銀は、量られる金属である——タイラー・デュボワ・アル=マウスィリーほか九点

横長の大きな写真である。
38.1×47.5センチある。
画面の中央から左に、丘がある。
丘の上には、柱の並ぶ建物が立つ。
柱は白く、屋根は失われている。
丘の斜面には、崩れた石垣が続く。
手前は平地で、家々の屋根が密に並ぶ。
左手前には、別の神殿の柱が数本立つ。
右端には、糸杉が一本、縦に伸びる。
空は白く、雲が写っていない。
画面の階調は、灰色から黒までなめらかに続く。
館の記録では、この会社は花や美術品や風景や記念物の写真を売った。
欧州じゅうと北米で商っていたという。
そしてこの丘は最も名高い遺跡なので、よく売れたに違いない。
その会社は、この場所の眺めを何通りも用意していた。
館の記録は、そう書いている。
さらに、技法について重要な一行が続く。
カーボン・プリントの像は、顔料を含む膠でできている。
それは、銀を用いる印画の銀や金属の塩に比べて、はるかに褪色に強い。
館の記録は、そう説明している。
つまりこの写真には、銀が使われていない。
そして記録は、銀を使わないことを長所として挙げている。
九点のうち、銀が「ないこと」として現れるのは、この一点である。
写真の技法の欄については、写真の技法で扱った。
銀は、雪の名になる
八点目で、銀は言葉になる。

横長の一枚である。
紙の色は淡い黄褐色である。
画面の中ほどに、細い横線が幾本も走る。
水の面である。
その手前に、舟が一艘浮かぶ。
舟は細長く、二人が乗っている。
どちらも笠をかぶり、体を丸めている。
舟の左右には、細い棒が水面から立つ。
漁の仕掛けらしい。
奥の岸には、低い草の茂みが横に続く。
茂みの上には、木が数本立つ。
枝には葉がない。
さらに奥には、なだらかな岸が霞んでいる。
空には、小さな鳥が数羽飛んでいる。
色はほとんど使われていない。
館の札は「川」「風景」「舟」の三つである。
つまり館は、この画面を風景として登録している。
そして題には、銀の字が入っている。
館の記録には、それが本の題であることだけが書かれている。
日本語では、雪の積もった一面の景色を、銀の世界と呼ぶ。
しかしこの画面に、金属の銀はない。
紙の白と、薄い墨があるだけである。
雪そのものも、描かれてはいない。
岸の茂みは白く残され、木には葉がない。
つまり白いのは、刷らなかった部分である。
金属の銀は光を返すが、この紙の白は光を返さない。
同じ語で呼ばれる二つのものが、性質の上では正反対である。
にもかかわらず、その呼び名は長く使われてきた。
一面が白いという一点だけが、両者をつないでいる。
銀は、色の名になる
最後の一点でも、銀は語である。

横長の画面である。
上から下まで、色の帯が横に重なっている。
上のほうは、緑がかった灰色である。
中ほどで、わずかに明るくなる。
その明るい帯が、水平線らしい。
下のほうは、また暗い灰色に沈む。
形らしい形は、ほとんど描かれていない。
左のあたりに、暗い塊がわずかにある。
岸か、舟か、判別できない。
絵の具は薄く、横方向に伸ばされている。
刷毛の跡が、水平の縞として残る。
館の記録は、題と材料しか書いていない。
寸法の欄は空である。
題には、二つの色の名が並ぶ。
灰色と、銀である。
つまり作者は、この画面の色を金属の名で呼んでいる。
しかし絵の具に銀は入っていない。
館の記録の技法欄は、油彩とカンヴァスの二語だけである。
色の名を題にする作り方については、夜想曲という題で扱った。
数えてみると
九点を並べ直す。
銀が物質としてある点は、六点である。
貨幣、振り出し容器、急須、水注の金具、真鍮への象嵌、そして刀の柄。
そのうち、まるごと銀でできているのは三点である。
残る三点では、銀はほかの金属や陶器に付け足されている。
一点では、銀は使われていないことが長所として記録されている。
そして二点では、銀は雪の名と、色の名になっている。
もう一つ数えておく。
九点のうち、銀の白さが実際に見えるのは四点である。
貨幣、振り出し容器、急須、そして水注の金具。
象嵌の二点では、銀は細い線としてしか見えない。
そして三点では、銀はまったく見えない。
金は薄く延ばしても金色に見える。
銀は細くすると、光の筋にしか見えなくなる。
そして曇れば、黒い筋になる。
白い金属が、黒くなって残ることもある。
言えることと、言えないこと
言えるのは、銀が「量られる金属」だということである。
貨幣は重さで値が決まり、急須は重さが記録に書かれている。
水注の金具には、純度を示す印が打たれていた。
九点のうち三点で、記録は銀の量か純度に触れている。
金の回では、記録が触れていたのは厚みと場所だった。
銀では、それが重さと純度になる。
言えないのは、銀が金より劣るという話である。
象嵌では、金と銀が同じ溝に並んで打ち込まれていた。
真鍮の水注では、銀だけが用いられている。
地の色が黄褐色だから、白い線がよく映える。
どちらを使うかは、値段よりも地の色で決まっている。
最後に、はじめの貨幣へ戻る。
径3センチの円盤には、女神と梟が打たれていた。
しかし、この円盤の値を決めているのは絵ではない。
銀の重さである。
絵は、その重さを保証するために打たれている。
九点を数え終えて残るのは、その保証の役目のほうである。








