平面にすると、色が残る——ポール・ゴーギャン
自画像

自画像である。
顔が画面の右上を占めている。大きい。
髪は暗い茶で、額の上でまとめられている。
目は左を向き、こちらを見ていない。
上着は青灰色。内側に黄色い服が見える。
背景は左が緑で、細い縦の筆が並ぶ。
上部に手書きの文字がある。献辞である。
顔の陰影は少なく、輪郭が明確である。
つまり肖像でも同じ方法が使われている。
南太平洋へ渡ってから
1891年、画家はフランスを離れ、南太平洋のタヒチへ渡った。
以後、短い帰国を挟みながら、島で制作を続けた。

画面の上部に、海と空が広がる。
砂浜には人が並び、赤い衣の女性が二人、水辺に立つ。
中央には大きな像がある。頭に飾りを付けた立像で、背後に樹が広がる。
そして下半分を見てほしい。
水面が描かれているが、色が現実離れしている。
桃色、黄、青、黒。曲線で区切られた色の面が並ぶ。
その上に三人の人物が横たわり、影のように配されている。
つまり下半分は、ほとんど抽象的な色面である。
水の反射を、模様として描いている。
この絵の題名は、現地の言葉である。
画家は多くの作品に、タヒチ語の題を付けている。
読める人にとっては意味を持ち、読めない人には音として響く。
つまり題名そのものが、異国の記号として働く。
売る相手はフランスの観客だった。
題名の選択も、市場を意識した判断だと考えられる。
帰国して描いた島の絵
制作の事情も押さえておきたい。
この一点は1894年、フランスに一時帰国していた時期の作品である。
つまり島を離れた場所で、島を主題に描いている。
記憶と、持ち帰った素描や写真を頼りにした制作である。
現地で写生したものではない。
この点は、絵の性格を考えるうえで重要である。
眺めの再現ではなく、構成された画面ということになる。
額と縁の扱い
作品の縁についても書いておきたい。
この画家は、自作に自分で額を選び、彩色することがあった。
平らな色面の絵に、装飾の少ない縁を合わせる。
つまり額まで含めて画面を設計している。
同時代の画家にも、額を自分で決めた例がある。
その事情は別のコラムで扱った。
額を選ぶことは、作品の見せ方を管理することである。
装飾画に近い性質の絵では、額の重要度が上がる。
島の絵を、どう読むか
ここで主題について書いておきたい。
これらの絵は、フランスの植民地で描かれた。
当時のタヒチはフランスの統治下にあり、行政と宣教の制度が入っていた。
画家が描いた「手つかずの島」は、すでにそうではなかった。
さらに、絵の中の要素には他の地域からの引用が混ざっている。
像の形、装飾の意匠、姿勢。いずれも現地の伝統そのままではない。
つまり画面は、観察と創作の混合である。
そして、画家と現地の若い女性たちとの関係については、
現在では厳しい批判の対象になっている。
年齢の差、植民地の権力関係、記録の一方性。
これらは絵の外の事実だが、絵の読み方に関わる。
本稿では、作品を無批判な記録として扱わない。
同時に、絵を見ずに済ませるのも公平ではないと考えている。
見るときに、条件を書き添える。それが本稿の立場である。
「記録」という言葉の危うさについては
別のコラムで扱った。
水辺の場面

横長の画面である。
左に女性が立ち、体の前で手を組んでいる。
その隣にもう一人が座り、右にはさらに二人がいる。
奥には赤い衣の人物と、青い像のような形が立つ。
地面は赤橙で、水辺は紫がかっている。
樹の幹は暗く、葉は濃緑の塊である。
つまり地面の色が、ここでも現実から離れている。
人物の肌は黄土色から褐色で、平らに塗られている。
輪郭線は太く、体の外形を明確に囲む。
小さな板の絵

小さな横長の板絵である。縦24.4センチ、横43.2センチ。
三人の女性が並んでいる。
左の一人は白い布を持ち、身をかがめている。
中央の一人は赤い腰布で、正面を向く。
右の一人は横を向き、髪に花を挿している。
背景は緑の葉と、細い樹の幹。
下方に水面らしい白と黄の帯がある。
小さな板でありながら、構成は大画面と同じである。
三人を横に並べ、色面で背景を作る。
つまり寸法に関わらず、方法は一定している。
木彫と陶器も作っている
この画家は絵だけを作っていたわけではない。
木彫、陶器、版画も手がけている。
当サイトの公開分は絵画が中心だが、他の分野の仕事も知られている。
木を彫れば、線は溝になり、面は段差になる。
陶器を作れば、釉の色は面として広がる。
つまり立体の仕事では、線と面が物理的に分かれている。
その経験が、絵の平面化と関わっている可能性がある。
絵具で陰影を作るのではなく、輪郭で区切って色を置く。
工芸の作り方に近い考え方である。
素材を横断して働く画家は、方法を持ち運ぶ。
同じことは、ガラスと七宝と照明を手がけた工房にも言える。
その事情は別のコラムで扱った。