美術史・技法

畑の絵は、刈った後を描く——アングラン・ルノワール・トロワイヨンほか九点

九点で数えると、育っている作物を描いた画面は一つもなかった。刈った後の畑、休ませた野原、牧草地。積み上げた塊なら数えられ、影が付く。「野菜」「野営」の野の字でも二点が混じった。土の色は褐色と灰に偏り、緑はほとんど出てこない。

収穫の終わり
シャルル・アングラン《収穫の終わり》クリーヴランド美術館蔵

積み上げた穀物が、光に溶けている

一枚の木炭画に、収穫の後の畑がある。

紙は49.1×63.5センチ。

横長の画面である。

画面は全体に灰色で、輪郭がない。

中央のやや左から右へ、丸い塊が並ぶ。

塊は十いくつあり、奥へ行くほど小さくなる。

刈り取った穀物を積んだものだろう。

塊の上のほうは明るく、下は暗い。

その後ろに、白い光の面がある。

太陽らしいが、円い形はしていない。

にじんで、周りに溶けている。

地面には、細かい影の筋が横に走る。

右のほうに、小さな黒い影が二つある。

人か、動物か、決められない。

空と地面の境目は、どこにもない。

すべてが灰色の階調でつながっている。

館の記述によれば、この画家は木炭の棒を使った。

紙には、細かい畝のような凹凸がある。

その高いところに木炭が乗り、あいだは紙の地が残る。

その結果、柔らかく拡散した光ができるという。

館は、それが夕方の光の効果になっていると書く。

そして、紙の透かしも二つ記録されている。

収穫の終わり
シャルル・アングラン《収穫の終わり》1892〜1905年頃。館の記録では、生成りの簀の目紙に木炭。紙は49.1×63.5センチ。番号は1999.49。クリーヴランド美術館蔵。シャルル・アングラン《収穫の終わり》クリーヴランド美術館蔵

畑は、人の手が入った土地である。

自然の野と違い、区画があり、作物が並ぶ。

そして、季節ごとに姿が変わる。

耕され、植えられ、育ち、刈られる。

九点を並べて、その扱われ方を数えたい。

「野」の字が、思わぬものを連れてきた

集めかたは、館の記録の題によっている。

野、畑、田、収穫にあたる語が入るものを拾った。

日本語の題も、英語の題も両方見た。

すると、また日本語の側で一致が起きた。

「野菜」と「野営地」である。

どちらにも、野の字が入る。

だが、野原とは関係がない。

前の回では、「林檎」の林の字で同じことが起きた。

漢字は一字で意味を持つので、こういう一致が出やすい。

外れの二点は、後半で扱う。

九点のうち、耕地や牧草地が描かれているのは五点だった。

刈った後と、刈る前

収穫にかかわる二点を見たい。

一点目は、いま見た木炭画である。

こちらは、刈った後の畑だった。

二点目は、油彩である。

全体で54.2×65.4センチ。

画面の左に、緑の斜面がある。

斜面には、細い道が下りていく。

道の上に、人が四、五人いる。

いずれも小さく、輪郭だけである。

一人は屈み、一人は籠を持っているらしい。

右のほうには、木立と屋根がある。

屋根は赤く、木は明るい緑である。

奥には、低い丘と青い空が見える。

雲は白く、輪郭が柔らかい。

絵具は細かく置かれ、色が混ざらずに並ぶ。

館の記録の題によれば、これは貝を採る場面である。

つまり、収穫といっても畑の作物ではない。

海の生き物を集めている。

日本語では、収穫の語を畑に限って使うことが多い。

英語では、もっと広く使われる。

翻訳のときに、この差が出る。

ムール貝採り
ピエール=オーギュスト・ルノワール《ムール貝採り》1879年。館の記録では、油彩・カンヴァス。全体54.2×65.4センチ。番号は1954.8.1。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。ピエール=オーギュスト・ルノワール《ムール貝採り》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

牧草地と、家畜

牧草地を描いた一点を見たい。

板に描かれた油彩で、38.5×55センチ。

横長の画面である。

画面の下半分に、緑の草地が広がる。

その上に、牛が数頭いる。

手前の一頭は白と茶で、こちらを向いている。

その左に、赤茶の牛が立つ。

奥には、羊の群れがいる。

数えると、十数頭になる。

草地の奥に、木が並ぶ。

木は幹が細く、上のほうだけに葉がある。

枝を落とした木らしい。

同じ形の木が、横一列に十本ほど続く。

空は青く、白い雲が大きい。

雲は画面の上半分を占める。

館の記録に、記述の欄はない。

書かれているのは、題と年と技法と寸法である。

題には、地方の名が入っている。

ノルマンディーの牧場
コンスタン・トロワイヨン《ノルマンディーの牧場》1852年。館の記録では、板に油彩。38.5×55センチ。番号は1894.1069。シカゴ美術館蔵。コンスタン・トロワイヨン《ノルマンディーの牧場》シカゴ美術館蔵

野原には、何もない

野原を描いた二点を見たい。

一点目は、油彩である。

35.8×46センチ。

画面の下半分は、黄土色の平らな土地である。

草は短く、色は乾いている。

その手前、左寄りに、木の柵らしいものがある。

柵は倒れかけていて、板が斜めに交差する。

中ほどに、細い道が斜めに走る。

奥には、木立が横一列に並ぶ。

木は暗い緑と、赤茶である。

空は上のほうにわずかに見える。

薄い青と灰色である。

人も、動物もいない。

建物もない。

題は《野原》とだけ書かれている。

館の記録に、記述の欄はない。

つまり、この土地がどこかは分からない。

耕地なのか、休ませている土地なのかも分からない。

分かるのは、平らで、乾いていて、誰もいないことだけである。

野原
アリス・パイク・バーニー《野原》1892年頃。館の記録では、油彩・カンヴァス。35.8×46センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。アリス・パイク・バーニー《野原》スミソニアン協会蔵

二点目は、日本の版画である。

紙は36.9×25.2センチ。

縦長の画面である。

画面の下半分に、三人の女性がいる。

いずれも大きな模様の衣を着る。

一人は身をかがめ、草のあいだに手を伸ばす。

一人は籠のようなものを持つ。

もう一人は立って、上を見ている。

足もとには、細い草と、小さな花が咲く。

館の記述によれば、それは秋の花の一つである。

画面の上のほうには、別の場面が描かれる。

昔の装束の人々が、同じことをしている。

牛車らしいものも見える。

館の記述によれば、これは秋の虫を捕る場面である。

夏の終わりに鳴き始める虫だという。

そして館は、衣の模様にも触れている。

渡り鳥の姿が染められているという。

その鳥は、千年以上前から詩に詠まれてきた。

館の記録は、そこまで書いている。

この画家の作品は、これで四点目になる。

秋の野で虫を捕る女たち
鳥文斎栄之《秋の野で虫を捕る女たち》1790年代前半。館の記録では、多色木版。紙は36.9×25.2センチ。番号は1940.1045。クリーヴランド美術館蔵。鳥文斎栄之《秋の野で虫を捕る女たち》クリーヴランド美術館蔵