画家を知る

平面にすると、色が残る——ポール・ゴーギャン

静物にも同じ方法を使う

ティーポットと果物のある静物
ポール・ゴーギャン《ティーポットと果物のある静物》1896年。油彩・画布。縦47.6センチ、横66センチ。メトロポリタン美術館蔵。ポール・ゴーギャン《ティーポットと果物のある静物》メトロポリタン美術館蔵

卓の上に白い布が敷かれている。

その上に、青みがかった白の急須が置かれている。

急須の上に大きな黄色い花が二つ。上に伸びている。

右にはマンゴーらしい果実が四つ。黄、緑、暗赤。

卓の左手前に木の匙がある。

背景は濃い青で、右に褐色の柱のような帯が立つ。

つまり背景が平らな青である。

現実の壁の色ではなく、色面として置かれている。

静物でも、平面の方法が使われていることになる。

手紙と手記が残っている

言葉の記録にも触れておきたい。

この画家は手紙と手記を多く残した。

色や構成についての考えも書かれている。

ただし自己を演出する記述も混じっている。

「文明を離れた画家」という像は、本人が積極的に作った面がある。

つまり言葉の記録は、事実の報告とは限らない。

絵と言葉を突き合わせるときには、この点に注意が要る。

本稿では絵から読めることを主に書き、言葉は参考として扱った。

晩年の一点

祈り
ポール・ゴーギャン《祈り》1903年。油彩・画布。縦65.5センチ、横75.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ポール・ゴーギャン《祈り》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

没年の作品である。

画面の中央に、女性が立ち、両手を上げている。

背後には緑の丘と、青い山が重なる。

左手前に二人が座り、右に赤と桃色の衣の人物が立つ。

地面は紫と桃色で、緑の葉が点在する。

丘の上に小さな十字架が見える。

つまり島の風景の中に、キリスト教の記号が入っている。

統治と宣教の状況が、画面の細部に現れている。

島で描いた絵は、どこで売られたか

流通についても押さえておきたい。

これらの絵は、フランスの画商と収集家に向けて作られた。

島で描き、船で送り、パリで展示する。

つまり主題は南太平洋だが、市場はヨーロッパにあった。

だから題名にタヒチ語が使われ、図像に異国の記号が入る。

買い手にとって、それは新しさの印になる。

一方、描かれた側の人々には、絵から得るものがない。

観察される側と買う側が完全に分かれている。

この非対称は、絵の内容ではなく流通の構造にある。

公開画像を扱う際にも、この構造は覚えておきたい。

見立て——平面にすると、色が主題になる

まとめておきたい。

輪郭線で囲み、内側を平らに塗る。

この方法を採ると、陰影による立体感が消える。

そのぶん、色そのものが前に出る。

桃色の空、赤橙の地面、紫の水辺。

現実の色から離れた色を選べるのは、平面化の結果である。

立体を作る必要がなければ、色は自由になる。

つまり平面化は、色の自由と引き換えの選択である。

木彫と版画の仕事

分野の広さにも触れておきたい。

この画家は、木彫と木版も手がけている。

木を彫れば、線は溝になり、面は段になる。

版画では、色を平らに摺る。

つまり立体と印刷の仕事では、線と面が物理的に分かれる。

絵画の平面化は、その経験と地続きだと考えられる。

素材を横断して働く作り手は、方法を持ち運ぶ。

工房が分野を横断した例は別のコラムでも扱った。

版画の方法と、近い

同じ方法は、版画にも見られる。

輪郭を彫り、色を平らに摺る。

日本の錦絵は、まさにその作りである。

その事情は別のコラムで扱った。

版画から絵画へ、方法が移った例と言える。

そして厚紙に線と色面で描いた同時代の画家もいる。

その仕事はこちらのコラムで扱った。

十九世紀末の絵画には、平面へ向かう共通の動きがあった。

亡くなった場所

晩年の経緯にも触れておきたい。

この画家は1903年、南太平洋のマルキーズ諸島で没した。

フランスへは戻らなかった。

作品は画商と友人を介してパリへ運ばれ、その後に評価が高まる。

つまり生前の評価と、死後の評価が大きく違う。

作品が市場で価値を持つまでに、時間差があったことになる。

評価の遅れは、他の画家にも珍しくない。

暮らしへ——輪郭を描いて、色を塗る

最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。

紙に輪郭だけを描き、内側を平らに塗ってみてほしい。

影を入れず、一つの形に一色。

それだけで、絵は模様に近づく。

そして色を現実から離してみる。

空を桃色に、地面を赤に。

形が保たれていれば、色を変えても絵は成立する。

百三十年前の画家が試したのは、この自由である。

そして、色を変えたときに何が失われるかも確かめてほしい。

現実の色を離れると、時刻や天気の情報は消える。

得るものと失うものが、はっきり分かる。

そして、輪郭線の太さを変えてみてほしい。

細い線では形が繊細に見え、太い線では図案のように見える。

線の太さは、平面の絵でもっとも効く要素である。

群として見ると、場所が見える

最後に、見方をまとめておきたい。

23点を制作年で並べると、ブルターニュから南太平洋への移動が読める。

色の傾向も、土地とともに変わっていく。

ただし移動の意味は、絵の中だけでは決まらない。

植民地の条件を頭に置いて読む必要がある。

公開画像は、そのための道具である。

ただし画像は、作品が作られた場所の条件を伝えない。

南太平洋の作品を見るときは、この点をとくに意識したい。

見えているのは画面であり、状況ではない。

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