子どもらしい体の比は、半分に満たない——カラッチ・ルーティ・ドゥカンほか九点
子どものための道具

九点の最後は、人が描かれていない。
小さな銀の杯である。
高さ7.3センチ、把手を含めて8.9センチ。
胴は、まっすぐな筒である。
上下の縁に、細かい打ち出しの帯がある。
把手は、角ばった形で外へ張り出す。
胴の面に、模様が彫られている。
小さな図と、書き込みの跡らしいものがある。
底は、少し広がる。
館の記録は、重さまで書いている。
68.3グラムである。
九点のうち、重さが記録にあるのはこの一点だけだ。
銀の品では、重さが値段に関わる。
だから、記録に残る。
第十三回で、記録の欄の違いを扱った。
分野によって、書かれる欄が違う。
この杯は、子どものために作られた品である。
大きさが小さい。
そして、把手が付いている。
手の小さい人が持てるようにしてある。
つまり、道具の寸法が使う人の体を示している。
九点のうち、子どもの体の大きさが数字で分かるのは、この一点だけである。
子どもは、何をしているか
九点で、子どもの行為を数えた。
飲んでいるのが一点。
立って正面を向くのが二点。
座って何かをするのが一点。
遊んでいるのが一点。
歩いているのが一点。
抱かれているのが二点。
そして、行為のないものが一点。
つまり、行為は散らばっている。
第二十一回で、働く人を数えた。
働く話では、道具が職業を示していた。
子どもの絵では、働く姿が一点もない。
これは、選び方のせいかもしれない。
だが、九点のどれにも、労働は描かれていない。
食卓に座る一点でも、手元は分からない。
遊ぶ一点では、布を持って走っている。
つまり、子どもは遊ぶか、抱かれるか、立っているかである。
そして、立つ二点は肖像だった。
肖像なら、こちらを見て立つ。
第二回で、肖像の視線を数えた。
視線の話では、目が合うのは半分だった。
この回では、九点のうち三点で目が合う。
いずれも、肖像か、それに近い一点である。
大人と子どもを、どう見分けるか
画像だけで子どもと分かるかを、確かめてみた。
いちばん確かな手がかりは、大人との比較である。
隣に大人がいれば、背丈の差で分かる。
九点のうち、大人が同じ画面にいるのは四点だった。
抱かれる二点と、歩く一点と、遊ぶ一点である。
大人がいない五点では、判断が難しくなる。
頼りになるのは、顔の作りである。
額が広く、頬が丸く、顎が細い。
目が顔の下寄りにある。
そういう特徴があれば、子どもらしく見える。
九点のうち、その特徴を持つのは三点だった。
残る二点は、顔だけでは判断がつかない。
そして、衣が手がかりになることもある。
短い袴や、子ども用の服がそれである。
だが、この時代の子どもは大人と同じ形の服を着ていた。
九点のうち、全身の肖像を見ると、上着も袴も大人と同じ形である。
小さいだけである。
だから、衣は決め手にならない。
結局、大きさと顔の作りに戻ることになる。
館の記録は、そこには触れない。
題に「少年」「娘」と書かれているだけである。
九点を並べて、数えられたこと
子どもが描かれるのは八点。
道具だけが一点である。
年齢の幅も広い。
幼児が二点。
十歳前後に見えるものが四点。
判別しにくいものが二点。
体の比を数えた。
頭が体に対して大きいものが三点。
大人に近い比のものが四点。
判別できないものが一点。
つまり、子どもらしい比で描かれるのは半分に満たない。
材料も数えた。
板が一点、布が二点、紙が四点、銀が一点、そして水彩が一点。
大きさの幅は、7.3センチから196.2センチまで。
二十七倍の差がある。
記録に書かれていないこと
館の記録は、年齢を書かない。
九点のどの記録にも、何歳かは書かれていない。
「少年」「娘」「子どもたち」「幼子」。
いずれも、おおまかな語である。
そして、名前も残らない。
九点のうち、名前が分かる子どもは一人もいない。
第二十回でも、同じことを書いた。
肖像として描かれた一点でさえ、作者も、描かれた子も分からない。
もう一つ、記録が書かないことがある。
その子がどうなったか、である。
肖像は、ある年齢の姿を止める。
その先は、絵の外にある。
九点のうち、成長したあとが分かる例は一つもない。
第十九回で、絵は一瞬しか描けないと書いた。
子どもの絵では、その一瞬がとくに短い。
子どもは、すぐに変わるからである。
館の記録が書くのは、描かれた時点の姿だけである。
そして、子どものために作られた品は、九点に一つしかなかった。
その一点は、銀の杯である。
大きさも重さも記録に残っている。
つまり、子どもの体に合わせて作られたことが、数字で分かる。
絵の八点では、そこまで分からない。
描かれた子の背丈も、体重も、記録にない。
画面の中の比から推し量るしかない。
そして、その比は正確とはかぎらない。
九点のうち、体の比が子どもらしいのは三点だけだった。
次の回は、鏡に映った顔を見る。
もう一つの顔が、画面に現れる。










