画家を知る

見たものと、読んだもの——ドラクロワの主題

色を、隣り合わせで置く

色の扱いも確かめたい。この画面では、白い衣のすぐ隣に赤い帯が置かれる。

暗い馬体の隣に、明るい布が来る。強い色を隣接させ、対比で目を引く方法である。

補色の関係を意識した色使いについては、
別のコラムで扱った。

半世紀後の画家が理屈として整理したことを、ここでは感覚として使っている。

出典は、詩である

この場面の出典を確かめたい。題名にあるジャウールとハサンは、
イギリスの詩人バイロンの物語詩に登場する人物である。

つまり、画家が見た場面ではない。読んだ物語から、想像で組み立てた画面である。

19世紀のフランスでは、文学を主題にした絵が数多く描かれた。

読者と観客が同じ物語を知っていれば、絵は説明なしに通じる。

型を共有することの効果は、別のコラムでも扱った。

遠い土地の戦闘

同じ系統の、別の一点を見たい。

山中で戦うアラブ人たち
ウジェーヌ・ドラクロワ《山中で戦うアラブ人たち》1863年。油彩・画布。縦92.5センチ、横74.5センチ。額を含めて縦121.3センチ、横103.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《山中で戦うアラブ人たち》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の画面である。縦92.5センチ、横74.5センチ。

画面の上部に山があり、頂に城砦らしき建物が立つ。空は青く、雲が白い。

中景の斜面に、騎馬の人物が数人。銃を構え、白い煙が上がる。

手前には倒れた馬と人が重なる。赤、白、青の衣が入り混じる。

つまり、戦闘の直後の場面である。

実見と想像が、混じっている

この画家は、1832年に北アフリカへ旅をしている。外交使節に随行した旅である。

その旅で、多くの素描を残したことが知られている。

つまり、衣装や馬具については観察がある。しかし、この戦闘の場面そのものを見たわけではない。

制作年は1863年で、旅の三十年後にあたる。記憶と素描と想像が、混ざっている。

異国の主題は、どう扱われたか

主題の性格にも触れておきたい。19世紀のヨーロッパでは、北アフリカや西アジアを主題にした絵が流行した。

その背景には、植民地の拡大がある。フランスは1830年からアルジェリアへ侵攻していた。

つまり、絵の流行と軍事の拡大は、同じ時期に起きている。

絵の中の人々が、どう描かれ、どう見られたのか。そこには非対称がある。

植民地の条件を抜きに読めない主題については、
別のコラムでも扱った。

二つの年が記録された一点

制作の事情が複雑な作品もある。

ナッチェズの人々
ウジェーヌ・ドラクロワ《ナッチェズの人々》1823〜1824年および1835年。油彩・画布。縦90.2センチ、横116.8センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《ナッチェズの人々》メトロポリタン美術館蔵

所蔵館の記録は、制作年を二つ記している。1823〜24年と、1835年である。

つまり、着手から完成まで十年以上の間があった。途中で中断し、後年に手を入れたと考えられる。

画面には、川辺に座る二人と、生まれたばかりの子どもが描かれる。

左の人物は赤い布を身にまとい、子どもを抱く。右の人物は身を横たえ、目を伏せる。

背後に川が広がり、岸に小舟が引き上げられている。手前に道具が置かれる。

主題の出典と、扱いの問題

この一点も、文学に由来する。フランスの作家シャトーブリアンの物語が典拠とされる。

描かれているのは、北アメリカの先住民である。ただし、画家は現地を訪れていない。

つまり、読んだ物語と、伝聞と、想像から構成された画面である。

ここで注意したい。この絵は、先住民の生活の記録ではない。

先住民が強制的な移住と暴力にさらされていた時期に、
ヨーロッパの読者に向けて作られた物語の絵である。

記録という言葉の危うさは、別のコラムで扱った。

宗教の主題も、同じ方法で描かれる

主題の幅を見ておきたい。

嵐の中で眠るキリスト
ウジェーヌ・ドラクロワ《嵐の中で眠るキリスト》1853年ごろ。油彩・画布。縦50.8センチ、横61センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《嵐の中で眠るキリスト》メトロポリタン美術館蔵

小舟が、荒れた海に浮かぶ。波が高く、白い泡が舷側で砕ける。

舟の中に人が七、八人。立ち上がる者、櫂を掴む者、うずくまる者がいる。

舳先の近くに、横たわる人物がいる。頭に光の輪が描かれている。

つまり、嵐の中で眠っている場面である。周囲の混乱と、中心の静止が対比される。

背景の空は暗く、遠くに山影が見える。

動と静を、隣に置く

構図の型を整理したい。虎と蛇では、二つの生き物が対峙していた。

戦闘の場面では、動く騎馬と倒れた人物が並ぶ。この一点では、慌てる人々と眠る人物が並ぶ。

いずれも、対比を軸に画面が組まれている。

対比は、この画家が繰り返し使う方法である。色でも同じことが起きる。

眠る人物という主題

主題の型にも触れておきたい。嵐の中で眠るという場面は、聖書の記述にもとづく。

同じ主題を、この画家は複数回描いたことが知られている。

つまり、一度きりの発想ではない。繰り返し試された構図である。

同じ主題を何度も描く方法は、別のコラムでも扱った。

ただし、こちらは条件を変える連作ではない。構図の改良の反復である。