画家を知る

同じ型で、違う日を描く——シスレーの道

災害を、絵にする

主題の性格にも触れておきたい。洪水は、住む人にとっては被害である。

しかし画面には、悲惨さが強調されていない。人は舟で移動し、水面は静かである。

つまり、災害の記録というより、変わった風景として描かれている。

この距離の取り方をどう読むかは、見る側に委ねられている。

所蔵館の記録も、解釈までは書いていない。

雪が、道を白くする

季節の主題も見たい。

ヴヌー=ナドンの初雪
アルフレッド・シスレー《ヴヌー=ナドンの初雪》1878年。油彩・画布。縦49.2センチ、横65.2センチ。額を含めて縦69.2センチ、横86.4センチ、厚さ7.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アルフレッド・シスレー《ヴヌー=ナドンの初雪》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

雪が薄く積もった風景である。

右手前に、細い木の枝が大きく張り出す。葉はなく、枝先に雪が乗る。

その下に低い柵が続く。木の杭が斜めに並ぶ。

中景に道があり、人物が二人。荷車らしきものも見える。

奥に家が数軒。屋根が白く、壁は灰褐色である。

空は淡い灰緑で、地面との明暗差が小さい。

空の面積

構図の比率も確かめておきたい。この一点では、空が画面の上半分を占める。

先に見た街路の絵でも、空はほぼ半分である。

つまり空の広さは、この画家の画面でも大きい。ただし、17世紀オランダの風景ほど極端ではない。

地平線の高さは、画面の中ほどか、やや下である。

土地の条件と、選んだ構図の両方が働いている。

雪は、白ではない

色の扱いに触れておきたい。この画面の雪は、純白ではない。

灰色、薄い青、淡い桃色が混ざっている。影の部分は、明らかに青みが強い。

つまり、雪の白は周囲の光を映した色として描かれている。

白を白のまま塗らない方法は、別のコラムでも扱った。

冬の街路

雪の主題を、もう一点見たい。

モレのウジェーヌ・ムソワール通り——冬
アルフレッド・シスレー《モレのウジェーヌ・ムソワール通り——冬》1891年。油彩・画布。縦46.7センチ、横56.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。アルフレッド・シスレー《モレのウジェーヌ・ムソワール通り——冬》メトロポリタン美術館蔵

こちらは街路である。手前から奥へ、雪の道が伸びる。

左に建物の壁が立ち上がる。窓が並び、屋根に雪が積もる。

道の中央は、通行によって雪が踏み荒らされている。褐色の地面が覗く。

人物が四、五人。黒い衣で、輪郭だけが示される。

右奥には低い建物が続き、その先に木立が見える。

空は灰青色で、雲の切れ目がない。

冬の色

色をもう一度見たい。この冬の街路では、白、灰、褐色が中心である。

しかし、よく見ると建物の壁に淡い黄が入り、影に青が置かれる。

無彩色に見える画面でも、実際には色が使われている。

雪の絵が単調に見えないのは、この微差のためである。

十九年後の、同じ構造

年代を比べたい。1872年の街路と、1891年の街路。

十九年の差がある。しかし構造はほとんど同じである。

道が奥へ伸び、左に建物、右に開けた空間。人物は小さく、空が画面の上半分を占める。

つまり、この画家は同じ型を長く使い続けている。

変わったのは、筆の細かさと色の置き方である。

田舎の道

場所を変えた一点も見たい。

モレからサン=マメへの道
アルフレッド・シスレー《モレからサン=マメへの道》1883〜1885年。油彩・画布。縦50.5センチ、横61.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。アルフレッド・シスレー《モレからサン=マメへの道》メトロポリタン美術館蔵

並木の道である。細い木が等間隔に並び、上部で枝を交わす。

木の幹は画面を縦に区切る。その隙間から、奥の景色が見える。

左に赤い屋根の建物がある。壁は白く、窓が小さい。

道には人が二人。奥へ向かって歩いている。

地面は明るい黄土色で、草が両脇に生える。

葉は緑で、光を受けた部分が明るい。夏の場面である。

季節が、筆を変える

筆の跡も比べておきたい。夏の並木の場面では、葉が短い筆の集まりで描かれる。

冬の街路では、面を広く塗る筆が使われる。雪面には、大きな刷きの跡が残る。

つまり主題によって、筆の動かし方が変わっている。

季節は色だけでなく、描き方そのものを変えている。

縦の線と、横の広がり

構図の型を整理したい。並木の幹は垂直の線である。

道は奥へ伸びる斜めの線である。地平線は水平の線である。

三種類の線が、画面の中で組み合わされている。

垂直の要素が画面を締める働きは、
別のコラムでも扱った。

森の道

もう一点、木の多い場面を見たい。

森の道
アルフレッド・シスレー《森の道》1879年。油彩・画布。縦46.3センチ、横55.8センチ。額を含めて縦67.6センチ、横76.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アルフレッド・シスレー《森の道》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

木立の中の道である。左に細い道が奥へ曲がる。

手前左に、日傘を持つ人物が小さく立つ。白い傘が、暗い緑の中で目を引く。

木は密で、葉が幾層にも重なる。緑、黄緑、暗い青緑が混ざる。

右奥に空が覗く。淡い青と白の雲である。

地面には草が生え、点のような筆で描かれる。

日傘という小道具

人物の持ち物にも触れたい。森の道の一点では、白い日傘が描かれる。

暗い緑の中で、白は強く目立つ。面積は小さいのに、視線を集める。

つまり日傘は、画面の中で目印として働いている。

同じ効果は、別のコラムで見た赤い傘にもあった。

筆の跡が、見えている

技法にも触れておきたい。葉の部分は、短い筆の跡の集まりである。

一筆ごとに色が違い、混ぜ合わされていない。

離れて見ると、それが緑の茂みになる。近づくと、色の点に分解する。

色を混ぜずに並べる方法については、
別のコラムで扱った。

シスレーの場合は、点ではなく短い刷きである。方法の系統は近い。