四百年、同じ腕で抱いている——ベルリンギエーロ・ピサーノ・ロッセリーノほか九点
遊びと、笑い

細長い掛軸である。
縦103.5センチ、横31.8センチ。
縦が横の三倍以上ある。
画面の中央に、二人がいる。
大きいほうは、青い衣を着ている。
衣には、細かい模様が散る。
体を斜めに傾け、片手を上げる。
その手に、細長い棒のようなものを持つ。
下のほうに、小さな子がいる。
赤い衣を着て、両手を上げる。
体を反らせている。
背景は、絹の地のままである。
何も描かれていない。
表装は、褐色の裂である。
先の八点と比べたい。
この一点だけ、二人が触れていない。
離れている。
そして、遊んでいる。
抱く型でも、別れる型でもない。
館の記録の札には、遊ぶの語が入っている。

九点でいちばん大きい絵である。
縦195.6センチ。
人の背丈を超える。
人物が立っている。
黒っぽい長い衣を着る。
その裾が、足元で広がる。
上半身は、白い布で覆われる。
肩が出ている。
髪は褐色で、頭の後ろでまとめられる。
顔は下を向く。
胸のあたりに、小さな子を抱える。
子は、黒い布に包まれている。
抱えている腕は、右である。
九点のうち、右腕で抱えるのはこの一点だけだった。
背景は、上が薄い桃色である。
下のほうに、水平線らしい線がある。
海だろうか。
題は「幸福な母」である。
館の記録には、それ以上の説明がない。
抱く腕は、なぜ左が多いのか
九点のうち、抱く腕が読めるのは五点だった。
そのうち四点が、左腕である。
この偏りは、以前から知られている。
人は、子を左で抱く傾向があるという。
理由については、いくつかの説明がある。
心臓の音が聞こえる側だから、という説がある。
右手を空けておくため、という説もある。
ただし、こちらでそれを確かめることはできない。
九点の記録にも、そうした説明は書かれていない。
こちらで言えるのは、九点のうち四点が左だった、ということだけである。
そして、この四点は、いずれも宗教の主題だった。
聖母子の型が、左腕で抱く形になっている。
型が決まっていれば、作る人はそれに従う。
だから、四点が揃うのは当然でもある。
型の外にある五点を見ると、事情が違う。
肖像の一点では、子は膝の上に座る。
抱かれてはいない。
素描の一点でも、膝の上である。
掛軸の一点では、離れている。
そして、二十世紀の油彩だけが、右腕で抱く。
型に従わない絵では、抱き方が揃わない。
型があるかどうかで、姿勢の揃い方が変わる。
第十二回でも、同じことを書いた。
座る話では、型に属する作品の姿勢が揃っていた。
子の大きさは、正しいか
九点の子の大きさも比べたい。
母と子の身長の比を見ると、揃っていない。
生まれたばかりの子は、大人の三分の一ほどの背丈である。
頭は、体に比べて大きい。
九点のうち、その比が守られているのは四点だった。
守られていない五点では、子が小さすぎるか、頭が小さすぎる。
とくに古い三点では、子の顔が大人の顔に近い。
体は小さいのに、顔つきが大人である。
これは、古い時代の宗教画によく見られる。
子として描かないという選択がある、と説明されることが多い。
ただし、これは伝聞である。
館の記録は、そこには触れていない。
こちらで確かめられるのは、顔の作りが大人に近い、ということまでだ。
十八世紀以降の三点では、子の顔が丸い。
頬が張り、額が広い。
体に対する頭の割合も大きい。
つまり、子として描かれている。
同じ「母と子」でも、子の描き方が時代で変わる。
九点を並べて、数えられたこと
題に聖母子とあるのが四点。
母の語が入るのが四点。
母性という語が題になるのが一点。
抱き方も数えた。
抱いている、あるいは膝に乗せているのが六点。
離れているのが二点。
別れているのが一点。
抱く腕が読めるのは五点である。
そのうち四点が、左腕で抱えている。
右腕は一点だけだった。
これは、九点だけの数である。
在庫全体の割合ではない。
だが、左が多いことは、はっきり出た。
材料も数えた。
板が一点、布が二点、紙が三点、大理石が一点、焼き物が一点、絹が一点。
大きさの幅も広い。
素描の23.9センチから、油彩の195.6センチまで。
八倍の差がある。
記録に書かれていないこと
館の記録は、二人の関係を題に書く。
九点すべてで、母と子だと分かる。
だが、名前が残るのは四点だけである。
そして、その四点は宗教の主題だった。
名前が分かるのは、物語の登場人物だからである。
実在の母と子として名前が残っているものは、九点に一つもない。
肖像として描かれた一点でさえ、作者も、描かれた人も分からない。
第十八回で、群衆は匿名だと書いた。
群衆の話で見たとおり、名前は残りにくい。
二人だけの絵でも、事情は変わらない。
もう一つ、記録が書かないことがある。
子の年齢である。
生まれたばかりなのか、二歳なのか。
九点のどの記録にも書かれていない。
画像から推測するしかない。
歩けるかどうか、立てるかどうかで見当はつく。
九点のうち、立っている子は一人もいなかった。
全員が、抱かれるか、膝に乗るか、地面に座っている。
次の回は、働く人を見る。
手を動かして何かを作る場面である。









