花は、置かれる場所が決まっている——器・縁・隙間・頭の上ほか九点
六つの置き場所
九点を並べて、花の置き場所を整理したい。
第一に、器の表面である。
花瓶と皿の二点が、これにあたる。
曲面に沿って、花が描かれる。
第二に、画面の縁である。
刺繍見本と皿が、これにあたる。
中央を空けて、外周に並べる。
第三に、隙間である。
二点の鐔が、これにあたる。
区画の余りに、小さく入れる。
第四に、脇役の位置である。
獲物図と虫の本が、これにあたる。
主題のとなりに置いて、色や支えの役をする。
第五に、身につける位置である。
肖像画の一点が、これにあたる。
頭に載せて、その人が誰かを示す。
そして第六に、主題そのものである。
版画の一点だけが、これにあたる。
花のためだけに画面がある。
つまり、九点のうち八点で、花は従属している。
これは偶然ではないだろう。
花は形が小さく、輪郭が丸い。
だから、どこにでも置ける。
大きな主題のとなりに入れても、邪魔にならない。
そして、色を自由に選べる。
赤でも白でも黄でも、不自然にならない。
この二つの性質が、花を装飾の第一の材料にした。
記録の題に、花が入るか
九点の題を確かめたい。
花の名が入っているものは、二点である。
版画の一点と、肖像画の一点。
版画は撫子と藤袴の名を題にしている。
肖像画は花の女神の名を題にしている。
残る七点には、花の語がない。
花瓶、鐔、獲物図、刺繍見本、皿、虫の本。
いずれも、種別か主題の名である。
つまり、記録の上では、花はほとんど現れない。
第十八回で、題の付け方について何度も書いた。
題は、その品の最も重要な特徴を示す。
花が装飾にとどまる限り、題には入らない。
そして、これは検索の問題になる。
花の語で記録を絞ると、二点しか出ない。
残る七点には、確かに花があるのに、である。
見えているものと、書かれていることが一致しない。
第十七回で、この差について書いた。
記録は品の全部を書き取るわけではない。
主要な特徴だけを書く。
だから、装飾の細部は落ちる。
そして、落ちたものを探すには、画像を見るしかない。
九点を並べたのは、そのためである。
花瓶に花がない
最後に、最初の一点へ戻りたい。
濃い青の花瓶である。
これは花を生けるための器である。
だが、写真のなかで、花は生けられていない。
代わりに、胴の外側に描かれている。
つまり、この器は花を二重に扱っている。
用途としては、花を受け入れる。
装飾としては、花を身にまとう。
そして、館の写真では、後者だけが見える。
これは記録の写真の作法である。
第十五回で書いたとおり、品は単独で撮られる。
使われている状態では撮らない。
だから、花瓶はいつも空である。
そして、空の花瓶に描かれた花だけが残る。
九点を通して、花の置き場所を数えてきた。
器の表面、画面の縁、隙間、脇、頭の上、そして主題。
そのどこにも、生けられた花はなかった。
生きた花が絵に入るのは、切り取られたときである。
版画の撫子は、根がない。
肖像画の花冠も、摘まれたものである。
獲物図の花だけが、地面に生えている。
そして、その花のとなりには、死んだ鳥が積まれていた。
花の色
九点のうち、色が分かるのは七点である。
皿の一点は白黒写真で、色が分からない。
鐔の一点も、金属の色だけである。
残る七点で、花の色を見たい。
花瓶では、金と白。
版画では、赤と白。
獲物図では、橙。
刺繍見本では、赤茶。
虫の本では、白。
肖像画では、白と赤。
つまり、赤と白が多い。
青い花はどこにもない。
これは自然の花の分布にも近い。
青い花はもともと少ない。
そして、顔料の問題もあるだろう。
第十三回で、青い顔料が高価だったと書いた。
小さな装飾に使うには惜しい色である。
だから、装飾の花は赤か白になりやすい。
そして、金も使われる。
花瓶の花は金である。
鐔の花も金である。
金属や磁器では、色より輝きが選ばれている。
大きさの幅
九点の寸法を並べたい。
いちばん大きいのは、獲物図である。
一三四掛ける一一一・一センチ。
次が肖像画で、一〇〇掛ける九一・八センチ。
次が刺繍見本で、四三・二掛ける三六・八センチ。
次が版画で、三七・八掛ける一二・九センチ。
次が虫の本で、二六・七掛ける一八・四センチ。
花瓶は高さ二三・七センチ。
鐔は八・三センチと八・三センチ。
皿は直径一〇・二センチ。
つまり、上と下で十六倍ほどの差がある。
そして、大きさと花の扱いに関係がある。
大きい二点では、花は隅か頭にある。
小さい四点では、花が面積の多くを占める。
面が狭いほど、花の比率が上がる。
これは当然のようだが、意味がある。
小さな品を飾るとき、大きな主題は入らない。
人物も風景も、縮めれば読めなくなる。
花なら、縮めても花に見える。
だから、小さな面ほど花が選ばれる。
第十八回で、刀装具の意匠を数えたときも同じだった。
部門をまたぐ
九点の所属部門を確かめたい。
米国部門が二点。
花瓶と皿である。
アジア部門が二点。
版画と虫の本である。
武具部門が二点。
二点の鐔である。
欧州絵画部門が二点。
獲物図と肖像画である。
欧州彫刻装飾美術部門が一点。
刺繍見本である。
つまり、五つの部門にまたがる。
そして、年代も広い。
いちばん古いのが十六世紀後半の鐔。
いちばん新しいのが一八八〇年代の花瓶。
三百年ほどの幅がある。
地域も、日本、オランダ、英国、米国に及ぶ。
それでも、花の置き方は似ている。
縁を埋め、隙間を埋め、主題の脇に添う。
第十七回で、部門をまたぐ比較について書いた。
異なる文化で同じ扱いが現れるとき、理由は形にある。










