山は、七点で無彩色だった——ビッソン・八大山人・チャーチほか九点
山は大きすぎて、全体と細部の両方は描けない。九点で数えると、七点が墨か黒鉛か白黒の画面である。高さの示し方は三通りあり、数字で書かれたのは写真の一点だけだった。偽の署名も一点ある。雪の線が入るのは二点しかない。

雪の稜線が、画面を斜めに横切っている
一枚の写真に、雪の山がある。
画面は23.2×39.2センチ。
台紙まで含めると50.8×61センチになる。
横に長い画面である。
画面の中央から右へ、黒い岩の峰が並ぶ。
峰は鋭く尖り、雪が付いていない。
その左と下は、一面の雪と氷である。
氷は割れていて、大きな段が幾つもできている。
段の縁は白く光り、影は灰色である。
手前の斜面は、緩やかに下っていく。
その表面にも、細かい亀裂が走る。
空は白く飛んでいる。
雲か霧か、判別できない。
人は一人も写っていない。
館の記述によれば、この山の高さは四千メートルを超える。
そして、初めて頂上に人が立ったのは、この写真の十八年後だった。
つまり撮影の時点で、この頂は未踏だった。
館の記述は、撮影の困難にも触れている。
重いガラスの原板と、持ち運べる暗室を担いで登った。
低い気温のなかで、薬品を手早く扱う必要があった。
そこまでして撮られた一枚である。

山は、いちばん大きな地形である。
近くからは全体が見えず、遠くからは細部が見えない。
だから山の絵は、必ずどちらかを捨てている。
全体の形を取るか、岩と雪の質感を取るか。
九点を並べて、その選び方を数えたい。
山は、どこから見られているか
集めかたは、館の記録の題によっている。
山、峰、山中、山水にあたる語が入るものを拾った。
九点とも、山が描かれている。
外れは一点もなかった。
まず、見る位置を数えたい。
麓から見上げているのが、四点。
山の中腹にいるのが、三点。
山を遠景として置いているのが、二点である。
見上げている四点では、山が画面の上端まで届く。
中腹の三点では、手前に岩や木があり、その先が谷になる。
遠景の二点では、山は水平線の上の低い帯になる。
同じ山でも、立つ位置で形が変わる。
東アジアの山は、縦に積み上がる
掛幅の二点を見たい。
一点目は、中国の水墨である。
画面は109.9×56.4センチ。
軸の端まで含めると247.7×84.5センチになる。
二メートル半近い。
画面は縦に細長い。
下のほうに、岩と木がある。
木は数本で、枝が横へ張る。
その上に、岩の塊が積み上がる。
さらにその上に、別の峰が重なる。
いちばん上の峰は、白く残されている。
雪ではなく、紙の地である。
筆は速く、輪郭は途切れる。
墨の濃淡だけで、遠近が作られている。
右上に、書き込みと印がある。
館の記録によれば、画家は十世紀の画家に倣ったと書いている。
ところが館は、そこに注記を付けている。
両者のあいだに、様式の関係はほとんど見当たらない、と。
倣うと書いてあっても、実際に似ているとは限らない。
館は、その食い違いを記録に残している。

二点目は、日本の掛幅である。
画面は138.5×64.2センチ。
表装を含めると192.2×70.7センチになる。
こちらも縦長で、山が上へ積み上がる。
下のほうに、水面と小さな橋がある。
橋の上に、人影が二つ見える。
その上に、木立と岩が重なる。
さらに上に、丸い峰が並ぶ。
墨は濃く、点を重ねて葉を示す。
淡い赤が、ところどころに置かれる。
秋の色だろう。
右上に、書き込みと印が二つある。
左下にも、印が一つある。
館の記述によれば、この画家は武士だった。
役目を辞して各地を巡り、書と兵学と絵と詩を学んだという。
そして館は、この人が戦いで死んだことも書いている。
制作の翌年である。

山の中の出来事
山が場面の舞台になった例を見たい。
一点目は、木版である。
館の記録に、寸法の欄はない。
画面の上のほうに、岩の斜面がある。
斜面には、細い木が生えている。
その岩の上に、人物が跪いている。
両手を上げ、上を見ている。
上の左には、光の輪と杯のようなものが浮かぶ。
画面の下には、三人が横になっている。
眠っているらしい。
衣の襞が、太い線で刻まれる。
右上には、遠くの岩山と、小さな人の列が見える。
これは、聖書の場面である。
前に見た四十枚の連作の一枚だった。
この回では、園を扱ったときに同じ場面の別の作を取り上げている。
そちらは板絵と石の浮き彫りだった。
同じ場面が、木版でも作られている。
なお、館の記録の題には綴りの誤りがある。
人名の綴りが入れ替わっている。
館は、それをそのまま公開している。

二点目は、素描である。
画面は20.8×32.2センチ。
横長で、茶色のインクと淡彩で描かれている。
画面の左に、大きな木が立つ。
その右に、岩の塊が斜めに積み上がる。
岩の上には、小さな建物が見える。
中央から右へ、低い谷が広がる。
谷には、人が数人いる。
いずれも小さく、輪郭だけである。
空には、青と灰色の淡彩が置かれる。
館の記録には、注意すべき記述がある。
署名が偽であると明記されているのである。
しかも、その署名は別の紙に書かれ、台紙に貼られている。
つまり、後から誰かが作者の名を足した。
館は、それを消さずに記録している。
さらに、台紙の裏に書かれた数字も写している。
二、四十、三十七といった数字である。
誰が、いつ書いたかは分からない。