画家を知る

同じ型で、違う日を描く——シスレーの道

野原の一点

道のない画面も見ておきたい。

牧草地
アルフレッド・シスレー《牧草地》1875年。油彩・画布。縦54.9センチ、横73センチ。額を含めて縦79.7センチ、横98.7センチ、厚さ10.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アルフレッド・シスレー《牧草地》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

草地が広がる。手前に木の柵が横切り、杭が並ぶ。

草には赤や白の点が散る。花である。

中景になだらかな丘があり、木が数本立つ。

空は明るい青で、白い雲が三つ、四つ浮かぶ。

つまり、この一点には奥へ引く線がない。かわりに、横へ広がる帯が重なる。

花のある草地

細部をもう一つ見ておきたい。草地の画面には、赤と白の小さな点が散る。

花である。形は描かれず、色の点だけで示される。

しかし、その点があることで草の高さが分かる。花が咲く時期であることも伝わる。

省略しても、情報は残る。何を残し、何を省くかの判断である。

画布の寸法が、揃っている

ここで寸法を並べたい。10点の寸法を見ると、共通する数字がある。

45.7×55.9センチ、46.3×55.8センチ、46.7×56.5センチ。ほぼ同じである。

46.4×61センチ、50.5×61.5センチも近い。

これは偶然ではない。フランスでは、画布の寸法に規格があった。

画材店で、番号と種類を指定して買う仕組みである。

規格の画布を使うということ

規格の意味を考えたい。同じ寸法の画布を使えば、同じ額に収まる。

売る側にとっても、買う側にとっても扱いやすい。

そして、画家にとっては構図の枠が固定される。毎回、同じ比率で構図を組むことになる。

型を固定すると、細部の違いが見えやすくなる。同じ主題を繰り返す方法と相性がよい。

枠を固定する効果は、別のコラムでも扱った。

額の寸法も残っている

記録の細かさにも触れておきたい。公開分の多くに、額を含む寸法が併記されている。

たとえば38.1×56.2センチの画面に対し、額込みで69.2×87センチ。

面積では三倍近くになる。厚さも12.7センチある。

小さな絵が、大きく重い額に収められている。額と絵の関係は、
別のコラムで扱った。

見立て——同じ型で、違う日を描く

ここまでを整理したい。この画家は、道という型を繰り返し使った。

寸法も、ほぼ規格に揃えている。つまり、枠は固定されている。

変えているのは、季節、天候、時刻、場所である。

洪水の日、初雪の日、夏の午後、冬の曇り。同じ構造の中で、その日の空気だけが違う。

連作とは、少し違う

同じ場所を条件を変えて描く方法は、連作と呼ばれる。その考え方は
別のコラムで扱った。

シスレーの場合、同じ場所を系統的に繰り返した記録は乏しい。

似た構造の場所を、各地で繰り返し描いている。連作というより、型の反復である。

区別しておきたい。

十点の内訳

公開分の構成も確かめておきたい。10点はすべて風景である。

人物画も静物も含まれていない。制作年は1872年から1891年に及ぶ。

つまり二十年の仕事が、風景一色で並ぶ。

実際、この画家は生涯ほぼ風景だけを描いたとされる。公開分は、その性格をよく映している。

暮らしへ——同じ道を、四回撮る

家でできることを書いておきたい。通い慣れた道を、季節ごとに同じ位置から撮ってみる。

春、夏、秋、冬。四枚並べると、変わるものと変わらないものが分かれる。

建物の位置と道の形は変わらない。色と光と、人の服装が変わる。

シスレーが二十年続けたのは、この作業である。

群として見ると、規格が見える

最後に、見方をまとめておきたい。10点を寸法で並べ替えてみる。

46×56センチ前後に、複数の作品が集まる。規格の画布を使っていた証拠である。

公開画像は、そのための道具である。寸法欄の数字を並べる作業は、画面の上でできる。

そして、気づいた点は書き留めておきたい。規格の一致は、見落としやすい。

一行の記録が、次に見るときの足場になる。

生前の評価

最後に、受容についても書いておきたい。この画家は、生前に高い評価を得たとは言いがたい。

同じ展覧会に出品した仲間の中では、売れ行きが伸びなかったとされる。

つまり、同じ方法で描いても、評価は一様ではない。

作品の質だけで市場が決まるわけではない。

その事情は、別のコラムでも扱った。

規格の効用

最後に、規格の意味をまとめておきたい。同じ寸法の画布を使えば、構図の枠は固定される。

その中で、季節と天候だけが変わる。

つまり、比較の条件が揃う。

枠を固定することは、変化を見えやすくする方法でもある。

そして、測った寸法は書き留めておきたい。規格の一致は、数字を並べないと見えない。

一行の記録が、次に見るときの足場になる。

記録は、あとから読む自分のために残すものである。

細かく書く必要はない。日付と、気づいた一点だけでよい。

そして次に見るときは、その一行から始めればよい。

季節と天候を書いておけば、次に見たときの比較が容易になる。

そして、次に見るときは前の記録を先に読む。季節が変われば、感じ方も変わる。

規格の画布は、いまも画材店で売られている。同じ枠で描いてみると、条件がよく分かる。

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