壁のための絵——ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ
夜の一点
主題の幅も見ておきたい。

夜の場面である。左上に月が昇り、空が淡い橙から青へ移る。
中央に大きな木が立ち、枝を広げる。右に藁を積んだ山がある。
地面には、眠る人々が横たわる。左に数人、右にも数人。布にくるまり、頭を寄せ合う。
色は全体に暗いが、黒は使われていない。青と灰と褐色で、夜が作られている。
つまり、暗さも淡い色で表現されている。
眠りという主題
主題についても補いたい。眠る人々を描いた画面は、この画家が繰り返し扱った主題である。
働く場面と対になる主題でもある。労働と休息の対は、先の二点にも現れていた。
つまり同じ主題の組が、時期を変えて繰り返されている。
主題の反復は、注文の内容にも左右される。公共建築の壁画では、
共同体の生活を示す主題が求められた。
小さな一点
寸法の幅も見ておきたい。

小さい。縦25.4センチ、横39.4センチ。
女性が一人、横たわる。黄色い布の上に身を預け、両腕を頭の上に伸ばす。
背後に細い木が数本立ち、その先に水面と丘が見える。
地面には小さな花が点々と咲く。
タマリスは、南フランスの地名である。滞在先の風景に、人物を配した作品だと考えられる。
放蕩息子
物語の主題も見ておきたい。

画面の左に、若い男が座る。上半身は裸で、腰に白い布を巻く。
膝を抱え、手を組み、うつむいている。髪と髭が伸び、顔は疲れて見える。
右には豚が数頭いる。地面に鼻を寄せ、餌を探している。
背景は乾いた土地である。低い丘が続き、草はまばらである。
聖書の物語にもとづく主題である。財を失った息子が、豚の世話をする場面にあたる。
支持体の記録
材料の記録にも触れておきたい。この一点は「亜麻布に油彩」と書かれている。
画布と書かれる作品と、亜麻布と書かれる作品がある。所蔵館によって、書き方が違う。
つまり記録の語は、館ごとの慣習にも左右される。
同じ材料でも、表記が違えば別のものに見える。記録を比べるときの注意点である。
物語を、風景として描く
扱い方に触れておきたい。この画面には、劇的な動きがない。
叫ぶ人も、指差す人もいない。ただ、人が座っている。
物語の頂点ではなく、その前後の静かな時間が選ばれている。
動きの直前を描く方法は、別のコラムでも扱った。
色が、抑えられている理由
色の話をまとめておきたい。11点のいずれも、強い色が少ない。
緑、灰、黄土、淡い青。彩度の低い色が並ぶ。
これは壁画の条件から来ていると考えられる。大きな面に強い色を置くと、部屋全体が支配される。
建築の一部として働くには、色を抑えるほうが都合がよい。
装飾の絵が控えめな色を選ぶ理由は、そこにある。
見立て——壁の絵は、部屋の一部である
ここまでを整理したい。画面の形は建築が決め、色は部屋との関係で決まる。
構図は、離れて見られることを前提にしている。細部より、大きな面の配置が優先される。
つまり、壁のための絵は、一枚の絵として完結していない。
部屋があって初めて完成する。美術館の壁に掛かった状態は、本来の姿ではない。
縮小版を、どう位置づけるか
縮小版についても、もう一言書いておきたい。縮小版は、壁画を知るための資料である。
同時に、それ自体が売買される作品でもあった。
つまり一点の中に、記録と商品の二つの性格がある。
どちらか一方で読むと、扱いを誤る。
十一点の内訳
公開分の構成も確かめておきたい。11点のうち、壁画の縮小版と下絵が数点を占める。
対の装飾画が二点、独立した作品が数点である。
制作年は1863年ごろから1895年ごろまで、三十年余りに及ぶ。
つまり、壁のための仕事を長く続けた画家であることが、数からも読める。
暮らしへ——部屋の帯を、探してみる
家でできることを書いておきたい。部屋の中で、細長い面を探してみる。
窓の上、扉の上、棚と天井のあいだ。いずれも横に長い帯である。
そこに合う絵は、正方形でも縦長でもない。極端に横長の画面である。
見つけたら、要素を三つか四つに分けて並べてみる。帯の構図が、なぜそう作られたかが分かる。
群として見ると、用途が見える
最後に、見方をまとめておきたい。11点を縦横比で並べ替えてみる。
一対四の帯、ほぼ正方形、横長の標準的な比率。三つの群に分かれる。
比率の違いは、置かれる場所の違いである。公開画像は、そのための道具である。
そして、分けた結果は書き留めておきたい。比率の数字は、覚えにくい。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
縮小版を、どう扱うか
最後に、読み方を補いたい。縮小版は、壁画の記録である。
しかし、壁画そのものではない。色も筆致も、大画面とは違う。
つまり、代理として読むときには限界がある。
代理と原作の差は、いつも意識しておきたい。
記録の語と、画面の両方を見る。その往復が、装飾画を読む手順になる。
そして、確かめた内容は書き留めておきたい。比率と用途の対応は、忘れやすい。
比率を、測ってみる
最後に、確かめ方を書き添えておきたい。記録の寸法から、縦横比を計算する。
一対四なら帯、一対一なら正方形に近い。
数字を出せば、置かれた場所の推測ができる。
計算そのものは簡単である。しかし、やってみないと気づかない。








