銀行に勤めながら、台所を描く——フランシス・ウィリアム・エドモンズ
七面鳥の羽をむしる手、鍋の前に立つ人。日々の場面を描いた画家は、本業を別に持っていた。綴じられたままの写生帖を含む九点を並べ、兼業という条件のもとで積み上げられた仕事を見る。三人をどう配置するかという、構図の判断も追いたい。

七面鳥の羽をむしる
一枚の風俗画から始めたい。

納屋の入口である。
板壁が奥へ続き、左に暗い扉が開く。
その手前に、三人がいる。
中央の台を囲んでいる。
台の上には、羽をむしられた鳥が載る。
左の男は帽子をかぶり、手を伸ばす。
中央には、赤い上着の子どもがいる。
右の男は、身をかがめて作業する。
天井からは、鳥が二羽吊り下がる。
右奥には、雪の積もった屋外が見える。
手前には、籠と鍋と薪が置かれる。
台所仕事を、絵にする
主題は、祝祭の支度である。
鳥の羽をむしり、料理の準備をする。
つまり、労働の場面である。
十九世紀の米国では、こうした日常の場面が絵になった。
英雄も、神話も、歴史も出てこない。
家の中の、ありふれた出来事である。
当サイトの
日々の場面を描くでも、同じ流れを扱った。
日常を主題にすることは、当時としては新しかった。
描いた人について
フランシス・ウィリアム・エドモンズは、一八〇六年に生まれた。
ニューヨーク州ハドソンの出身である。
一八六三年に没した。
この人物には、もう一つの職業があった。
銀行の仕事である。
生涯にわたって、銀行の職に就いていたと伝えられる。
つまり、画業は本業ではない。
にもかかわらず、展覧会に出品し、評価も得た。
兼業の画家
兼業の画家は、珍しくない。
十九世紀の米国では、とくにそうである。
絵だけで生活できる画家は、限られていた。
だから、別の職を持つ。
商人、教師、測量士、そして銀行員。
その合間に描く。
写生帖が残るのは、こうした画家に多い。
まとまった制作の時間が取れないぶん、断片が蓄積する。
三人の配置
最初の油彩の人物の並びを見ておきたい。
左に大人、中央に子ども、右に大人。
三人の頭の高さが、少しずつ違う。
そして、視線はいずれも台の上へ向く。
つまり、三人の注意が一点に集まっている。
群像を描くときの基本である。
視線が散れば、場面がまとまらない。
一つの作業を囲むという設定が、その集中を自然に作っている。
主題の選び方が、構図の問題を解いている。
綴じられたままの写生帖
二点目から、素描になる。

画像には、紙の束が写っている。
画面の左と上に、暗い帯がある。
これは、綴じられた帖の背と、表紙の縁である。
つまり、帖を開いた状態で撮影されている。
一枚の紙を取り出したのではない。
だから、頁がわずかに反っている。
そして、下の頁の縁も見える。
写生帖が、そのままの形で残っている。
帖のまま撮る
これは、館の方針だろう。
写生帖を解体しない。
解体すれば、一枚ずつ扱いやすくなる。
しかし、順序と綴じ方が失われる。
だから、綴じたまま撮影する。
前回の記事で扱った別の写生帖は、一枚ずつになっていた。
同じ美術館でも、扱いが違う。
受け入れた時期や、状態によって判断が分かれる。
描かれているもの
この一枚には、二人の人物がいる。
左に、椅子に座る女性。
膝の上に何かを置き、手を動かす。
右に、こちらへ背を向けた女性。
椅子に腰かけ、体をひねる。
背後には、窓か額のような四角い形がある。
線は細く、薄い。
背景も、床も描かれていない。
人物の輪郭だけである。
完成作のための習作
題には、ある作品のための習作とある。
つまり、後に油彩になった構図の下ごしらえである。
写生帖の素描には、この種のものが混ざる。
現場の写生ではなく、構図を考えるための線である。
だから、対象を見て描いているとは限らない。
頭の中で人物を動かし、配置を試す。
消して、描き直す。
その痕跡が、薄い線として残る。
新聞を読む男
三点目は、一人だけである。

縦長に使われた頁である。
中央に、男が座っている。
こちらに背を向け、右を向く。
両手で、大きな紙を広げる。
紙は体の前で開き、頭より高く上がる。
顔は、紙の縁から覗く。
椅子の脚が、下に見える。
背景は白いままである。
線は極端に少ない。
紙が、人を隠す
この構図の面白さは、紙にある。
新聞が、体の大部分を隠している。
見えるのは、頭と、紙を持つ手と、脚だけである。
つまり、人物の情報が少ない。
にもかかわらず、何をしているかは分かる。
姿勢と、持ち物の形だけで伝わる。
風俗画の素描では、この省略が効く。
顔を描かなくても、行為は示せる。
新聞という主題
新聞を読む姿は、十九世紀の絵によく出る。
読み書きのできる層が広がった時代である。
そして、新聞は日常の一部になった。
つまり、当時の新しい風俗である。
同時に、社会との接点を示す持ち物でもある。
家の中にいながら、外の出来事を知る。
その構図が、絵の主題になる。
エドモンズの油彩にも、こうした場面がある。
二人の会話
四点目は、二人が向かい合う。

右に、椅子に座る男がいる。
脚を組み、体をそらす。
口には、細い管をくわえる。
煙管だろう。
左には、女性が立つ。
腕を前へ伸ばし、指を差す。
顔は男のほうを向く。
つまり、何かを咎めている場面に見える。
線は薄く、消した跡も残る。