足は、地面との接点である——ドガ・歌麿・ムリーリョほか九点
自分の足の裏を見る踊り子、炬燵から出た素足、月の上に載る聖母の足。足の九点を数えると、人の足が写るのは五点で、三点は木の根元や崖の下という場所の名だった。立っているものには、すべて足があることになっている。

足の裏を、見ている
青銅の像である。
高さは46.4センチ。
女が一人、立っている。
左の脚だけで、体を支える。
右の脚は、前へ持ち上げられる。
膝が曲がり、足首が引き寄せられる。
右の足の裏が、こちらへ向く。
指のつけ根の膨らみが見える。
土踏まずのくぼみも見える。
かかとは、丸い。
上体は、前へ傾く。
顔は、その足を見下ろす。
両手は、右の足首を握る。
腕が、脚と一本の輪を作る。
背は、丸くなる。
髪は、うなじで束ねられる。
衣は、腰に巻かれるだけである。
表面は、荒い。
指で押した跡が、いくつも残る。
台座は、四角い。

館の説明は、この一群の由来を書いている。
作者は生前、蝋で多くの彫刻を作った。
死後まもなく、それが青銅に鋳られた。
この作は、その後期のものである。
踊り子への関心と、動く体の感覚が続いている。
そして館は、表面に触れる。
作者の指の跡が、青銅の面に見える。
つまり、蝋の柔らかさが金属に写っている。
館はさらに、作者の観察の場所も書く。
巴里の歌劇場に通い、踊り子を見ていた。
舞台の上でも、舞台裏でも見ていた。
この姿勢は、舞台のものではない。
稽古のあと、痛みを確かめる姿である。
足の裏は、自分では見えにくい。
見るためには、体を折らなければならない。
九点の最初に、これを置く理由である。
足は、体の中で最も見られない部分である。
顔は、鏡で見られる。
手は、そのまま見られる。
背中は、見えないが、他人からは見える。
足の裏だけが、誰からも見えにくい。
地面に接しているあいだは、隠れている。
踊り子については、踊る足は、地に着いているで扱った。
足だけを、並べて描く
赤チョークの素描である。
紙は25.3×35.1センチ。
横長である。
一枚の紙に、いくつもの形が並ぶ。
左に、若い女の頭と肩がある。
顔は、上を向く。
両腕が、高く上げられる。
手に、丸い枠を持つ。
太鼓である。
その右に、腕が一本だけある。
さらに右に、手が二つある。
紙の下のほうに、足がある。
裸足である。
一つは、横から見た形。
もう一つは、やや斜めからの形。
指が、一本ずつ描かれる。
親指が太く、他は細い。
甲の骨が、線で示される。
足首から上は、途中で切れる。

館の説明は、この紙の行き先を書いている。
大きな画面の準備として描かれた。
主題は、海を渡ったあとの感謝の場面である。
女たちの合唱を、一人の女が導く。
その原寸の下絵が、一七一一年から翌年に描かれた。
いまも、羅馬のある建物を飾っている。
館は、どの習作がどの人物のものかも書き分ける。
足と、頭と肩の部分は、太鼓を打つ主人公のもの。
右の腕と、二つの手は、別の人物のためのものである。
つまりこの紙は、部品の一覧である。
前の回で見た手の習作と、同じ作り方である。
ただしあちらは、工房で共有する手本だった。
こちらは、一つの画面のための部品である。
足だけを取り出して並べると、形がよくわかる。
そして、体のどこよりも指の差が大きい。
親指は太く、短く、他から離れる。
小指は、ほとんど爪だけである。
手の指は、長さが揃っている。
足の指は、揃っていない。
だから、習作では一本ずつ描かれる。
揃っていないものは、覚えられないからである。
火のそばで、素足が出る
木版の多色摺である。
紙は26.1×39.1センチ。
横長である。
画面の中央に、低い台がある。
布が、その上に掛けられる。
炬燵である。
右に、女が座る。
本を手にしている。
顔は、左へ向く。
その前に、男の子がいる。
抱き上げられようとしている。
床に、小さな人形が二つ落ちる。
相撲取りの人形である。
左に、もう一人の女がいる。
頭を、布の下に入れている。
寒いからである。
その足だけが、布の外に出る。
裸足である。
指が、そろって見える。
手前に、少女がいる。
床の穴の炭を、かき回している。

館の説明は、この一枚の位置づけを書く。
題は四季の連作を思わせる。
しかし、この冬の一枚しか知られていない。
そして、場面を細かく読む。
男の子が、玩具の相撲取りを落とした。
炬燵で本を読んでいた女に、抱き上げられようとしている。
連れの女は、暖を取るために頭を布に入れた。
その素足が、炭を扱う少女によって露わになっている。
つまり、足が出ているのは偶然の結果である。
顔を隠したから、足が出た。
隠す場所を選べば、隠れない場所ができる。
前の二点では、足は見るための対象だった。
ここでは、足は隠し損ねた部分である。
見せるつもりのない足が、画面の中心近くにある。
この一枚は、冬の場面である。
炬燵の布が、体をほとんど覆っている。
覆われた中から出ているのは、足だけである。
覆いが多いほど、出た部分は目立つ。
足を病んで、籠で運ばれる
画帖の一葉である。
全体で30.2×26.7センチ。
絹に描かれている。
画面に、男が一人いる。
立っている。
顔は、やや右を向く。
髭が、顎の下に伸びる。
頭に、布を巻く。
衣は、ゆったりと垂れる。
袖は、長く、地に近い。
手は、袖の中である。
腰のあたりに、帯が結ばれる。
足元には、履物が見える。
つま先が、衣の下から出る。
まわりに、何も描かれていない。
地は、絹の色のままである。
右上に、字が書かれる。