手紙の絵には、書いた人がいない——ホーファー・フラゴナール・光琳ほか九点
手紙が、場面を動かす

出所の行に、珍しい書き方がある。
ある人の思い出として、その友人たちが贈った、とある。
つまり、複数の人が寄付を出し合って館に入れた。
寄贈者の名は一人ではない。
そして、記念される人は寄贈者ではない。
第十八回で、出所の行の文法を扱った。
「誰それの思い出に」という形は、よく使われる。
素描である。
紙は褐色がかっている。
中央に、人物が一人立つ。
頭から白い布をかぶり、顎の下で留める。
黒っぽい長い衣を着る。
胸に、小さな十字が下がる。
前掛けのような白い布が、腰から下を覆う。
右手に、小さな紙を持つ。
顔は正面を向き、目はこちらを見る。
背景に、階段の手すりのような形がある。
左に、扉らしいものがある。
線は、黒と白と赤で引かれる。
紙の地が、中間の明るさになる。
第一回でも、同じ作りの素描を見た。
横顔の話で扱った一点も、褐色の紙に白を起こしていた。
題によれば、この紙は入会を許す手紙である。
つまり、この人物の身の上が変わる知らせだ。
手紙は、場面を動かす道具として使われる。
読む前と読んだ後で、状況が変わる。
そして、絵はその境目を描く。
九点のうち、手紙の内容が題から分かるのは三点だった。

この作者の素描は、速さで知られる。
線を引き、そのまま淡彩を重ねる。
描き直しが少ない。
この一点でも、輪郭の線は一度で決まっている。
そして、影は筆でまとめて置かれる。
紙の白が、そのまま明るい部分になる。
第十九回で、白を残す話を書いた。
白を残す話で扱ったのは版画だった。
素描でも、原理は同じである。
褐色の淡彩による素描である。
右に、大きな寝台がある。
厚い布が、幾重にも垂れる。
その上に、人物が座る。
体をこちらへ向け、脚を伸ばす。
衣が大きく広がる。
頭に、飾りのある被り物をつける。
手に、白い紙を持つ。
その紙が、画面の中でいちばん明るい。
寝台の後ろに、もう一人いる。
顔だけが見える。
こちらを見ているようにも見える。
さらに右に、三人目がいるらしい。
線は速く、淡彩が重ねられる。
館の記録の題には、二つの呼び名が並ぶ。
「手紙」と「スペインの会話」である。
第一回でも、二つの題を持つ作品を見た。
題が定まらない作品は、少なくない。
そして、題が変われば読み方も変わる。
手紙が主題なら、紙が中心になる。
会話が主題なら、二人の関係が中心になる。

横長の小さな絵である。
左に、柳の枝が垂れる。
右に、細い木が並ぶ。
その下に、白い石の記念碑がある。
四角い形で、面に文字が刻まれる。
手前の草の上に、人物が横たわる。
白い衣を着ている。
体を伸ばし、頭を左に置く。
目は閉じられている。
足は裸である。
手のそばに、小さなものが落ちている。
館の記録によれば、これは小説から取られた場面らしい。
記念碑の文字が、ある人物の妻の死を示すという。
そして、落ちているのは小さな肖像画だと記録は書く。
さらに館は、この人物が眠っているのか、嘆いているのか、あるいは死んでいるのかを決めていない。
これは館の記述である。
こちらで確かめられるのは、目が閉じられている、ということだ。
第十四回で、横たわる姿勢を扱った。
横たわる話では、眠りと横たわることを分けた。
ここでは、その区別が館の記録でも保留されている。
読む顔は、何を示すか
手紙の絵で、いちばん難しいのは表情である。
内容は見えない。
だから、読む人の顔が唯一の手がかりになる。
九点の顔を見比べた。
はっきり喜んでいる顔は、一つもなかった。
笑っている人がいない。
口を開けている人もいない。
これは、前の回までにも何度か出てきたことである。
第二回で、肖像の口を数えた。
視線の話では、九点とも口を閉じていた。
手紙の絵でも、同じである。
では、何が違うのか。
視線の高さだと思う。
読んでいる四点では、目が下を向く。
読み終えた一点では、目が上を向く。
その差が、時間の前後を示す。
下を向いていれば、読んでいる最中である。
上を向いていれば、読み終えて考えている。
閉じていれば、その先である。
九点を並べると、その三段階が揃っていた。
つまり、手紙の絵は時間を示すことができる。
紙と目の関係だけで、前後が読める。
これは、記録には書かれていない。
館の記録が書くのは、題と、技法と、寸法である。
顔がどこを向いているかは、画像を見るしかない。