獅子は、たてがみと開いた口でできている——山口雪渓・カンパニョーラ・スタティほか九点

灰色の紙に、人と獣が散らばって描かれている。
左には、体をひねる人物が数体。
腰かけたり、身をかがめたりしている。
いずれも輪郭線だけで、顔は描かれていない。
右上には、獣が一頭いる。
うずくまり、頭を上げている。
たてがみが首を取り巻く。
その下、紙の中ほどにも、もう一頭いる。
こちらは横たわり、前脚を伸ばしている。
体の陰は、薄い淡彩で示されている。
館の札は「人体」と「獅子」の二つである。
前の回で見た鷲の一葉は、同じ帳面の別の紙だった。
同じ画家が、同じ道具で、鷲と獅子を写している。
肖像画を仕事にしていた人が、帳面には獣を描き溜めていた。
この画家の帳面については、使われなかった頁でも扱った。
紙の上での置き方も見ておきたい。
人物は左に寄り、獣は右に寄っている。
そのあいだに、白い紙が残されている。
つまり人と獣は、同じ紙の上で別の区画に住んでいる。
一枚の紙を、主題ごとに分けて使っている。
帳面は高価な品だったから、余白を残さず使うのが普通である。
その節約が、こうした混在した紙面を作った。
獅子は、柄になり、組み伏せられる
最後の二点で、獅子は人の手の中に入る。

まっすぐな刃を持つ剣である。
全体の長さは68.5センチある。
柄は太く、上へ向かってわずかに広がる。
その先端が、獣の頭になっている。
たてがみが後ろへ流れ、口が開き、牙が見える。
目は深く彫り込まれている。
獅子である。
柄の下には、金の帯が巻かれている。
さらにその下、刃の付け根には、色の付いた飾りが並ぶ。
青、赤、緑のエナメルが、細かい区画に埋め込まれている。
中央には白い石が置かれている。
館の札は「獅子」の一語である。
つまり館は、この剣を獅子の付いた道具として登録している。
握れば、手のひらのすぐ上に獣の頭が来る。
そして獣の頭は、下を向いている。
つまり剣を吊り下げたとき、獅子は前を向く。
腰に下げて歩けば、獅子の顔が横を向いて進むことになる。
材料の一覧も長い。
鋼、金、エナメル、瑪瑙、木、革。
六種類の材料が、一本の剣に集められている。
そのうち獅子の頭がどの材料でできているかは、記録に書かれていない。
見えるのは、たてがみに金の光があることだけである。

白い大理石の群像である。
高さは210センチある。
人の背丈を超える。
男がひとり、腰を落として立っている。
上体をひねり、右腕を高く上げている。
顔は下を向き、視線が足もとへ落ちる。
その足もとに、獅子がいる。
体は男の膝の下にねじ込まれている。
頭は上を向き、口が開いている。
たてがみが渦を巻いて彫られている。
前脚は地面をかき、後ろ脚は伸びている。
男の左手が、その頭を押さえつけている。
大理石は一つの塊から彫られている。
つまり人と獣は、もとから一つの石だった。
彫ることによって、二つの体に分けられている。
九点のうち、獅子が人と直接に組み合っているのは、この一点だけである。
そして彫刻の高さは、見る人の位置を決める。
210センチあるので、獅子の頭は目の高さより下にある。
男の顔は、こちらの見上げる位置にある。
つまり見る人は、獅子と同じ高さから男を見上げることになる。
台座を含めれば、さらに高くなる。
奥行きは84センチある。
正面からだけでなく、横へ回って見ることを想定した形である。
横から見れば、押さえつける腕と、ねじれた獅子の胴が重なる。
数えてみると
九点を並べ直す。
獅子の体つきが写生にもとづくと見えるのは、三点である。
吠える頭部、帳面の二頭、そして風景の中の二頭。
模様や装飾の一部になっているのは、三点である。
器の肩を回る一頭、剣の柄頭、そして葉から生えた頭。
磁器の像を加えると四点になるが、そこでは生きた個体をもとにした可能性がある。
人と組み合っているのが一点、金地の屏風で虎と対をなすのが一点である。
もう一つ数えておく。
九点のうち、獅子が口を開けているのは六点である。
閉じているのは、磁器の像と、器の模様と、素描の一頭だけである。
口を開けた姿が、獅子の標準になっている。
牙を見せることが、この獣の記号になっている。
言えることと、言えないこと
言えるのは、獅子が「たてがみと口」でできているということである。
九点のどれを見ても、その二つは必ず描かれている。
体の骨格や脚の筋肉は、点によって大きく違う。
しかしたてがみの渦と、開いた口は共通している。
見たことがなくても、この二つがあれば獅子になる。
言えないのは、東西で写実の度合いが分かれるという単純な話である。
金地の屏風の獅子は様式化されていたが、同じ屏風の虎は骨格が正確だった。
一方、ヨーロッパの器の獅子も、模様として様式化されていた。
分かれたのは土地ではなく、使われ方である。
最後に、はじめの一双へ戻る。
暗い部屋の中で、金箔が灯りを返す。
その光の中に、赤いたてがみと黒い縞が浮かび上がる。
見る人は、生きた獣を見ているのではない。
光を返す面の上の、形を見ている。
九点を数え終えて残るのは、その光り方のほうである。








