画家を知る

見たものと、読んだもの——ドラクロワの主題

ドラクロワの主題には、二つの出所がある。動物やモデルのように見て描いたものと、詩や物語から想像したもの。九点を並べ、その切り分けを試みる。植民地の条件と、記録されなかった人にも触れておきたい。装飾として注文された大きな花の絵も見ておく。

虎と蛇
ウジェーヌ・ドラクロワ《虎と蛇》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

虎と蛇が、向かい合っている

一枚の絵から始めたい。

虎と蛇
ウジェーヌ・ドラクロワ《虎と蛇》1862年。油彩・画布。縦33センチ、横41.3センチ。額を含めて縦41.8センチ、横49.2センチ、厚さ7.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《虎と蛇》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

小さな絵である。縦33センチ、横41.3センチ。

画面の左に虎がいる。前脚を折り、身を低く沈めている。

背は褐色で、黒い縞が斜めに走る。腹と脚の内側は白い。

口を開き、牙が見える。目は右前方を睨む。

視線の先、画面の右に木がある。幹が斜めに立ち、そこに蛇が巻き付く。

蛇は胴を二重に巻き、鎌首をもたげる。虎とほぼ同じ高さで、向かい合っている。

背景は暗い。左奥に岩山、右に茂み。空は上端にわずかに見えるだけである。

左下に署名と年記がある。画家の名と1862の数字が読める。

筆の跡が、そのまま残る

技法にも触れておきたい。虎の胴には、細い筆で縞が引かれている。

しかし毛の一本ずつは描かれていない。褐色の面の上に、黒い線を数十本置いただけである。

地面の草も同様で、緑と黄土の短い線が重なる。近づくと、線の集まりにしか見えない。

離れると、それが毛と草になる。省略と効果の関係が、はっきり分かる画面である。

虎を、どこで見たのか

ここで一つ確かめたい。この画家はフランスで活動した。

野生の虎を、実際に見る機会はない。では、この虎はどこから来たのか。

考えられるのは、動物園と剥製である。19世紀のパリには動物の飼育施設があり、
画家たちが写生に通ったことが知られている。

つまり、この虎は観察にもとづいている可能性が高い。ただし、山中の場面は想像である。

問い——見たものと、読んだもの

ここで問いを立てたい。この画家の主題には、二つの系統がある。

一つは、実際に見て描いたもの。動物、庭、人物の習作である。

もう一つは、読んだものから描いたもの。文学作品、歴史の記述、遠い土地の報道である。

当サイトにはドラクロワの作品が15点公開されている。両方の系統が含まれている。

並べて、その差を読みたい。

杭に繋がれた馬

まず、実見にもとづくと考えられる一点を見たい。

杭に繋がれた馬
ウジェーヌ・ドラクロワ《杭に繋がれた馬》1820年ごろ。油彩・画布。縦19.4センチ、横21.3センチ。額を含めて縦28.7センチ、横31.1センチ、厚さ5.1センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《杭に繋がれた馬》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

きわめて小さい。縦19.4センチ、横21.3センチ。文庫本ほどの大きさである。

栗毛の馬が一頭立つ。首を左へ向け、綱が杭に繋がれている。

杭は画面の左に立ち、細長い柱の形をしている。

地面は黄土色で、影が右へ長く伸びる。空は上部に青く、雲が薄い。

筆は速い。馬の胴は数回の刷きで作られ、脚の輪郭は一筆である。

制作年は1820年ごろで、公開分では最も早い。

小さな画布は、練習のためである

寸法の意味を考えたい。19.4×21.3センチの画布は、売るための絵の大きさではない。

つまり習作である。動きや構造を確かめるために描かれた。

こうした小品が残ることは、制作の過程を知る手がかりになる。

素描や習作の役割については、別のコラムで扱った。

同じ人物を、二つの姿勢で描く

人物の習作も見たい。

カルカッタ出身のインド人の二つの習作——座像と立像
ウジェーヌ・ドラクロワ《カルカッタ出身のインド人の二つの習作——座像と立像》1823〜1824年ごろ。油彩・画布。縦37.5センチ、横45.7センチ。額を含めて縦51.1センチ、横59.5センチ、厚さ3.8センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《カルカッタ出身のインド人の二つの習作——座像と立像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

画面に二人の人物が描かれている。しかし題名によれば、同一人物の二つの姿である。

左の人物は立つ。白い上衣を着て、腰に白い帯を巻く。赤い帽子をかぶる。

右手に細い杖を持ち、正面を向く。足元は赤い履物である。

右の人物は座る。同じ白い衣で、肩に淡い黄褐色の布を掛ける。

膝の上に白い布を広げ、こちらを見る。背景は暗く、何も描かれていない。

モデルは、誰だったのか

記録を確かめておきたい。所蔵館の題名は、この人物を「カルカッタ出身のインド人」と記す。

つまり、出身地は記録されている。しかし、名前は記録されていない。

19世紀のパリには、各地から人が集まっていた。画家は、そうした人にモデルを依頼することがあった。

その人がどんな事情でパリにいたのか、報酬がいくらだったのかは、記録に残らない。

つまり、この画面には描かれた人と、記録されなかった事情がある。

記録の非対称

ここは慎重に扱いたい。画家の名前は残り、モデルの名前は残らない。

この非対称は、この一点に限らない。ヨーロッパの絵の多くで見られる。

同じ問題は、別のコラムでも触れた。

見る側は、画面の中の人を「異国の人物」という枠だけで見ないようにしたい。

一人の人が、ある日、画室で二つの姿勢を取った。まず、その事実を確かめたい。

読んだものから、描く

ここから、もう一つの系統に移りたい。

ジャウールとハサンの戦い
ウジェーヌ・ドラクロワ《ジャウールとハサンの戦い》1826年。油彩・画布。縦59.6センチ、横73.4センチ。額を含めて縦87.4センチ、横101.3センチ。シカゴ美術館蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《ジャウールとハサンの戦い》シカゴ美術館蔵

二頭の馬が、画面の中央でぶつかっている。

左の馬は黒く、後脚で立ち上がる。乗る人物は白い布を頭に巻く。

右の馬も暗い色で、乗る人物は白い衣に赤い帯を締める。右手に刃を振り上げる。

二人の刃が、画面の中央で交差する。

右下に、倒れた人物がいる。青い衣で、地面に手をつく。

背景は岩山で、空は灰色に濁る。