画家を知る

肖像画は、二十日で仕上がった——トマス・サリーの帳簿

三人で300ドル

家族以外の注文も見ておこう。

コールマン家の姉妹
トマス・サリー《コールマン家の姉妹》1844年。油彩・画布。縦112.5センチ、横87.5センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・サリー《コールマン家の姉妹》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

三人の若い女性が、身を寄せて並んでいる。

左の一人は肩に手を置かれ、暗褐色の肩掛けに花模様の縁が見える。

右の一人は赤い装丁の本に手を置き、横に花瓶の花がある。

三人の顔は同じ明るさで描かれ、背景は茶色一色に沈められている。

帳簿には、この三姉妹の群像として1844年3月6日着手、4月13日完成、300ドルの記載がある。

一人あたり100ドルになる。単独の胸像を三点頼むより安い。

ただし帳簿の寸法欄は、現在の所蔵館の実測と一致しない。

同一の作品と見て差し支えないと考えるが、断定はしない。

50ドルの頭部

最後の一点は、値段のいちばん下の段である。

アンドルー・ジャクソン
トマス・サリー《アンドルー・ジャクソン》1845年。油彩・画布。縦51.8センチ、横43.8センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・サリー《アンドルー・ジャクソン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

白髪を逆立てた老人の頭部。黒い上着と白い襟。

肩から下は塗られていない。画布の地色がそのまま残り、絵具の縁がぼやけて消えている。

顔だけが仕上がっている。

帳簿には1845年4月9日着手、4月18日完成、50ドルとある。

そして「自作の旧作からの複写」と注記されている。

写生ではない。自分の描いた古い肖像を、10日で写したものである。

この絵はある政治家の手元にあり、そこから版刻された。

所蔵館が公開する来歴も、その人物の名から始まっている。

つまりこの頭部は、版画の元絵として作られた可能性が高い。

未完成に見えるのは、途中で止めたからではないだろう。顔だけあれば足りたからである。

30ドルの仕事と、88歳の複製

晩年の帳簿には、別の種類の記入が増える。

1860年代、サリーは雑誌の挿絵を写した絵を描いている。

帳簿の値段欄は30ドル。署名にも「ハーパーズ・ウィークリーより」と書き込んだ。

写真が普及した時期と重なるが、因果を単純に結ぶのは避けたい。

写真の登場後も、この画家は30年近く注文を受け続けている。

確かなのは、値段の段がさらに下へ延びたことだ。50ドルの頭部の下に、30ドルの写しがある。

アルフレッド・サリー
トマス・サリー《アルフレッド・サリー》1839年ごろ。象牙に水彩。直径を含む寸法は縦7センチ、横7センチ。メトロポリタン美術館蔵。金地の縁飾りのある額に納められている。トマス・サリー《アルフレッド・サリー》メトロポリタン美術館蔵

こちらは晩年ではなく、家族の記録である。

円形の画面に、黒い帽子をかぶった少年が描かれている。

灰色の外套。喉元は黒く締められ、右手は縦に構えた銃身を握っている。

士官学校の生徒の姿である。描かれたのは1839年ごろ。

画面の直径は5センチ程度しかない。象牙の板に水彩で描く細密画である。

この息子は、のちに軍務につく。

1843年、サリーは彼への手紙で自分の財産を数え上げている。

銀行の破綻で5,000ドルを失ったこと。6,500ドルを人に貸していること。

生命保険が1,000ドル、手元の絵がおよそ同額。

「そのうえで私は一ドルの借金もない」と書いている。

60歳、2,000点以上を描いた画家の決算である。

前年、地元の美術アカデミーは彼を会長に選んだ。彼は辞退した。

理由は「役職に就くことを避ける」という自分の決めごとだった。

帳簿は、絵の値打ちを決めない

ここまで、値段と日数ばかりを書いてきた。

しかし帳簿が教えるのは、値打ちではない。作り方である。

同じ顔が何度も出てくる理由。顔だけが仕上がった絵がある理由。

家族の肖像に一般名がついている理由。どれも商売の形から説明できる。

帳簿を読むと、絵が神秘から離れていく。日付が入り、値が付き、注文主の名が付く。

しかし離れたところに、別のものが見えてくる。

十代の娘のために2メートルの画布を張り、三週間で仕上げた腕。

女王の冠を借りて、その形だけを写した手つき。

死んだ娘の顔を24年後にもう一度描いた判断。

どれも帳簿の一行として記録され、一行では説明しきれない。

そして、それを知ったあとでも、ハープの前の女性は美しい。

三週間で仕上げた絵が三週間ぶんの絵にならないのは、腕がそうさせるからである。

サリーは1807年、24歳のときにボストンでギルバート・スチュアートを訪ねている。

複製される顔を作った先達の仕事は別のコラムで扱った。

暮らしへ——手元の一枚を、値段で見てみる

最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。

家にある家族写真を一枚、思い出してほしい。

いつ撮られ、誰のために作られ、何枚焼かれたか。

肖像は、たいてい誰かの用があって作られる。飾るための用、贈るための用、示すための用。

その用を思い出すと、写っている顔の見え方が少し変わる。

貨幣や切手に載る顔についてはこちらのコラムで扱っている。

飾るときは、人物の目線の高さを自分の目線より少し上に置くと落ち着く。

額の選び方は別のコラムにまとめた。

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