ポール・セザンヌの特徴と代表作——なぜ「近代絵画の父」と呼ばれるのか
ポール・セザンヌの特徴と代表作をまとめます。《リンゴの籠》《赤いチョッキの少年》《サント=ヴィクトワール山》など五点を、当サイトが公開しているCC0の図版と所蔵館の記録から読みます。短い筆と、合わない辻褄の見方を示します。

ポール・セザンヌとはどんな画家か
ポール・セザンヌは、1839年に南フランスのエクス=アン=プロヴァンスで生まれ、1906年に同じ町で没した画家である。1860年代からパリと故郷を往復し、1870年代にはピサロと組んで戸外で描き、印象派展にも加わった。
その後は流行から距離を置き、同じ主題を何度も描き直す仕事に移る。静物、家族の肖像、水浴の人々、そして故郷のサント=ヴィクトワール山。この四つが繰り返し戻ってくる主題になった。
以下では、当サイトが公開しているCC0の図版五点を使って、特徴と代表作を順に見ていく。どれも所蔵館が画像を公開している作品で、画面を拡大して確かめられる。

セザンヌの特徴は、短い筆と、合わない辻褄にある
第一の特徴は筆の置き方である。《赤いチョッキの少年》の上着を見ると、色は混ぜて塗られていない。短い筆の跡が斜めに並び、青灰、緑、黄土が隣り合ったまま残る。離れて見るとそれが一枚の布になる。
第二の特徴は、形の辻褄を無理に合わせないことである。画面の右へ垂れた腕は、体の比に照らすと明らかに長い。腕を縮めれば人体としては正しくなるが、画面の右下は空いてしまう。セザンヌは人体の正しさより、画面の重みの釣り合いを取っている。
第三の特徴は輪郭である。少年の顔や肩をふちどる線は一本ではない。青い線が何本も重ねて引かれ、どれが最終形なのか決められていない。輪郭を一本に決めないまま、置いた線を全部残している。
背景にも同じ手つきが出ている。画面の右にはカーテンの襞が垂れ、左には壁と布が重なる。どれも布として細かく描写されてはいない。縦に走る帯として単純化され、少年の体と同じ強さで画面に並ぶ。人物が主役で背景が脇役、という役割分担が薄い。
代表作でたどる——静物、肖像、風景、水浴

《リンゴの籠》は、視点のずれがいちばん見やすい一点である。テーブルの縁は、白い布の左と右で高さが揃っていない。籠は手前へ倒れ、皿の上の焼き菓子は真上から見た形をしている。その隣の瓶は真横から見た形である。
一つの場所から見た部屋を写した画面ではない。動きながら見た複数の見え方が、一枚に同居している。それでも画面が崩れないのは、布の折り目が作る三角形が、籠と皿と瓶を下から支えているからだ。
果物の描き方も写生とは違う。りんごは丸く塗られるのではなく、赤、黄、緑の面が並べて置かれる。面の境で色が急に変わるため、球の丸みが線ではなく色の切り替えで出てくる。左下には署名が読み取れる。

肖像でも同じことが起きる。モデルは妻のオルタンス・フィケである。背景の壁には水平の帯が走るが、人物の左右で高さがわずかに食い違う。人物の向こう側で壁がずれている、と言ったほうが画面には近い。
顔は左右で対称ではない。目の高さも輪郭も揃っていない。しかし赤い服の大きな塊と、黄色い椅子の背が画面を左右に分け合い、全体は静かに落ち着いている。

風景では、塗り残しがそのまま見えている。山の稜線は数本の青い筆で示され、その内側は下地の色に任されている。手前の道や屋根には色が置かれ、遠い山ほど筆が減る。描き込んだ部分と、手を止めた部分が同じ画面に並ぶ。
セザンヌは晩年までこの山を描き続けた。同じ主題を繰り返す仕事という点では、モネはなぜ、同じ麦の山を二十五回描いたのかで扱った連作と近い。ただしモネが光の移り変わりを追ったのに対し、セザンヌが確かめ直したのは形と面の関係である。

《水浴の人々》では、左右の木の枝が上で弧を描き、人物の群れを覆っている。人の肌には、空と同じ青が影として置かれる。個々の人物が誰かは問題にされていない。人体も木も水も、同じ筆で作られた部品として画面に並ぶ。
なぜ「近代絵画の父」と呼ばれるのか
セザンヌは後世に「近代絵画の父」と呼ばれてきた。この呼び名は絵の外から与えられた評価であって、画面から直接読み出せるものではない。ただし、そう呼ばれる理由の一部は画面の側にある。
見たとおりに写すことを絵の目的とするなら、腕が長い少年も、高さの合わないテーブルも失敗になる。セザンヌの画面では、それが失敗にならない。絵は目の記録ではなく、色の面を組み立てた構築物として扱われている。
この扱い方は、20世紀初頭の画家たちの出発点の一つになった、という見方が美術史では広く共有されている。当サイトはその評価の当否を判定しない。ここで言えるのは、対象を円筒や球に近い塊として捉え直す態度が、実際の画面に現れているということである。
印象派との距離を確かめたい場合は、印象派とは何かと併せて読むと違いが見えやすい。
セザンヌの作品はどこで見られるか
上に挙げた五点は、シカゴ美術館とワシントンのナショナル・ギャラリーが所蔵している。いずれも館が作品画像をパブリックドメインとして公開している。当サイトの《赤いチョッキの少年》の作品ページなどで拡大して見られる。
当サイトには、ほかにもセザンヌの作品が三十点以上ある。ポール・セザンヌのページから一覧できる。静物、肖像、風景を並べて見ると、主題が変わっても筆の置き方が変わらないことがよく分かる。
日本国内の美術館にもセザンヌの油彩は収蔵されている。ただし常設で出ているとは限らない。実物を見たい場合は、訪ねる前に各館の展示情報を確かめるのが確実である。


