美術史・技法

屋根は、遠くから見た家である——レンブラント・呉鎮・北斎の周辺ほか九点

屋根は離れていても見える部分だから、風景では家の代わりを務める。九点で数えると、屋根が描かれるのは六点、うち四点が草葺きだった。屋根の上から撮った写真、屋根板の置き場、店の名まで混じる。屋根の形は、その土地の雨の量を映している。

道沿いに切妻屋根の三軒の小屋がある風景
レンブラント・ファン・レイン《道沿いに切妻屋根の三軒の小屋がある風景》クリーヴランド美術館蔵

三軒の小屋が、道の脇に寄せてある

一枚の銅版画に、低い小屋が三軒並んでいる。

紙は16.2×20.4センチしかない。

画面は横長で、上の隅が丸く落とされている。

右の三分の一を、大きな木が占めている。

葉は細かい線の塊で、枝の形は見えない。

その左に、小屋が三軒続く。

いちばん手前の小屋は、屋根が地面近くまで下りている。

屋根は草を厚く葺いたものらしい。

線が下向きに揃い、厚みが表されている。

壁は低く、屋根のほうが背が高い。

つまりこの家は、ほとんど屋根でできている。

真ん中の小屋には、三角の切妻が見える。

奥の一軒は、屋根の稜線だけが分かる。

小屋の前を、道が左手前へ抜けていく。

道の上には、小さな人影が二つある。

遠くには、平らな土地と町の影が見える。

空は白いまま残されている。

館の記録によれば、エッチングにドライポイントを併用している。

画面の右下には、作者の名と年が版のなかに彫り込まれている。

道沿いに切妻屋根の三軒の小屋がある風景
レンブラント・ファン・レイン《道沿いに切妻屋根の三軒の小屋がある風景》1650年。館の記録では、エッチングとドライポイント。紙は16.2×20.4センチ。番号は1962.22。クリーヴランド美術館蔵。レンブラント・ファン・レイン《道沿いに切妻屋根の三軒の小屋がある風景》クリーヴランド美術館蔵

屋根は、建物のうち最も遠くから見える部分である。

壁は近づかないと見えないが、屋根は離れていても見える。

だから風景画では、屋根が家の代わりを務める。

三角形が一つあれば、そこに家があると分かる。

その省略のしかたが、絵ごとにどう違うか。

九点で数えたい。

屋根は、材で呼ばれる

集めかたは、館の記録の題によっている。

屋根、草葺き、軒にあたる語が入るものを拾った。

拾った九点には、思わぬものが混じった。

屋根の材の置き場、屋根の上から撮った写真、屋根の語を持つ店の名。

そこは後半で扱う。

まず、屋根そのものが描かれた例を数える。

九点のうち、屋根が画面に描かれているのは六点だった。

そのうち四点は、草を葺いた屋根である。

瓦や板の屋根は、二点しかない。

草葺きが多いのは、題に「草」の字が入りやすいからだろう。

東アジアの絵では、草庵、草亭、草堂といった語が題に使われる。

いずれも草葺きの小さな建物という意味である。

その語があると、記録の題にそのまま残る。

一方、瓦葺きの建物は、屋根ではなく建物の名で呼ばれる。

宮殿、聖堂、館。

だから題に屋根の語は入らない。

つまり今回の九点は、草葺きの側に偏っている。

集めかたが、結果を決めている。

草の屋根は、四点あった

草葺きの四点を見たい。

一点目は、中国の画帖の一葉である。

全体で30.2×26.7センチ。

絹に墨と色で描かれている。

画面の下のほうに、小さな建物がある。

屋根は丸みを帯び、草を重ねた線で示される。

その中に、人が一人座って書物を開いている。

建物の周りは、奇怪な形の岩に囲まれている。

岩の上には、松が横へ大きく張り出す。

松の葉は、細かい点の集まりで描かれる。

右上には、崖から落ちる細い水が見える。

館の記録では、この画帖は二十図から成る。

館の記述によれば、画家は晩年に人物や風景を小さく描いた。

小さな庭や、小さな石を眺めるのと同じ態度だという。

世界を縮めて見る、という言い方が記録にある。

なお制作年の欄には、画家の生没年がそのまま入っている。

一葉ごとの年は、記録されていない。

滝のほとりの草庵で読書する文人(古人に倣う画より)
陳洪綬《滝のほとりの草庵で読書する文人(古人に倣う画より)》十七世紀前半。館の記録では、画帖の一葉。絹に墨と色。全体で30.2×26.7センチ。番号は1979.27.2.18。クリーヴランド美術館蔵。陳洪綬《滝のほとりの草庵で読書する文人(古人に倣う画より)》クリーヴランド美術館蔵

二点目は、巻子である。

画面そのものは24×99.9センチ。

ところが、表装まで含めた全体は24.5×489.1センチある。

つまり五メートル近い巻物のうち、絵は一メートルしかない。

残りは、題字と後世の書き込みで埋まっている。

絵の部分には、低い丘と数本の木がある。

その間に、草葺きの小さな亭がある。

亭には壁がなく、柱と屋根だけで建っている。

人は描かれていない。

館の記録は、画家自身の書き付けを全文写している。

村の脇に草の亭を建てた、という詩である。

林が深いので鳥が楽しみ、俗世が遠いので竹と松が軽い。

そういう内容が続く。

詩の終わりに、年と、誰のために描いたかが記されている。

印が二つ押されていることも、記録に書かれている。

草亭の詩情
呉鎮《草亭の詩情》1347年。館の記録では、巻子。紙に墨。画面24×99.9センチ。表装を含めて24.5×489.1センチ。番号は1963.259。クリーヴランド美術館蔵。呉鎮《草亭の詩情》クリーヴランド美術館蔵

三点目も、巻子である。

こちらは画面が31×81.5センチ。

全体は34.2×1164センチある。

十一メートルを超える。

絵は、全長の十四分の一にも満たない。

館の記録によれば、残りには十二人の書き込みが貼り継がれている。

いずれも、この庭の持ち主と同時代の人々である。

さらに、二十世紀初めに書かれた題字も付いている。

絵の部分は、ごく淡い墨で描かれている。

水辺に、草葺きの家が一軒ある。

そのまわりに、細い木が数本立つ。

対岸には、低い土坡が横たわる。

館の記述によれば、これは春の朝の湿った空気を描いたものだという。

同じ記述は、家の持ち主が官を退いて庭を作ったとも書く。

絵は一枚だが、巻物は十二人ぶんの言葉を抱えている。

春雨の草庵
王建章《春雨の草庵》1650年。館の記録では、巻子。紙に墨。画面31×81.5センチ。表装を含めて34.2×1164センチ。番号は2008.108。クリーヴランド美術館蔵。王建章《春雨の草庵》クリーヴランド美術館蔵

四点目は、最初に見た三軒の小屋である。

草葺きの厚みが、最もよく分かる一点だった。