同じ型で、違う日を描く——シスレーの道
野原の一点
道のない画面も見ておきたい。

草地が広がる。手前に木の柵が横切り、杭が並ぶ。
草には赤や白の点が散る。花である。
中景になだらかな丘があり、木が数本立つ。
空は明るい青で、白い雲が三つ、四つ浮かぶ。
つまり、この一点には奥へ引く線がない。かわりに、横へ広がる帯が重なる。
花のある草地
細部をもう一つ見ておきたい。草地の画面には、赤と白の小さな点が散る。
花である。形は描かれず、色の点だけで示される。
しかし、その点があることで草の高さが分かる。花が咲く時期であることも伝わる。
省略しても、情報は残る。何を残し、何を省くかの判断である。
画布の寸法が、揃っている
ここで寸法を並べたい。10点の寸法を見ると、共通する数字がある。
45.7×55.9センチ、46.3×55.8センチ、46.7×56.5センチ。ほぼ同じである。
46.4×61センチ、50.5×61.5センチも近い。
これは偶然ではない。フランスでは、画布の寸法に規格があった。
画材店で、番号と種類を指定して買う仕組みである。
規格の画布を使うということ
規格の意味を考えたい。同じ寸法の画布を使えば、同じ額に収まる。
売る側にとっても、買う側にとっても扱いやすい。
そして、画家にとっては構図の枠が固定される。毎回、同じ比率で構図を組むことになる。
型を固定すると、細部の違いが見えやすくなる。同じ主題を繰り返す方法と相性がよい。
枠を固定する効果は、別のコラムでも扱った。
額の寸法も残っている
記録の細かさにも触れておきたい。公開分の多くに、額を含む寸法が併記されている。
たとえば38.1×56.2センチの画面に対し、額込みで69.2×87センチ。
面積では三倍近くになる。厚さも12.7センチある。
小さな絵が、大きく重い額に収められている。額と絵の関係は、
別のコラムで扱った。
見立て——同じ型で、違う日を描く
ここまでを整理したい。この画家は、道という型を繰り返し使った。
寸法も、ほぼ規格に揃えている。つまり、枠は固定されている。
変えているのは、季節、天候、時刻、場所である。
洪水の日、初雪の日、夏の午後、冬の曇り。同じ構造の中で、その日の空気だけが違う。
連作とは、少し違う
同じ場所を条件を変えて描く方法は、連作と呼ばれる。その考え方は
別のコラムで扱った。
シスレーの場合、同じ場所を系統的に繰り返した記録は乏しい。
似た構造の場所を、各地で繰り返し描いている。連作というより、型の反復である。
区別しておきたい。
十点の内訳
公開分の構成も確かめておきたい。10点はすべて風景である。
人物画も静物も含まれていない。制作年は1872年から1891年に及ぶ。
つまり二十年の仕事が、風景一色で並ぶ。
実際、この画家は生涯ほぼ風景だけを描いたとされる。公開分は、その性格をよく映している。
暮らしへ——同じ道を、四回撮る
家でできることを書いておきたい。通い慣れた道を、季節ごとに同じ位置から撮ってみる。
春、夏、秋、冬。四枚並べると、変わるものと変わらないものが分かれる。
建物の位置と道の形は変わらない。色と光と、人の服装が変わる。
シスレーが二十年続けたのは、この作業である。
群として見ると、規格が見える
最後に、見方をまとめておきたい。10点を寸法で並べ替えてみる。
46×56センチ前後に、複数の作品が集まる。規格の画布を使っていた証拠である。
公開画像は、そのための道具である。寸法欄の数字を並べる作業は、画面の上でできる。
そして、気づいた点は書き留めておきたい。規格の一致は、見落としやすい。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
生前の評価
最後に、受容についても書いておきたい。この画家は、生前に高い評価を得たとは言いがたい。
同じ展覧会に出品した仲間の中では、売れ行きが伸びなかったとされる。
つまり、同じ方法で描いても、評価は一様ではない。
作品の質だけで市場が決まるわけではない。
その事情は、別のコラムでも扱った。
規格の効用
最後に、規格の意味をまとめておきたい。同じ寸法の画布を使えば、構図の枠は固定される。
その中で、季節と天候だけが変わる。
つまり、比較の条件が揃う。
枠を固定することは、変化を見えやすくする方法でもある。
そして、測った寸法は書き留めておきたい。規格の一致は、数字を並べないと見えない。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
記録は、あとから読む自分のために残すものである。
細かく書く必要はない。日付と、気づいた一点だけでよい。
そして次に見るときは、その一行から始めればよい。
季節と天候を書いておけば、次に見たときの比較が容易になる。
そして、次に見るときは前の記録を先に読む。季節が変われば、感じ方も変わる。
規格の画布は、いまも画材店で売られている。同じ枠で描いてみると、条件がよく分かる。









