高さは、上下に積んで示す——掛軸・版画・欧州絵画ほか九点の縦構図

縦長の版画である。
そして、画面の大部分を、大きな円が占めている。
丸窓である。
その円の中に、風景が描かれている。
水色の空、遠い山、青い川。
川に小さな舟が二艘。
対岸に、樹木の茂る岸。
そして、円の手前に、梅の枝が斜めに伸びる。
白い花が点々と付く。
円の左側は、赤い壁である。
その手前に、白い柱と、丸い留め具。
右側には、格子の建具が縦に並ぶ。
つまり、室内から丸窓越しに外を見ている。
窓が、見る位置を決める
この一点では、見ている位置がきわめて明確である。
室内である。
そして、窓のすぐ手前に立っている。
窓枠が画面の縁に近いところまで来ているからである。
もし窓から離れれば、窓のまわりの壁がもっと見えるはずである。
そして、窓の中の風景は、遠くまで見える。
近景がない。
つまり、この窓は高い場所にある。
窓の下の地面が見えていない。
第十七回で扱った、画面のなかの画面である。
窓が枠になり、外の景色が絵になる。

九点のなかで、これだけが肖像画である。
女性が、腰から上で描かれる。
薄い灰緑の背景。
上のほうに、黒い斑点がいくつか散る。
衣は白く、光沢がある。
袖が大きく、腕が透けて見える。
頭に、深緑の帽子をかぶる。
つばが広く、飾りが付く。
顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。
右手を頬に当て、指を軽く曲げる。
手首と指に、緑と青の飾り。
体はやや斜めを向く。
目の高さが、同じになる
肖像画では、視点の高さが決まっている。
描かれる人の目と、見る人の目が同じ高さになる。
この一点でも、そうである。
見上げても、見下ろしてもいない。
理由は明快で、そのほうが人が自然に見えるからである。
見下ろせば、頭が大きくなる。
見上げれば、顎が突き出る。
いずれも、その人らしく見えなくなる。
第一回で読んだ役者絵も、同じ高さから描かれていた。
人を主題にする絵では、視点の高さを動かさない。
風景では、自由に動かせる。
その差が、九点を並べるとよく分かる。
九点を、視点の高さで並べる
九点を、低いほうから並べたい。
いちばん低いのは、階段の下から見上げる一点。
次が、岸辺に立つ写生帖の一枚。
そして、地面に立つ高さが三点。
拱門の絵、肖像画、そしてハイファの岬。
やや高い位置が二点。
ベイルートの眺めと、丸窓の版画。
いちばん高いのが、山の頂上の写生である。
そして、高さの決まらないものが一点。
墨の山水である。
八段階に分かれる。
高さを決めない絵
最後に、高さの決まらない一点について書きたい。
墨の山水では、視点が一つに定まらない。
近景は上から見た形で、遠景は横から見た形になっている。
これは、間違いではない。
そういう約束で描かれている。
一枚のなかに複数の視点を混ぜる。
見る人は、順に目を移していく。
下から上へ、近くから遠くへ。
第二十回で読んだ巻子は、さらに極端だった。
右から左へ手で送りながら見る。
一つの視点では、そもそも見られない。
西洋の遠近法は、視点を一つに固定する。
一つに決めるから、正確な奥行が作れる。
決めなければ、複数の距離を同時に見せられる。
どちらが優れているという話ではない。
何を見せたいかで、方法が違う。
次の回では、遠い山を見たい。
山は、いちばん遠くに置かれるものである。
そして、遠さは色と濃さで作られる。
枠のある絵、二点
九点のうち二点は、画面のなかに枠がある。
丸窓と、拱門である。
いずれも、暗い枠の向こうに明るい景色が見える。
この構成には、共通の効果がある。
見る人の位置が、はっきり決まることである。
枠が手前にあるということは、見る人はその手前にいる。
室内にいるか、門の下にいる。
外にはいない。
一方、枠のない風景では、見る人の位置が曖昧になる。
野原のどこかに立っている、としか言えない。
枠は、視点を固定する装置でもある。
そして、枠のなかの景色は、それだけで一枚の絵になる。
丸窓の中の川と山。
拱門の向こうの山並み。
どちらも、切り取れば独立した風景画になる。
絵のなかに、もう一枚の絵がある。
第十七回で、額と画面の関係を何度か扱った。
こちらは、画面の中に額が描かれている場合である。
そして、枠の形が、中の景色の形を決める。
丸窓なら円形の風景。
拱門なら上が丸い風景。
四角い窓なら、四角い風景になる。
枠の形は、その建物の作りで決まっている。
つまり、建築が絵の形を決めている。
縦と横で、視点が変わる
九点の画面の形を見たい。
横長が五点、縦長が三点、ほぼ正方形が一点である。
そして、横長の五点は、いずれも風景である。
縦長の三点は、丸窓の版画、拱門の絵、そして肖像画。
これは偶然ではない。
横長の画面は、左右の広がりを見せる。
風景に向いている。
縦長の画面は、上下の重なりを見せる。
室内から外を見る構図や、人物に向いている。
そして、画面の形が視点の高さにも影響する。
横長では、水平線を一本引けば構図が決まる。
縦長では、上下に何段か積む必要がある。
墨の山水が横長なのに三段構成なのは、掛軸に仕立てられているためである。
もとは別の形だったかもしれない。
第十七回でも、横長の画面を掛軸に仕立て直す例を何度か見た。
画面の形と、掛ける形が一致しないことがある。
そのときは、寸法の欄を見るとよい。
画面と表装込みの比率が、その事情を語っている。
この九点でも、その比率は大きく違っている。
画面が二十六・七センチで、表装を含めると百三センチになる一点がある。
四倍近い。
置く場所が、形を決めている。









