かぶった帽子と、手に持った帽子——欧米の肖像・版画ほか九点
帽子をかぶれば、頭の形が変わる。手に持てば、それは持ち物になる。同じ品でも、位置で働きが変わる。九点で、帽子の扱いを分けたい。脱いだ帽子は、しばしば敬意を示す。帽子の形が、身分や職を示す例も並べたい。

かぶるものと、持つもの
前の回で、布を見た。
布は体に掛かり、その形を示していた。
今回は、頭にかぶるものである。
帽子には、布にない性質がある。
外せることである。
かぶっていることも、手に持っていることもできる。
そして、外した帽子は、それ自体が一つの形になる。
九点を並べて、かぶるときと持つときの違いを読みたい。
そして、かぶれない帽子も見たい。

小さな板絵である。
二十九・三掛ける二十三・二センチ。
そして、画面が楕円に見える。
四隅が褐色で塗りつぶされている。
その楕円の中に、若い男が胸から上で描かれる。
体は右を向き、顔は正面に近い。
口の端が上がり、笑っている。
首もとに、白い襞襟。
上着は褐色で、袖に切れ目が入る。
胸に、赤い紐が垂れる。
右手に、暗い色の器を持つ。
そして、頭に大きな帽子をかぶる。
つばが広く、平らである。
顔の幅の二倍近くある。
つばの広さが、顔を囲む
この帽子は、顔より大きい。
そして、つばが水平に張り出す。
つまり、顔の上に横の線が一本引かれることになる。
その線が、顔を画面の下半分に押し込める。
もし帽子がなければ、顔がもっと上に来る。
そして、画面が間延びする。
つまり、帽子は構図の道具でもある。
第七回で、木が縦の柱になると書いた。
つばの広い帽子は、横の梁になる。
そして、この一点では画面が楕円である。
楕円の上端の丸みと、つばの丸みが呼応する。
画面の形と、帽子の形が合わせられている。
帽子は、身分を示す
帽子には、装飾のほかに役目がある。
日を遮る。
雨を防ぐ。
頭を守る。
そして、身分や職業を示す。
九点を見ると、その全部が現れている。
つばの広い帽子は、日を遮るためのものである。
編笠も同じである。
鉄の陣笠は、頭を守る。
白い室内用の帽子は、髪を覆うためのものである。
そして、いずれもその社会での立場を示していた。
かぶるものが決まっていた時代が長い。
誰がどの帽子をかぶるかは、規則で決まっていることもあった。
だから、絵のなかの帽子は情報になる。
見る人は、帽子を見てその人が誰かを推し量る。
第十六回で、布が身分を示すと書いた。
帽子は、それをさらに端的にする。
顔のすぐ上にあるので、必ず目に入るからである。
影が、顔に落ちる
つばの広い帽子には、もう一つの効果がある。
顔に影が落ちることである。
上からの光を、つばが遮る。
だから、額と目のあたりが暗くなる。
この一点でも、目の上が影になっている。
そして、頬から下が明るい。
第十二回で、光源の位置が影を決めると書いた。
帽子は、影を作る装置でもある。
そして、その影が表情を作る。
目が影に入ると、視線が読みにくくなる。
読みにくいことが、この肖像の印象を決めている。

こちらも小さい。
四十・六掛ける三十二・四センチ。
少女が、胸から上で描かれる。
顔は左を向き、横顔に近い。
頬が丸く、赤みがある。
髪は肩まで垂れ、明るい茶色。
そして、頭に帽子をかぶる。
黒い平たいつばが、後ろへ傾く。
その上に、桃色の飾りが盛られている。
大きく、柔らかい。
背景は、緑と青が混ざる。
衣は淡い桃色で、輪郭が曖昧である。
筆の跡が、太く残る。
帽子が、いちばん暗い
この一点で、いちばん暗いのは帽子である。
顔も、髪も、衣も明るい。
黒い帽子だけが、強い暗さを持つ。
そして、その暗さが顔を際立たせる。
明るい顔の隣に、暗い面がある。
その対比で、顔が前に出る。
第十六回で、白い布が顔を持ち上げると書いた。
こちらは、黒い帽子が顔を支えている。
明るくても暗くても、対比があればよい。
要は、顔のまわりに差を作ることである。
白い帽子

第十八回で読んだ寄贈の系統に近い一点である。
暗い緑の背景。
その前に、年配の女性が真横を向いて描かれる。
完全な横顔である。
鼻筋と、顎の線が輪郭として見える。
目は一つだけ見える。
そして、頭に白い帽子をかぶる。
丸く膨らみ、後頭部を覆う。
縁に、細かい襞が並ぶ。
その上に、灰色の帯が回る。
首もとにも、白い襞飾り。
衣は、黄土色である。
完全な横顔という形式
この肖像は、真横から描かれている。
第十八回で、メダルの横顔について書いた。
横顔は、輪郭の一本の線で人を示す。
そして、この一点では帽子も横から見た形になる。
丸い塊が、後頭部に乗る。
正面から見れば、また違う形に見えるはずである。
つまり、帽子の形は見る角度で変わる。
前の二点は、斜めから見ていた。
だから、つばの楕円が見えていた。
こちらは真横なので、つばが線になる。
同じ帽子でも、角度で見え方が違う。

正方形の画面である。
第十六回でも、この画家の別の一点を読んだ。
画面の中央に、女性が座る。
前かがみになり、体を丸める。
灰褐色の上着と、同じ色の裾。
そして、両手で帽子を持ち上げている。
顔の高さに掲げ、見ている。
帽子は青みを帯び、飾りが付く。
その左に、もう一人の頭が見える。
明るい髪で、こちらも前かがみである。
床には、赤と白の格子の敷物。
背景は、桃色と青の縦の帯。
鏡か、壁だろう。