鉄は、言葉として現れる——尾形乾山・陳洪綬・セザンヌほか九点
鉄でできた作品は九点のうち一点だけ。あとは焼き物の黒い枝になり、プロヴァンスの土の橙になり、細く均一な線の呼び名になり、機関車の名になり、戦士の名になっていた。安く重く錆びる金属が、材料の欄より説明文と題の中に多く現れる記録である。

鉄の円板に、横顔が浮き出ている
小さな円板である。
直径は4.9センチしかない。
色は灰色で、青みを帯びている。
表面には、細かい斑が一面に散っている。
錆である。
円板の中央に、男の横顔が浮き出ている。
顔は左を向く。
髪は短く、後ろへ流れる。
首は太く、肩の線でとぎれる。
輪郭の縁は鋭く、影が濃く落ちる。
円板の左には、数字が四つ縦に並ぶ。
右にも、別の数字が四つ並ぶ。
上には、小さな環が付いている。
吊り下げるための環である。
地の部分には、鎚や型の跡は見えない。
型で打ち出したものらしい。
縁には、細い枠の線が一周する。
枠の内側は、わずかにくぼんでいる。
横顔の高さは、地の面から一ミリほどに見える。
低い浮き彫りである。

館の記録では、材料はただ一語、鉄である。
館の札も「男性」と「横顔」の二つだけである。
つまりこれは、鉄だけでできた物である。
金でも銀でも青銅でもない。
メダルは、ふつう貴金属で作られる。
鉄で作れば、価値は下がる。
しかし数を多く配れる。
選挙区が代議士に贈るという用途に、鉄は合っている。
数字は、生まれた年と没した年らしい。
左右に分けて置かれている。
文字は浮き彫りではなく、地に沈んでいる。
型の側に、突起として彫られていたことになる。
鉄は、九つの姿で現れる
この一枚を出発点に、鉄の関わる九点を数えていく。
鉄は、最もありふれた金属である。
地面の中にも、赤い土の中にもある。
そして錆びる。
錆びた鉄は赤茶色になり、その色が絵の具になる。
燃やす必要も、遠くから運ぶ必要もない。
足元の土から、そのまま取れる。
だから最も古い顔料の一つである。
先に言ってしまうと、九点のうち、鉄そのものでできた物は一点だけである。
二点では、鉄は色として画面に塗られている。
一点では、鉄は線の呼び名である。
二点では、鉄でできた物が写されたり描かれたりしている。
そして三点では、鉄は題の中の言葉である。
柵の名、馬の名、そして人の名である。
錆びた鉄が、梅の枝になる
二点目は、焼き物である。

四角い器が五つ並ぶ。
高さは6.9センチ、一辺は9センチしかない。
四隅は角ばり、口の縁は波打っている。
器の地は、淡い黄土色である。
その上に、黒い枝が描かれている。
枝は太く、途中で折れ曲がる。
細い小枝が、そこから何本も出る。
枝の上には、白い丸がいくつも置かれている。
梅の花である。
花の中央には、小さな点がある。
黒い枝は、器の面をまたいで続く。
五つを並べると、一本の枝がつながって見える。
ただし、つながり方は正確ではない。
少しずれ、太さも変わる。
一つ一つ別に描かれたためである。
口の縁の波打ち方も、五つで違う。
館の記録では、これらの器は粗い黄褐色の土でできている。
そして意図した歪みがあるという。
枝の文様は、まず黒い酸化鉄で描かれた。
そのあとに、花と蕾が白泥で置かれた。
最後に、ごく薄い透明な釉がかけられている。
館の記録は、そう説明している。
つまり黒い枝は、鉄の色である。
墨ではない。
土に含まれる鉄の粉を、水で溶いて筆で塗る。
焼くと、黒あるいは茶に変わる。
濃く塗れば黒くなり、薄く塗れば茶になる。
枝の太い部分と細い部分で、色の濃さが違う。
筆を置いた場所ほど、黒が強い。
さらに館は、器の底の署名について書いている。
三文字が、茶色い鉄で記されているという。
この作り手の筆と窯については、筆と窯で扱った。
九点のうち、鉄が絵の具になっているのは、この一点である。
鉄は、線の名前になる
三点目では、鉄は色ではない。

細長い掛幅である。
画は172.8×55.7センチある。
画面の上三分の一は、文字で埋まっている。
その下から、絵が始まる。
奥に、丸い門のある塀がある。
塀の前には、大きな石と松がある。
中ほどには、幕が張られている。
幕は薄く、向こう側が透ける。
その奥に、年老いた女性が座る。
女性の前には、若い男たちが並ぶ。
みな頭を下げている。
手前には、青銅の器が置かれている。
器は三つあり、形がそれぞれ違う。
古い時代の道具として置かれている。
色は淡く、青と緑と朱が使われる。
輪郭の線は細く、太さがほとんど変わらない。
衣の折れ目も、同じ細さの線で示される。
筆の圧を変えずに引いたことになる。
線には、震えも途切れもない。
館の記録では、この絵はある女性の物語を描いている。
高齢になったその人が、若い学者たちに古典を教える場面である。
作者は、自分の伯母の六十歳の祝いのために描いた。
そして館は、描き方について書いている。
古風な描き方で、細い輪郭と鉱物の顔料による鮮やかな彩色による。
人物を描くにあたっては、鉄線描を用いているという。
鉄線描とは、細く均一な線のことである。
館の記録は、そう説明している。
つまりここでは、鉄は線の細さと硬さの比喩である。
針金のように、太らず細らず、まっすぐ続く。
材料の欄に鉄はない。
絹と墨と顔料だけである。
鉄という語は、説明文の中にしかない。
それでも、その一語が線の性格を言い当てている。
細さと、均一さと、たわまなさ。
三つとも、針金の性質である。
この画家の別の作については、画帖の一葉で扱った。
土の中の鉄が、地面の色になる
四点目では、鉄は地面にある。