正月の絵に、門松は立っていない——湖龍斎・呉彬・ベックマンほか九点
日の出の屏風の前に積まれた贈り物、柱に貼る細長い凧の絵、十メートルの巻物に描かれた迎春の行事。正月にまつわる九点を数えると、門松は一本も立っていなかった。飾りと遊びと商いと、裏返った祝いの言葉まで並べて読む。

屏風の前に、贈り物が積んである
小さな紙である。
右手に、黒い枠の屏風が立てられている。
屏風の左の面には、赤い日輪が昇っている。
右の面には、鶴のような形が墨で描かれている。
屏風の前の床は、朱色である。
そこに、白い紙包みがいくつも積み上げられている。
包みには、細い紐と、折った飾りが掛かっている。
手前には、扇のような形と、小さな箱も見える。
左半分は余白で、そこに仮名の歌が三行書かれている。

館の記録の分類は、屏風、の一語である。
題には、正月の贈り物、とある。
つまりこれは、年始の贈答の品を描いた紙である。
日の出の屏風の前に、包みが並ぶ。
その取り合わせだけで、正月と分かる。
そして、この紙自体が贈り物でもある。
摺物は、私家版の版画である。
歌や句を添えて、年の初めに配られた。
紙の左半分の歌が、その役を果たしている。
贈り物の絵が、贈り物として配られる。
九点の正月は、この二重の仕掛けから始めたい。
屏風の日の出も、初日の出を指しているのだろう。
ただし、記録はそこまで書いていない。
書いてあるのは、屏風、という分類の一語だけである。
絵の中の屏風に描かれた日の出。
絵の中の絵が、季節を告げている。
さて、正月は暦の上の一日である。
だが、絵の中の正月は一日では終わらない。
飾り、遊び、初芝居、そして厄払い。
行いの束として、正月は画面に現れる。
九点を並べて、その中身を数えてみたい。
夜具にまで、松と若松
二点目も摺物である。

画面いっぱいに、たたんだ夜具が積み上げられている。
いちばん上には、黒い枕らしい形がある。
その下に、白地に赤と緑の模様の布。
模様には、菊のような丸い花と、蝶が散らばる。
左には、細い松の枝が立てかけてある。
枝には、赤い実と、白い紙の飾りが付いている。
そして布の上に、大きな字が三つ書かれている。
余白にも、細かい仮名の歌が寄せてある。
館の記録は、作者と題と技法と寸法だけの短いものである。
だから、この夜具が誰のためのものかは分からない。
分かるのは、正月の飾りと、寝るための道具が一緒に描かれていることである。
年の初めに、新しい夜具を用意する。
そういう習わしを写したものかもしれない。
ただし、記録はそこまで書いていない。
言えるのは、松と飾りが添えられていることだけである。
松の枝が一本あれば、その紙は正月の紙になる。
正月の絵は、少ない記号でよく働く。
この紙も、19.7×18.1センチしかない。
手のひらに載る大きさである。
そして、二点とも同じ収集家の遺贈で1929年に館へ入っている。
摺物は、まとめて集められ、まとめて残る。
配られた紙が、百年たって一つの箱に収まった。
門松、日の出、鶴、羽子板。
そのどれか一つで、季節は名乗れる。
柱に貼る、細長い正月
三点目は、奇妙な形の紙である。

縦70.8センチ、横12.2センチ。
細長い短冊のような紙である。
上のほうに、若者が立っている。
肩に大きな凧をかつぎ、糸巻きを手にしている。
その足元に、小さな子どもがいる。
子どもは上を見上げ、手を伸ばしている。
凧の紙には、太い線で図が描かれている。
背景はほとんど余白のままである。
館の記録では、凧揚げは日本で人気のある遊びだった。
とくに正月の行事のあいだに行われたという。
凧の形には、鳥、蝶、二枚重ねの扇、英雄の顔などがあるとある。
そして、伝統的に凧を揚げるのは男と少年だけだった、と記録は書く。
この細長い紙は、柱に掛けるための版画である。
家の柱の幅に合わせて、縦に長く作られている。
つまりこの一枚は、飾られる場所まで決まっていた。
正月の絵は、部屋のどこに貼るかまで含めて作られる。
そして凧は、外で揚げるものである。
家の中の柱に、外の遊びを貼っておく。
凧そのものは、風がなければ上がらない。
風を待つ道具を、風の入らない柱に掛ける。
正月の絵には、そういう入れ替えがよく起きる。
飾りは、行いの代わりに置かれるものだからである。
この紙は、収集家夫妻の寄贈で1916年に館へ入った。
羽子板を持つ、供の子ども
四点目は、肉筆の掛軸である。

背の高い女が、こちらへ歩いてくる。
厚い衣を何枚も重ね、前で帯を大きく結んでいる。
足元は、黒く塗った背の高い下駄である。
髪には、べっ甲の櫛が扇のように挿してある。
その左右に、小さな女の子が二人付き従う。
二人とも、手に平たい板を持っている。
羽根をつく板である。
一人はこちらを正面から見ている。
館の記録では、厚い衣と高い下駄が冬であることを示す。
帯を前で結ぶのは、この人の職業の印だという。
肩のあたりには、桜を丸くかたどった家の紋が見える。
同じ紋が、二人の子どもの衣にも付いている。
そして記録は、板の正体を書いている。
羽根つきに使う板で、正月の祝いに結びついた遊びだという。
正面を向いた子どもの顔は、この種の絵では珍しいともある。
つまりこの掛軸は、冬の装いと正月の遊び道具で、季節を二重に示している。
雪も、門松も、日の出も描かれていない。
代わりに、下駄の高さと、板の形がその役をしている。
軸は表具を含めて189.8センチある。
床の間に掛ければ、等身に近い高さで人が立つことになる。
肉筆の一点物だから、摺物と違って一枚しかない。
来歴の欄も短く、収集家の名が二行あるだけである。