で、場所の性格が違う

集めかたは、館の記録の題によっている。

宿、茶屋、旅籠、酒場にあたる語が入るものを拾った。

九点のうち、日本の版画が二点。

ヨーロッパとアメリカの作品が、七点である。

そして、場所の性格がはっきり分かれた。

日本の二点は、茶屋である。

静かで、人数が少ない。

ヨーロッパの五点は、宿屋か酒場である。

賑やかで、人数が多い。

残る二点は、聖書の場面と、地下の酒場だった。

茶屋の、静かな二点

日本の二点を見たい。

一点目は、紙が33×23センチ。

縦長の画面である。

画面の下のほうに、縁台がある。

その上に、女性が三人いる。

一人は立ち、二人は腰かけている。

いずれも大きな模様の衣を着る。

一人は、湯呑らしいものを手にする。

縁台の前には、草履が並ぶ。

奥には、簾を巻き上げた建物がある。

上のほうには、庇と、鳥の群れが小さく描かれる。

色は灰と淡い緑と淡い紫である。

館の記述によれば、この画家は静かな色の調和を好んだ。

そして、風景のなかに人物を置くことが多かったという。

館はさらに、この画家が版画のほかに絵も詩も手がけたと書く。

金属の象嵌や漆の仕事もしたという。

茶屋の女たち
窪俊満《茶屋の女たち》1780年代後半。館の記録では、多色木版。紙は33×23センチ。番号は1930.208。クリーヴランド美術館蔵。窪俊満《茶屋の女たち》クリーヴランド美術館蔵

二点目は、26.7×19.1センチ。

こちらも縦長である。

画面の中央に、朱塗りの棚がある。

棚には、丸い器が載る。

その左に、女性が一人立つ。

手を伸ばし、器に触れている。

右には、もう一人が腰かける。

膝を立て、こちらを見ている。

二人とも、長い裾を引いている。

上のほうには、暖簾が下がる。

暖簾には、大きな文字と印が染められている。

館の記録の題によれば、それが店の名である。

床は板張りで、細い線が引かれている。

つまり、店先の場面である。

伊勢屋の茶屋
磯田湖龍斎《伊勢屋の茶屋》1773年頃。館の記録では、木版、紙に墨と色。26.7×19.1センチ。番号はJP890。メトロポリタン美術館蔵。磯田湖龍斎《伊勢屋の茶屋》メトロポリタン美術館蔵

宿屋の、賑やかな三点

ヨーロッパの三点を見たい。

一点目は、いま見た版画である。

二点目は、板絵である。

額なしで37.2×26.3センチ。

縦長の小さな画面である。

画面の中央に、三人の男がいる。

一人は赤い上着で、樽に腰かける。

長い管を持ち、煙を吸っている。

その右の男は、椅子に深く沈んでいる。

頭を後ろへ倒し、口を開けている。

もう一人は立って、管に何かを詰めている。

そして、座った男を見て笑っている。

床には、水差しと器がある。

奥の壁には、棚と、掛けた道具がある。

館の記述によれば、これは煙草を吸う場面である。

当時、煙草は新しい輸入品だった。

薬として効くと信じられていたという。

そして館は、頭を倒した男の姿が吸いすぎを示すと書く。

つまり、この画面には笑いがある。

宿屋で煙草を吸う農民たち
ダフィット・テニールス《宿屋で煙草を吸う農民たち》1640年頃。館の記録では、板に油彩。額なしで37.2×26.3センチ。番号は1916.1046。クリーヴランド美術館蔵。ダフィット・テニールス《宿屋で煙草を吸う農民たち》クリーヴランド美術館蔵

三点目は、油彩である。

全体で97.8×102.2センチ。

ほぼ正方形の画面である。

画面の右に、建物の壁と扉がある。

その前に、人が二十人ほど集まっている。

座る人、立つ人、子どもを抱く人。

一人は樽に腰かけ、器を持つ。

手前には、犬が一匹寝ている。

左のほうには、崩れた塔らしい建物がある。

さらに左は、開けた土地と木立である。

空は上のほうが暗く、雲が広がる。

館の記録の題は、宿屋のそばの宴という。

つまり、屋外の場面である。

宿屋は、右の建物だろう。

館の記録に、記述の欄はない。

宿屋のそばの宴
コンスタンティン・ファン・レネッセ《宿屋のそばの宴》1650年代前半。館の記録では、油彩・カンヴァス。全体97.8×102.2センチ。番号は2014.136.42。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。コンスタンティン・ファン・レネッセ《宿屋のそばの宴》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

四点目は、素描である。

紙は19.8×31.3センチ。

横長の画面である。

画面の中央に、踊る人が数人いる。

いずれも仮装らしく、衣が大きく広がる。

腕を上げ、脚を交差させている。

その周りに、見物の人が座る。

女性は白い衣で、髪を高く結う。

奥には、木立と、吊るした灯りがある。

灯りは丸く、数個並ぶ。

線は速く、淡彩が薄く置かれる。

館の記録の題によれば、庭の居酒屋での催しである。

制作は1756年である。

つまり、屋外に設けられた酒場の場面である。

庭の居酒屋で踊る仮装の踊り手たち
ガブリエル・ド・サン=トーバン《庭の居酒屋で踊る仮装の踊り手たち》1756年。館の記録では、筆と茶・灰の淡彩、グワッシュ、水彩、黒鉛の跡。紙は19.8×31.3センチ。番号は1966.124。クリーヴランド美術館蔵。ガブリエル・ド・サン=トーバン《庭の居酒屋で踊る仮装の踊り手たち》クリーヴランド美術館蔵