美術史・技法

年の欄が、四通りに書かれる——ニューイングランド・ガラス製造所

記録と物の、ずれ

こうしたずれは、珍しいことではない。

記録は、受け入れたときに書かれる。

その後、研究が進んで年代が分かっても、記録がすぐ直るとは限らない。

古い記録がそのまま残ることは、どの館にもある。

読む側は、記録と物の両方を見る必要がある。

小さな器

この一点は、九点で最も小さい。

高さ6.4センチ、直径6センチ。

握りこぶしより小さい。

飲むための器としては、ごく普通の大きさである。

面には、丸い凹みが一面に並ぶ。

型に吹き込んでできた形だろう。

取っ手の付け方

この一点の取っ手は、器と色が違う。

黄色い硝子を、別に付けたのだろう。

輪の形に曲げ、上と下で本体に接している。

接した跡が、そのまま残っている。

隠さずに残すのは、この時期の硝子によくある作りである。

水差し
ニューイングランド・ガラス製造所《水差し》1800年から1900年。型で押した硝子。館の記録では、高さ23.5センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。ニューイングランド・ガラス製造所《水差し》メトロポリタン美術館蔵

百年を、二つの年で書く

いま見た一点の年は、1800年から1900年である。

これは、十九世紀とほぼ同じ幅である。

しかし、書き方が違う。

一方は世紀の名で、他方は年の範囲で書かれている。

同じ内容が、二通りに書かれていることになる。

記録の書式がそろっていない、はっきりした例である。

九点で最も高い

この一点の高さ23.5センチは、九点で最も大きい数字である。

もっとも、直径では別の一点が24.8センチある。

どちらが大きいかは、測る方向で変わる。

高さだけ、直径だけ、縦横だけ。

九点の寸法の欄は、書かれている数字の種類がそろっていない。

比べるには、まずそこを合わせなければならない。

高さだけの記録

この一点の寸法は、高さだけである。

直径も、口の広さも書かれていない。

水差しのように形の複雑なものは、一つの数字では表せない。

それでも、高さだけが選ばれている。

置いたときに目に入る大きさが、高さだからだろう。

注ぎ口

この一点の口は、片側だけが細く伸びている。

吹いた後に、道具で引き出したのだろう。

型で押した本体に、手仕事の部分が加わっている。

一つの器の中で、二つの作り方が混ざっている。

面の模様

この一点の面には、四角い枠が縦横に並ぶ。

その中に、粒や小さな形が入る。

型で押した硝子の、典型的な模様である。

取っ手は別に付けられ、上下で本体に接している。

口は片側に細く伸び、注ぎ口になっている。

鉢
ニューイングランド・ガラス製造所《鉢》1840年ごろ。型で押した硝子。館の記録では、直径15.9センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。ニューイングランド・ガラス製造所《》メトロポリタン美術館蔵

型で押した面

この一点の面は、細かい模様で埋められている。

中央だけが空き、そこに図が置かれる。

型で押した硝子では、面いっぱいに模様を入れることが多い。

模様があると、硝子の中の細かい傷や気泡が見えにくくなる。

そして、光が乱れて輝いて見える。

安く作りながら、見栄えを良くする方法である。

建物の図

いま見た一点の中央には、建物が描かれている。

丸太を積んだ小屋のような形で、煙突から煙が出ている。

まわりには、細かい模様が帯になって回る。

こうした図は、当時の出来事と結びついて作られることがあった。

しかし、記録にはその説明がない。

図が何を指すかは、書かれていない。

図と、記録の距離

図が何を指すかは、記録の対象になっていない。

題は器の種類を書き、技法は材料を書き、年は時期を書く。

しかし、面に何が描かれているかを書く欄はない。

絵であれば、題がその役を果たす。

器では、題は種類の名になる。

だから、図についての情報は残らない。

二つの、ころ

この一点の年は、1840年ごろである。

先に見た一点と、同じ書き方である。

九点の中で、ころの付く記録は二点だけである。

どちらも、型で押した硝子の時期にあたる。

年の欄を、まとめる

最後に、九点の年の欄をまとめておく。

二つの年をつなぐ書き方が四点。

ころ、を付けるものが二点。

以降、を付けるものが二点。

世紀だけのものが一点。

四通りの書き方で、九点の年が記録されている。

幅の広さを、並べる

九点の年の幅を、広い順に並べてみる。

百年が二点。十二年が一点。十一年が一点。十年が一点。

三年が一点。残る二点は、終わりの年がない。

そして、ころ、の付く二点は、実際には幅を持つ。

推定の年は、前後に数年の余地があると読むべきである。

そろわないことの意味

書式がそろわないのは、記録が一度に作られていないからである。

寄贈の時期も、担当した人も、参照した資料も違う。

そのたびに、その時点で分かることが書かれる。

後からそろえるには、全件を見直す必要がある。

数千点、数万点となれば、それは容易ではない。

だから、書式の違いはそのまま残る。

九点をつなぐもの

九点は、器の種類も技法も年もばらばらである。

つないでいるのは、作った会社の名だけである。

その名で集めると、七十年ぶんの記録が並ぶ。

会社という単位で見ると、一点ずつでは見えないものが見える。

年の欄の書き方の幅も、そのひとつである。

読む側にできること

書式が違っても、内容は読める。

以降、とあれば下限だけだと分かる。

ころ、とあれば推定だと分かる。

世紀だけなら、絞り込まれていないと分かる。

書式の違いは、情報の確かさの違いでもある。

そこまで読めば、年の欄は十分に使える。

同じ会社の別の器については、硝子に、商品名が付く——ニューイングランド・ガラス製造所で扱った。

型で押す技術そのものについては、型で押すか、手で吹くか——19世紀アメリカのガラスを参照されたい。

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