畑の絵は、刈った後を描く——アングラン・ルノワール・トロワイヨンほか九点
九点で数えると、育っている作物を描いた画面は一つもなかった。刈った後の畑、休ませた野原、牧草地。積み上げた塊なら数えられ、影が付く。「野菜」「野営」の野の字でも二点が混じった。土の色は褐色と灰に偏り、緑はほとんど出てこない。

積み上げた穀物が、光に溶けている
一枚の木炭画に、収穫の後の畑がある。
紙は49.1×63.5センチ。
横長の画面である。
画面は全体に灰色で、輪郭がない。
中央のやや左から右へ、丸い塊が並ぶ。
塊は十いくつあり、奥へ行くほど小さくなる。
刈り取った穀物を積んだものだろう。
塊の上のほうは明るく、下は暗い。
その後ろに、白い光の面がある。
太陽らしいが、円い形はしていない。
にじんで、周りに溶けている。
地面には、細かい影の筋が横に走る。
右のほうに、小さな黒い影が二つある。
人か、動物か、決められない。
空と地面の境目は、どこにもない。
すべてが灰色の階調でつながっている。
館の記述によれば、この画家は木炭の棒を使った。
紙には、細かい畝のような凹凸がある。
その高いところに木炭が乗り、あいだは紙の地が残る。
その結果、柔らかく拡散した光ができるという。
館は、それが夕方の光の効果になっていると書く。
そして、紙の透かしも二つ記録されている。

畑は、人の手が入った土地である。
自然の野と違い、区画があり、作物が並ぶ。
そして、季節ごとに姿が変わる。
耕され、植えられ、育ち、刈られる。
九点を並べて、その扱われ方を数えたい。
「野」の字が、思わぬものを連れてきた
集めかたは、館の記録の題によっている。
野、畑、田、収穫にあたる語が入るものを拾った。
日本語の題も、英語の題も両方見た。
すると、また日本語の側で一致が起きた。
「野菜」と「野営地」である。
どちらにも、野の字が入る。
だが、野原とは関係がない。
前の回では、「林檎」の林の字で同じことが起きた。
漢字は一字で意味を持つので、こういう一致が出やすい。
外れの二点は、後半で扱う。
九点のうち、耕地や牧草地が描かれているのは五点だった。
刈った後と、刈る前
収穫にかかわる二点を見たい。
一点目は、いま見た木炭画である。
こちらは、刈った後の畑だった。
二点目は、油彩である。
全体で54.2×65.4センチ。
画面の左に、緑の斜面がある。
斜面には、細い道が下りていく。
道の上に、人が四、五人いる。
いずれも小さく、輪郭だけである。
一人は屈み、一人は籠を持っているらしい。
右のほうには、木立と屋根がある。
屋根は赤く、木は明るい緑である。
奥には、低い丘と青い空が見える。
雲は白く、輪郭が柔らかい。
絵具は細かく置かれ、色が混ざらずに並ぶ。
館の記録の題によれば、これは貝を採る場面である。
つまり、収穫といっても畑の作物ではない。
海の生き物を集めている。
日本語では、収穫の語を畑に限って使うことが多い。
英語では、もっと広く使われる。
翻訳のときに、この差が出る。

牧草地と、家畜
牧草地を描いた一点を見たい。
板に描かれた油彩で、38.5×55センチ。
横長の画面である。
画面の下半分に、緑の草地が広がる。
その上に、牛が数頭いる。
手前の一頭は白と茶で、こちらを向いている。
その左に、赤茶の牛が立つ。
奥には、羊の群れがいる。
数えると、十数頭になる。
草地の奥に、木が並ぶ。
木は幹が細く、上のほうだけに葉がある。
枝を落とした木らしい。
同じ形の木が、横一列に十本ほど続く。
空は青く、白い雲が大きい。
雲は画面の上半分を占める。
館の記録に、記述の欄はない。
書かれているのは、題と年と技法と寸法である。
題には、地方の名が入っている。

野原には、何もない
野原を描いた二点を見たい。
一点目は、油彩である。
35.8×46センチ。
画面の下半分は、黄土色の平らな土地である。
草は短く、色は乾いている。
その手前、左寄りに、木の柵らしいものがある。
柵は倒れかけていて、板が斜めに交差する。
中ほどに、細い道が斜めに走る。
奥には、木立が横一列に並ぶ。
木は暗い緑と、赤茶である。
空は上のほうにわずかに見える。
薄い青と灰色である。
人も、動物もいない。
建物もない。
題は《野原》とだけ書かれている。
館の記録に、記述の欄はない。
つまり、この土地がどこかは分からない。
耕地なのか、休ませている土地なのかも分からない。
分かるのは、平らで、乾いていて、誰もいないことだけである。

二点目は、日本の版画である。
紙は36.9×25.2センチ。
縦長の画面である。
画面の下半分に、三人の女性がいる。
いずれも大きな模様の衣を着る。
一人は身をかがめ、草のあいだに手を伸ばす。
一人は籠のようなものを持つ。
もう一人は立って、上を見ている。
足もとには、細い草と、小さな花が咲く。
館の記述によれば、それは秋の花の一つである。
画面の上のほうには、別の場面が描かれる。
昔の装束の人々が、同じことをしている。
牛車らしいものも見える。
館の記述によれば、これは秋の虫を捕る場面である。
夏の終わりに鳴き始める虫だという。
そして館は、衣の模様にも触れている。
渡り鳥の姿が染められているという。
その鳥は、千年以上前から詩に詠まれてきた。
館の記録は、そこまで書いている。
この画家の作品は、これで四点目になる。
