画家を知る

壁のための絵——ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ

背景の山は、どこの山か

背景についても書いておきたい。この二点の奥には、なだらかな山が横たわる。

しかし、特定の土地を示す目印はない。建物も、地名を示す標識もない。

つまり、どこでもない場所として描かれている。

主題が寓意である以上、場所を特定する必要がない。むしろ特定すると、意味が狭くなる。

対になる、もう一点

対をなす作品がある。

休息
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《休息》1863年ごろ。油彩・画布。縦108.5センチ、横148センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《休息》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

寸法は、先の一点とまったく同じである。縦108.5センチ、横148センチ。

こちらも外周に装飾の帯があり、橙色の実が並ぶ。下部の文字は「LE REPOS」。休息という意味である。

中央には、休む人々が描かれる。座る人、寝そべる人、子どもに乳を与える人。

左に女性が立ち、右に男たちが集まる。奥に山が横たわる。

対の絵は、意味も対になる

二点の関係を確かめたい。寸法が同じで、装飾の形式も同じ。

そして題が、労働と休息である。つまり、意味の上でも対になっている。

壁の左右に並べて掛ければ、二つの主題が向かい合う。

対で注文される絵の構造については、
別のコラムでも扱った。

文字が、意味を確定させる

文字の役割にも触れておきたい。帯の下部には、題を示す文字が入る。

見る側は、その一語で主題を確定できる。労働か、休息か。

文字がなければ、画面は「人が働いている絵」と「人が休んでいる絵」にとどまる。

一語あるだけで、寓意として読まれる。名前が絵を情報に変える点は、
別のコラムでも扱った。

描かれた額縁は、何のためか

装飾の帯についても考えたい。実際の額を付ければ、木や金の枠が加わる。

しかし、壁に嵌め込む絵では、額を付けられない場合がある。

そこで、額に相当する装飾を絵の中に描く。壁と絵のあいだに、境界を作るためである。

つまりこの帯は、装飾であると同時に、区切りの装置である。

額と絵の関係については、別のコラムで扱った。

紙に描いた、大きな画面

材料の変わった一点を見たい。

川
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《川》1864年ごろ。画布に貼った紙に油彩。縦129.5センチ、横252.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《》メトロポリタン美術館蔵

大きい。縦129.5センチ、横252.1センチ。二メートル半を超える横幅である。

所蔵館の記録は、材料を「画布に貼った紙に油彩」と書いている。

つまり、最初は紙に描かれた。あとから画布に貼られている。

分類も「素描」とされている。完成した油彩画ではなく、準備の段階の作品という扱いである。

内容は、川辺の場面である。左に木立が立ち、その下に人々が集まる。

中央に水が広がり、水浴する人が数人。右には舟が繋がれる。

奥の橋の上にも人がいる。画面の左右で、別の動作が同時に進む。

川という主題

主題の背景も確かめたい。川は、生活と労働の場である。

同時に、時間の流れや豊かさを示す寓意にもなる。

つまり、日常の労働を描きながら、抽象的な意味を担わせている。

公共建築の壁画では、この二重性がよく使われる。具体的な場面が、共同体の理念を示す。

なぜ紙に描くのか

材料の理由を考えたい。大きな壁画を描く前に、実物大に近い下絵を作ることがある。

紙は安く、扱いが軽い。壁に貼って、位置や大きさを確かめられる。

つまり紙の下絵は、現場で使う道具である。

同じ役割の下絵について、別のコラムでも扱った。

残ることを前提としない絵が、結果として残っている。

二メートル半という幅

寸法の意味も考えたい。横252.1センチは、部屋の壁一面に近い。

紙をつなぎ、床や壁に広げて描いたと考えられる。画架に載せて描ける大きさではない。

つまり制作の姿勢も、通常の油彩とは違う。

大画面を描く工程については、別のコラムでも扱った。

独立した作品もある

壁のための絵ばかりではない。

羊飼いの歌
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《羊飼いの歌》1891年。油彩・画布。縦104.5センチ、横109.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《羊飼いの歌》メトロポリタン美術館蔵

ほぼ正方形の画面である。縦104.5センチ、横109.9センチ。

右に女性が三人。一人は立ち、白い布を身にまとう。一人は座り、頬に手を当てる。

もう一人は膝を折り、地面の草を摘む。足元に黒い壺が置かれる。

左奥の岩の上に、小さく人物が座る。笛を吹いているように見える。

背後に断崖と海が広がる。空は青く、白い雲が浮かぶ。

色は淡く、輪郭は柔らかい。壁画と同じ調子である。

正方形に近い画面

比率にも注目したい。この一点は縦104.5センチ、横109.9センチ。ほぼ正方形である。

帯状の画面とは、構図の作り方が変わる。左右に流すのではなく、中心にまとめる必要がある。

実際、人物は右半分に集まり、左は岩と海に譲られている。

正方形の画面では、重心をどちらかに寄せるのが定石である。

壁画の調子を、画布に持ち込む

技法について触れておきたい。壁画では、絵具が壁に吸われ、色が沈む。

つまり、光沢のない平らな画面になる。

この画家は、画布の作品でも同じ質感を作っている。絵具を薄く塗り、艶を抑える。

その結果、油彩でありながら壁画のように見える。

材料が変わっても、目指す見え方は変わらない。