屋根は、遠くから見た家である——レンブラント・呉鎮・北斎の周辺ほか九点
屋根は離れていても見える部分だから、風景では家の代わりを務める。九点で数えると、屋根が描かれるのは六点、うち四点が草葺きだった。屋根の上から撮った写真、屋根板の置き場、店の名まで混じる。屋根の形は、その土地の雨の量を映している。

三軒の小屋が、道の脇に寄せてある
一枚の銅版画に、低い小屋が三軒並んでいる。
紙は16.2×20.4センチしかない。
画面は横長で、上の隅が丸く落とされている。
右の三分の一を、大きな木が占めている。
葉は細かい線の塊で、枝の形は見えない。
その左に、小屋が三軒続く。
いちばん手前の小屋は、屋根が地面近くまで下りている。
屋根は草を厚く葺いたものらしい。
線が下向きに揃い、厚みが表されている。
壁は低く、屋根のほうが背が高い。
つまりこの家は、ほとんど屋根でできている。
真ん中の小屋には、三角の切妻が見える。
奥の一軒は、屋根の稜線だけが分かる。
小屋の前を、道が左手前へ抜けていく。
道の上には、小さな人影が二つある。
遠くには、平らな土地と町の影が見える。
空は白いまま残されている。
館の記録によれば、エッチングにドライポイントを併用している。
画面の右下には、作者の名と年が版のなかに彫り込まれている。

屋根は、建物のうち最も遠くから見える部分である。
壁は近づかないと見えないが、屋根は離れていても見える。
だから風景画では、屋根が家の代わりを務める。
三角形が一つあれば、そこに家があると分かる。
その省略のしかたが、絵ごとにどう違うか。
九点で数えたい。
屋根は、材で呼ばれる
集めかたは、館の記録の題によっている。
屋根、草葺き、軒にあたる語が入るものを拾った。
拾った九点には、思わぬものが混じった。
屋根の材の置き場、屋根の上から撮った写真、屋根の語を持つ店の名。
そこは後半で扱う。
まず、屋根そのものが描かれた例を数える。
九点のうち、屋根が画面に描かれているのは六点だった。
そのうち四点は、草を葺いた屋根である。
瓦や板の屋根は、二点しかない。
草葺きが多いのは、題に「草」の字が入りやすいからだろう。
東アジアの絵では、草庵、草亭、草堂といった語が題に使われる。
いずれも草葺きの小さな建物という意味である。
その語があると、記録の題にそのまま残る。
一方、瓦葺きの建物は、屋根ではなく建物の名で呼ばれる。
宮殿、聖堂、館。
だから題に屋根の語は入らない。
つまり今回の九点は、草葺きの側に偏っている。
集めかたが、結果を決めている。
草の屋根は、四点あった
草葺きの四点を見たい。
一点目は、中国の画帖の一葉である。
全体で30.2×26.7センチ。
絹に墨と色で描かれている。
画面の下のほうに、小さな建物がある。
屋根は丸みを帯び、草を重ねた線で示される。
その中に、人が一人座って書物を開いている。
建物の周りは、奇怪な形の岩に囲まれている。
岩の上には、松が横へ大きく張り出す。
松の葉は、細かい点の集まりで描かれる。
右上には、崖から落ちる細い水が見える。
館の記録では、この画帖は二十図から成る。
館の記述によれば、画家は晩年に人物や風景を小さく描いた。
小さな庭や、小さな石を眺めるのと同じ態度だという。
世界を縮めて見る、という言い方が記録にある。
なお制作年の欄には、画家の生没年がそのまま入っている。
一葉ごとの年は、記録されていない。

二点目は、巻子である。
画面そのものは24×99.9センチ。
ところが、表装まで含めた全体は24.5×489.1センチある。
つまり五メートル近い巻物のうち、絵は一メートルしかない。
残りは、題字と後世の書き込みで埋まっている。
絵の部分には、低い丘と数本の木がある。
その間に、草葺きの小さな亭がある。
亭には壁がなく、柱と屋根だけで建っている。
人は描かれていない。
館の記録は、画家自身の書き付けを全文写している。
村の脇に草の亭を建てた、という詩である。
林が深いので鳥が楽しみ、俗世が遠いので竹と松が軽い。
そういう内容が続く。
詩の終わりに、年と、誰のために描いたかが記されている。
印が二つ押されていることも、記録に書かれている。

三点目も、巻子である。
こちらは画面が31×81.5センチ。
全体は34.2×1164センチある。
十一メートルを超える。
絵は、全長の十四分の一にも満たない。
館の記録によれば、残りには十二人の書き込みが貼り継がれている。
いずれも、この庭の持ち主と同時代の人々である。
さらに、二十世紀初めに書かれた題字も付いている。
絵の部分は、ごく淡い墨で描かれている。
水辺に、草葺きの家が一軒ある。
そのまわりに、細い木が数本立つ。
対岸には、低い土坡が横たわる。
館の記述によれば、これは春の朝の湿った空気を描いたものだという。
同じ記述は、家の持ち主が官を退いて庭を作ったとも書く。
絵は一枚だが、巻物は十二人ぶんの言葉を抱えている。

四点目は、最初に見た三軒の小屋である。
草葺きの厚みが、最もよく分かる一点だった。