作品を知る

夕方は、空の色だけで示す——欧米の風景画・版画ほか九点

色のない夕暮れ

白黒の画像では、夕暮れの色が分からない。

しかし、夕暮れだと読み取れる要素はある。

一つは、地平線のあたりが明るいことである。

昼なら、空の上のほうが明るい。

夕暮れでは、下が明るくなる。

もう一つは、影の長さである。

日が低いと、影が長く伸びる。

この一点では、影がはっきり見えない。

しかし、木と柵が暗い影として立っている。

第九回でも、白黒の画像から色を補う話を書いた。

記録の言葉と、明暗の配置から推し量るほかない。

そして、題が日没だと言っている。

真夏の黄昏
ウィラード・ルロイ・メトカーフ《真夏の黄昏》1890年ごろ。館の記録では、布に油彩。81.6×90.2センチ。額を含めて97.8×106.7×5.7センチ。番号は1976.50.2。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ウィラード・メトカルフ《真夏の黄昏》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

正方形に近い画面である。

見下ろす角度である。

手前に、石垣と草の斜面。

小さな白い花が点々と咲く。

その下に、家が数軒。

壁は白く、屋根は赤茶色の瓦。

いずれも低い。

家のあいだに、細い道。

その向こうに、緑の畑が広がる。

畝の線が、細かく横に走る。

さらに奥に、木立の帯。

空は、上端に細く見えるだけである。

淡い青灰色で、雲がわずかにある。

空を見せない夕暮れ

この一点では、空がほとんど描かれていない。

画面の九割が地面である。

第五回で、視点が高いと空が狭くなると書いた。

見下ろしているからである。

では、夕暮れをどう示すか。

色である。

家の壁が、わずかに黄色みを帯びる。

草の緑も、暖かい。

そして、影が青みを帯びる。

日が低いと、光が黄色くなる。

そして、影には空の青が回り込む。

その二つの色の差が、時刻を語っている。

空を見せずに、時刻を示す方法である。

夕暮れの湾の景(写生帖より)
アルバート・ビアスタット《夕暮れの湾の景(写生帖より)》1890年。館の記録では、簀の目のない紙に鉛筆。12.1×19.7センチ。番号は1995.379.4のeの裏。メトロポリタン美術館蔵。アルバート・ビアスタット《夕暮れの湾の景(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

第一回から何度も読んできた写生帖の、また別の頁である。

線がきわめて淡い。

紙の中ほどに、水平の線が一本。

その左に、細い線が数本立つ。

帆柱らしい。

右のほうに、低い山の輪郭。

そして、紙の右下に、四角い形が描かれている。

建物か、箱か、判別できない。

紙の大部分は、白いままである。

鉛筆で、夕暮れを描けるか

この頁の題に、夕暮れとある。

しかし、画面には夕暮れの要素がない。

色がないからである。

そして、影も描かれていない。

つまり、この頁は夕暮れを描いていない。

その場所の形を記録しているだけである。

夕暮れであることは、後で題に書いた。

あるいは、記録を作る側が題を付けた。

第十七回で、写生帖の頁の題について何度も扱った。

書き込まれた地名や日付が、そのまま題になる。

この頁の題も、そういう経路で付いた可能性がある。

そして、鉛筆で夕暮れを描くのは、実際に難しい。

色が使えず、明暗も限られる。

できることは、影を長く引くことくらいである。

影は、どちらへ伸びるか

日が低いと、影が長く伸びる。

そして、太陽と反対の方向へ伸びる。

だから、影の向きを見れば、太陽の位置が分かる。

九点のうち、影がはっきり見えるものは少ない。

逆光の絵では、ものが影そのものになる。

モネの議事堂も、アッヘンバッハの岩も、影の塊である。

順光の絵では、影が手前へ伸びる。

メトカーフの村では、家の影が斜めに落ちる。

その角度が、日の低さを示している。

そして、影の色が青みを帯びる。

第九回で、雪の影について同じことを書いた。

日が黄色くなるほど、影は青くなる。

その対比が、夕暮れらしさを作る。

版画では、影を描かないことが多い。

色を重ねる手間が増えるからである。

九点の版画三点には、いずれも影がない。

影のない絵で時刻を示すには、空の色か、題に頼ることになる。

九点を、夕暮れの示し方で分ける

九点を、夕暮れの示し方で分けたい。

空の色の帯で示すものが四点。

クインジ、モネ、広重、カトリン。

雲の切れ間の光で示すものが一点。

アッヘンバッハ。

物の色と影で示すものが一点。

メトカーフ。

明暗の配置で示すものが一点。

白黒の一点である。

そして、題だけで示すものが二点。

歌麿の版画と、写生帖の頁。

色の帯は、下が暖かい

最後に、夕暮れの空の約束をまとめたい。

地平線に近いほど、暖かい色になる。

橙、赤、黄。

上へ行くほど、冷たい色になる。

青、紫、灰。

この順序は、逆にならない。

日が沈む方向が下にあるからである。

だから、色の帯の順序を見れば、上下が分かる。

そして、その帯が横に走る。

第七回で、木が縦の線を作ると書いた。

夕暮れの空は、横の線を何本も作る。

その横縞のなかに、縦のものを一つ置く。

木、塔、帆柱、天幕。

そうすると、画面が締まる。

九点の多くが、そうなっている。

次の回では、画面のなかの明かりを見たい。

夕暮れが終わると、人は火を灯す。

そして、その面積が絵の性格を決めてしまう。

夕暮れに、何が描かれるか

九点に描かれているものを並べたい。

建物が四点。

議事堂、宿場の町、天幕の野営、丘の村。

船が二点。

広重の湾と、アッヘンバッハの海。

家畜が一点。

白黒の湿地の牛。

人が三点。

宿場の旅人、橋の上の女性たち、野営の人影。

そして、自然だけのものが二点。

赤い夕日と、写生帖の頁。

つまり、夕暮れの絵には人の営みが入りやすい。

一日の終わりだからである。

帰る人、休む人、涼む人、火を焚く人。

朝の絵なら、始まる動きが描かれる。

夕暮れなら、終わる動きになる。

そして、その動きが空の色と呼応する。

暖かい色の空の下で、人が家へ向かう。

その組み合わせが、夕暮れの絵の定型になっている。

九点のうち、その定型に当てはまるのは五点である。

残る四点は、自然だけか、時刻が判別できないものである。

火は、夕暮れの次に来る光である。

そして、空の光と違って、点として画面に置かれる。

その差が、画面の作り方をどう変えるかを見たい。

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