画家を知る

同じ型で、違う日を描く——シスレーの道

シスレーは道と水辺を繰り返し描いた。画布は46×56センチ前後の規格に揃い、変わるのは季節と天候だけである。八点を並べ、枠を固定して差を見せる方法を確かめる。洪水と初雪の主題にも触れておきたい。額の寸法が示す飾られ方にも触れておく。

マルリー=ル=ロワ
アルフレッド・シスレー《マルリー=ル=ロワ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

道が、奥へ引いていく

一枚の絵から始めたい。

マルリー=ル=ロワ
アルフレッド・シスレー《マルリー=ル=ロワ》1875年ごろ。油彩・画布。縦38.1センチ、横56.2センチ。額を含めて縦69.2センチ、横87センチ、厚さ12.7センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アルフレッド・シスレー《マルリー=ル=ロワ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面である。縦38.1センチ、横56.2センチ。

画面の中央に、土の道がある。手前で広く、奥で細くなる。

道の左には建物が並ぶ。白い壁と赤い屋根、煙突が二本立つ。

右には長い塀が続く。板を縦に並べた形で、上端が不揃いである。

塀は手前で大きく、奥へ行くほど小さくなる。道と塀が、同じ点へ向かって収束する。

道の上に人が四、五人。歩く人、立ち止まる人、荷を持つ人がいる。

空は黄色みを帯びた灰色で、雲が横に伸びる。画面の上半分を占める。

右下に署名がある。

消失点が、画面の中にある

構図を確かめたい。道の左右の線を延長すると、一点で交わる。

その点は、画面のほぼ中央、地平線の高さにある。

つまり、透視図法の消失点が画面の中に置かれている。見る側の視線は、そこへ吸い込まれる。

道を主題にすると、この構造が自動的にできる。奥行きが、線として現れる。

描いたのは、誰か

作者はアルフレッド・シスレーである。1839年にパリで生まれ、1899年に没した。

両親はイギリス人で、本人も長くイギリス国籍のままだった。フランスで生まれ、フランスで描き、
それでも外国人として扱われた画家である。

若い頃は家業の商いに携わり、のちに画業へ移った。しかし1870年代の戦争で家業が傾き、
生活は苦しくなったと伝えられる。

同時代の画家たちと展覧会を共にし、その場で作品を発表した。

ただし、生前に十分な評価を得たとは言いがたい。売れ行きの記録は、公開分には含まれていない。

問い——なぜ、道ばかり描くのか

ここで問いを立てたい。当サイトにはシスレーの作品が10点公開されている。

そのうち六点に、道や街路が描かれている。残りも、水辺か野原である。

つまり、この画家は同じ種類の場所を繰り返し描いている。

なぜ道なのか。そして、繰り返すことで何が変わるのか。

10点を並べて確かめたい。

どこを描いたのか

場所についても触れておきたい。公開分の題名には、地名が並ぶ。

マルリー=ル=ロワ、アルジャントゥイユ、ルーヴシエンヌ、ヴヌー=ナドン、モレ。

いずれもパリの西や南に位置する町である。鉄道で行ける距離にある。

つまり、遠い異国ではなく、住んだ場所の近くを描いている。

名所ではない場所を主題にする選択については、
別のコラムでも扱った。

街路には、生活がある

まず、街の道を見たい。

エロイーズ大通り、アルジャントゥイユ
アルフレッド・シスレー《エロイーズ大通り、アルジャントゥイユ》1872年。油彩・画布。縦39.5センチ、横59.6センチ。額を含めて縦63.2センチ、横85.1センチ、厚さ10.8センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アルフレッド・シスレー《エロイーズ大通り、アルジャントゥイユ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

同じく横長で、道が奥へ伸びる。

左に建物が並ぶ。二階建て、三階建ての家が続き、看板らしきものが見える。

道の手前に荷馬車が止まる。白い馬が繋がれ、脇に人が立つ。

その周りに人が数人。黒い上衣の男、荷を持つ人、子どもが混じる。

右には並木が続く。冬なのか、葉はほとんど落ちている。

道は泥のような灰褐色で、轍の跡が残る。

看板の文字

細部にも触れておきたい。洪水の一点では、建物の壁に文字が書かれている。

上部に大きな文字、その下に細い文字が二行。店の名と扱う品目だと考えられる。

読み取れる範囲では、酒類を扱う店の表示に見える。

ただし公開画像の解像度では、確実な判読は難しい。所蔵館の記録も、文字の内容までは書いていない。

分からない部分は、分からないと書いておきたい。

人物は、生活の証拠である

人の描き方に触れておきたい。人物は小さく、顔は描かれていない。

しかし、動作は読める。馬を扱う人、歩く人、立ち話をする人。

つまり人物は、風景を「使われている場所」に見せるための要素である。

同じ役目は、別のコラムで見た17世紀の風景画にもあった。

水が、道を消す

次に、水の一点を見たい。

ポール=マルリーの洪水
アルフレッド・シスレー《ポール=マルリーの洪水》1872年。油彩・画布。縦46.4センチ、横61センチ。額を含めて縦64.7センチ、横80センチ、厚さ9.5センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アルフレッド・シスレー《ポール=マルリーの洪水》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

画面の左に、大きな建物が立つ。二階建てで、壁は黄土色である。

壁に文字が書かれている。上部に店名らしき大きな文字、その下に細い文字が並ぶ。

一階の入口の前まで、水が来ている。窓の下端に、水面が接している。

つまり、洪水の場面である。道は水没し、見えない。

手前に小舟が浮かび、人が二人乗る。一人が棹を差している。

奥にも小舟があり、水面に建物と木が反射する。

同じ場所を、複数回描く

この洪水の主題について補いたい。ポール=マルリーの洪水は、
この画家が複数回描いた主題として知られている。

同じ建物が、別の角度や別の水位で描かれた作品が各地にある。

つまり、繰り返しの記録がある主題である。

当サイトの公開分には一点しかない。残りは他館にあり、ここでは比べられない。

公開分だけで語れる範囲には、限界がある。

反射が、画面を二重にする

水面の扱いを見たい。建物の壁の色が、水面にそのまま映る。

窓の暗さ、屋根の輪郭、木の枝。いずれも上下に対応している。

ただし、映った像は輪郭が崩れている。水面がわずかに揺れているためである。

反射の描き方については、別のコラムでも扱った。

同じ川筋を扱った画家として、方法に共通点がある。