彫って、描いて——A・B・デュランドの三つの職
群として見ると、順序が見える
最後に、見方をまとめておきたい。24点を制作年で並べ替えてみる。
版画、肖像、風景。三つの群が、年代順に並ぶ。
そして、線の使い方が三つの群を貫いている。
公開画像は、そのための道具である。年代と技法を突き合わせる作業は、画面の上でできる。
そして、気づいた点は書き留めておきたい。職の移り変わりは、忘れやすい。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
エングレーヴィングという仕事
版画の技法をもう少し説明したい。銅板に、ビュランという刃で溝を彫る。
刃を押し出すように動かし、金属を削り取る。
彫った溝にインクを詰め、表面を拭き取り、紙に強い圧力で写す。
つまり、線の一本ずつが手作業である。
一枚の肖像に、数万本の線が入ることもある。
版画は、複製の技術である
役割についても書いておきたい。19世紀前半、写真はまだ普及していない。
絵を多くの人に見せるには、版画にするしかなかった。
つまり版画は、複製の唯一の手段だった。
同じ構造は、別のコラムでも扱った。
版画の需要が、彫師という職業を支えていた。
紙幣の彫版
もう一つの用途にも触れておきたい。この時期のアメリカでは、銀行券の彫版が大きな仕事だった。
精緻な線は、偽造を防ぐために使われる。
つまり、彫版の技術は経済の仕組みにも関わっている。
顔が通貨に載る話は、別のコラムで扱った。
版画から、油彩へ
移行の条件も考えたい。彫版は、目と手に負担がかかる仕事である。
細い線を長時間見続ける必要がある。
年齢とともに続けにくくなる、という事情も考えられる。
ただし、これは推測である。記録に理由は書かれていない。
森という主題
主題についても補いたい。19世紀半ばのアメリカでは、
森を主題にした絵が増えていく。
開拓が進み、原生の森が減っていく時期にあたる。
つまり、失われつつあるものが主題になっている。
同じ構造は、別のコラムでも扱った。
屋外で描く
制作の場所についても触れておきたい。この画家は、屋外での制作を勧めたことで知られる。
現場で油彩の習作を描き、工房で大画面に仕上げる。
つまり、観察と制作の場が分かれている。
屋外制作の道具立ては、別のコラムで扱った。
大画面の縦横比
構図の条件も見ておきたい。森の二点は、いずれも縦長である。
縦153センチに対し、横122センチ。
木を描くには、縦長のほうが都合がよい。
つまり、主題が判型を決めている。
判型と主題の関係は、別のコラムでも扱った。
弟子と、次の世代
影響についても書いておきたい。この画家は、後進に向けた文章を残したとされる。
屋外での写生を重視する考え方は、次の世代へ受け継がれた。
つまり、作品だけでなく方法が伝わっている。
ただし、その内容の詳細は公開分の記録には含まれていない。
灰緑の紙を、選ぶ
素描の材料をもう一度見たい。この画家は、灰緑色の紙を使っている。
白い紙より、明るい部分が目立つ。鉛筆の線も、白い紙より柔らかく見える。
つまり、紙の色が仕上がりを左右する。
紙の色を使う方法は、別のコラムでも扱った。
素描と油彩の対応
作業の流れも確かめたい。森の油彩には、素描と同じ種類の木が描かれる。
樹皮の質感、根の形、枝の分かれ方。
つまり、素描で得た観察が油彩に運ばれている。
ただし、同じ木が同じ位置に描かれているとは限らない。
素描は資料であって、下絵とは限らない。
屋外の油彩習作
制作の場所についても補いたい。19世紀半ばには、屋外で油彩の習作を描く方法が広まる。
絵具を金属の管に入れる技術が普及し、持ち運びが容易になった。
つまり、道具の進歩が制作の方法を変えている。
材料と方法の関係は、繰り返し確かめておきたい。
三つの職を、記録から読む
最後に、読み方をまとめておきたい。版画には、彫った人の名が刻まれる。
肖像には、描かれた人の名が題名になる。
風景には、場所の名が付くこともあれば、付かないこともある。
つまり、記録の書き方が仕事の性格を示している。
題名と作者欄を並べるだけで、三つの職の輪郭が見えてくる。
会計の紙が、いちばん具体的である
もう一点、書き添えておきたい。名簿と金額の紙は、
どの絵よりも具体的な情報を持つ。
誰が参加し、いくら払ったか。数字は解釈の余地が少ない。
つまり、作品ではない紙が、最も確かな記録になることがある。
線という共通点
最後に、三つの職の共通点を書いておきたい。版画は、線で階調を作る。
素描も、線で陰影を作る。
そして油彩でも、樹皮や葉の質感が細い筆で描かれる。
つまり、線が仕事の芯にある。
技法が変わっても、身につけた手つきは残る。
そして、確かめた内容は書き留めておきたい。三つの職の順序は、混同しやすい。
年と職を並べて書いておけば、作品を見る順番も決めやすくなる。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
記録は、あとから読む自分のために残すものである。
細かく書く必要はない。日付と、気づいた一点だけでよい。
そして次に見るときは、その一行から始めればよい。
そして、次に見るときは前の記録を先に読む。線の見え方は、経験とともに変わる。
職業が変わっても、身につけた手つきは残る。その痕跡を探すのが、比較の楽しみである。
一人の画家を、一つの職業で語らない。その姿勢を持っておきたい。










