美術史・技法

顔が、通貨になるとき——ローマの貨幣とフランクリンの円板

功績を刻む——大西洋横断ケーブルのメダル

19世紀の後半になると、メダルの主題が変わってくる。

大西洋横断ケーブル敷設成功に対するサイラス・W・フィールドへの議会メダル
ウィリアム・バーバー《大西洋横断ケーブル敷設成功に対するサイラス・W・フィールドへの議会メダル》1868年。銅・金箔。直径10.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・バーバー《大西洋横断ケーブル敷設成功に対するサイラス・W・フィールドへの議会メダル》メトロポリタン美術館蔵

直径10センチの大型メダルである。

中央に髭の男性の胸像。顔は左を向いている。

その上に、手が花冠を差し出している。冠の下に稲妻のような線が走る。

胸像の下は海である。波が横縞で刻まれ、左右に帆船が浮かぶ。

上の縁に「HONOR AND FAME ARE THE REWARD」と読める。名誉と名声が報酬であるという意味だ。

主題は人ではなく、事業である。海底に電線を通した仕事への報奨である。

顔は、その事業の代表として置かれている。

海の描写に注目したい。波が同じ間隔の横線で刻まれている。

その下に、細い文字が二段。事業の完成を述べた文である。

海底の電線という見えないものを、どう図にするか。答えは「海面」だった。

見えない仕事を、見える風景で代表させている。

顔と同じ働きである。代表するものを一つ選び、残りを省く。

もう一つ、来歴が面白い。

所蔵館の記録は、このメダルが1892年に「サイラス・W・フィールドの寄贈」で入ったと記す。

受け取った本人が、美術館に納めている。

顔を刻まれた人が、その顔を公共の収蔵品にした形である。

1892年、上陸の場面を選ぶ

万国コロンブス博覧会記念授与メダル
オーガスタス・セント=ゴーデンズ《万国コロンブス博覧会記念授与メダル》1892〜1894年(鋳造は1896年までに)。ブロンズ。直径7.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。オーガスタス・セント=ゴーデンズ《万国コロンブス博覧会記念授与メダル》メトロポリタン美術館蔵

ここでは顔が消えている。

画面いっぱいに、上陸する男の全身像がある。マントを羽織り、右手を前に出し、左手に旗の柄を握る。

背後に人物が二人、うずくまるように控えている。

右上に「CHRISTOPHER COLVMBVS OCT XII MCCCCXCII」の銘。

1492年10月12日、上陸の日付である。

制作は上陸から400年の記念事業のためだった。同じ博覧会には、
前回のコラムで扱ったガラス工房も内装を出している。

肖像ではなく場面を選んだことに、注意しておきたい。

肖像は「誰か」を刻む。場面は「何が起きたか」を刻む。

そして場面の選び方には、語り手の立場が出る。

このメダルは、博覧会の受賞者に授与するために作られた。

つまり受け取る人は、上陸の場面を「褒美」として受け取ることになる。

歴史の一場面が、賞の記号として配られる仕組みである。

この構図で描かれていないのは、上陸を迎えた側の視点である。

1907年、彫刻家が硬貨を作る

最後に、メダルの作り手が硬貨に戻ってくる例を見たい。

アメリカ合衆国20ドル金貨
オーガスタス・セント=ゴーデンズ《アメリカ合衆国20ドル金貨》原型1905〜1907年、金貨は1911年鋳造。金。直径3.3センチ。メトロポリタン美術館蔵。オーガスタス・セント=ゴーデンズ《アメリカ合衆国20ドル金貨》メトロポリタン美術館蔵

直径3.3センチ。厚みのある金貨である。

女性の全身像が、正面を向いて歩み出ている。

右手に松明、左手に橄欖の枝。背後から放射状の光が伸びる。

足元の左に小さな建物。議事堂の円屋根である。右に年号「1911」。

上の縁に「LIBERTY」。自由の擬人像である。

前のページで見たメダルの作者と、同じ彫刻家の仕事である。

19世紀末のアメリカで最も評価された彫刻家が、通貨の図案を引き受けた。

浮彫は高い。人物の胸や膝が、はっきり盛り上がっている。

初期の型は浮彫が高すぎ、量産の打刻に向かなかったと説明されることが多い。

美術としての立体感と、機械で大量に打つ都合が、正面からぶつかった例である。

アメリカ合衆国10ドル金貨
オーガスタス・セント=ゴーデンズ《アメリカ合衆国10ドル金貨》原型1906〜1907年、金貨は1910年鋳造。金。直径2.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。オーガスタス・セント=ゴーデンズ《アメリカ合衆国10ドル金貨》メトロポリタン美術館蔵

同じ彫刻家による、もう一つの金貨である。

横顔が左を向いている。頭には羽根の並んだ冠。

冠の帯には文字が刻まれ、周囲に星が13個並ぶ。下に年号「1910」。

この横顔は、特定の人物ではない。自由の擬人像である。

そこに先住民の羽根冠をかぶせた図像になっている。

大統領の提案によるものと説明されることが多い。

ここは事実を並べておきたい。

先住民の多くが合衆国の市民権を得るのは、1924年の法律による。

つまりこの図像が作られた時点で、羽根冠の元になった人々の多くは市民ではなかった。

その意匠が、国の通貨の顔として使われている。

美しい図案であることと、この事実は両立する。両方を見ておきたい。

顔は、記号として選ばれる

まとめておきたい。

貨幣とメダルの顔は、肖像画とは働きが違う。

肖像画は、その人に似ていることを求められる。

貨幣の顔は、似ていることよりも、何を代表するかを求められる。

神、王、大統領、事業、そして国そのもの。

だから顔は記号になる。そして記号は、誰かが選ぶ。

三つの機能に戻ってみたい。

保証は、いまも働いている。紙幣に中央銀行の名が入るのは同じ理屈である。

宣伝の役目は、印刷と写真に移った。硬貨で人を知らせる必要は薄れた。

残ったのは記憶である。金属は残る。図案は選ばれた時代の考え方を保存する。

1907年の金貨が今も語りかけてくるのは、そこに当時の選択が固まっているからだ。

選んだのは誰か。それを刻んだのは誰か。渡されたのは誰か。

硬貨とメダルは、その三つを金属の上に残している。

しかも、小さく、硬く、大量にある。

だから記号としての顔は、絵画の肖像よりずっと長く生き延びる。

複製される顔がどう作られたかは別のコラムでも扱った。

暮らしへ——財布の中の顔を、数えてみる

最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。

財布を開けて、顔がいくつあるか数えてみてほしい。

紙幣の肖像、硬貨の図像、カードの記号。

紙幣なら、肖像のほかに建物や植物も入っている。

図案の要素は、たいてい四つか五つに絞られている。

そのうえで、二つ考えてみる。

この顔は誰が選んだのか。そして、いつ選ばれたのか。

紙幣の顔は、二十年ほどの間隔で入れ替わる。入れ替えのたびに、選ぶ人がいる。

昔の硬貨が手に入ったら、縁の文字を読んでみるのも面白い。

年号と発行者が、たいてい小さく刻まれている。

飾るなら、小さな金属の物は目の高さの棚に置き、斜めから光を当てる。

浮彫は影で見える。真正面の光では、顔が平らに潰れてしまう。

斜めの光を当てて、少し首を動かしてみてほしい。

影の向きが変わるたびに、同じ顔が別の表情に見える。

平面の絵にはない見方である。金属の顔は、光で変わる。

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