水彩は、決める道具である——ジョン・ラ・ファージ
ラ・ファージの水彩は、旅の記録であり、色の覚書であり、ステンドグラスと壁画の下絵でもある。九点を用途で分け、決めるための紙という役目を確かめる。半円形の画面と、残りやすさにも触れておきたい。和紙を支持体にした一点にも触れておきたい。

紙の余白に、覚書がある
一枚の水彩から始めたい。

小さな紙である。縦19.7センチ、横26.4センチ。
画面の中央に、横長の色の帯が並ぶ。上から、淡い黄、桃色、水色、青緑。
形らしい形はほとんどない。水平の線が数本引かれているだけである。
つまり、空と海の色を記録した習作である。
紙の下部には、手書きの文字が数行ある。日付と、色や光についての覚書だと考えられる。
四辺には、紙の地色がそのまま残る。塗った範囲だけが画面になっている。
色を、覚えるために描く
この紙の役目を考えたい。夕暮れの色は、数分で変わる。
その場で油彩を仕上げることはできない。
だから、色の並びだけを紙に写す。あとで別の作品に使うための記録である。
つまりこれは、完成作ではなく資料である。
問い——水彩は、何のために描かれたのか
ここで問いを立てたい。この画家の公開分は、ほとんどが紙の作品である。
しかし、その用途は一様ではない。
旅の記録、色の覚書、ステンドグラスの下絵、壁画の色彩習作。
同じ水彩でも、目的がまるで違う。
当サイトにはジョン・ラ・ファージの作品が31点公開されている。
並べて確かめたい。
日本で描いた一枚
旅の記録を見たい。

縦長の画面である。縦27センチ、横23.2センチ。
石段の上に、宝塔が立つ。屋根が六角形で、上部に細い装飾が伸びる。
塔の周りには、石の欄干がめぐる。
手前には、大きな石の台がいくつも並ぶ。表面が苔むしている。
色は褐色と灰色が中心である。強い色はない。
左下に手書きの題がある。地名と、その説明らしき文が読める。
さらに、赤い印が押されている。
印が、押されている
この赤い印について触れておきたい。形は方形で、文字が刻まれている。
東アジアの落款に近い形式である。
つまり、日本の慣習を取り入れた可能性がある。
ただし、誰の印かは記録に書かれていない。断定は避けたい。
物語を、絵にする
日本に関わる、別の一点を見たい。

画面のほとんどが水である。青と緑が混ざり、うねりが描かれる。
その中央に、人の顔がある。目を閉じ、口をわずかに開く。
顔の左右に、黒く長い髪が水に広がる。
手前に桃色の花が一輪、水面に浮かぶ。
つまり、川に流れる首の場面である。
支持体が、和紙である
材料の記録を見たい。「和紙に水彩とグワッシュ、白い織紙に裏打ち」とある。
つまり、日本の紙が使われている。
和紙は薄く、繊維が長い。水を含んでも破れにくい。
そのままでは扱いにくいため、丈夫な紙に貼って補強している。
材料の選択に、旅の経験が反映されている。
題名の人物
主題についても補いたい。題名にある人物は、日本の絵師の名だと考えられる。
つまり、その人が幼い頃に見たという逸話を絵にしている。
逸話の出所は、記録に書かれていない。旅先で聞いた話である可能性が高い。
伝聞は伝聞として扱いたい。
花を、正面から描く
主題の幅を見たい。

青い地の中央に、朝顔が二輪咲く。
花は正面を向き、五つの筋が中心から放射する。色は淡い紫と白である。
葉は濃い緑で、蔓が下へ伸びる。
背景は青一色に近い。上部が明るく、下部が濃い。
つまり、背景が空間ではなく、面として塗られている。
花と背景の関係
構成について考えたい。この画面には、奥行きがほとんどない。
花は背景の上に浮かんでいる。影も落ちていない。
平面として構成する方法は、東アジアの絵に共通する。
その参照については、別のコラムで扱った。
ステンドグラスの下絵
用途の違う紙を見たい。

画面が、三つの縦長の区画に分かれている。
各区画に、立った人物が一人ずつ描かれる。
左は横を向き、腕を上げる。中央は正面を向き、両手を体の前で組む。
右は手を胸に当てる。いずれも長い衣をまとう。
区画のあいだには、細い余白がある。
つまり、これは窓の形に合わせた下絵である。
窓の形が、構図を決める
形式について整理したい。ステンドグラスの窓は、細長い区画に分かれる。
石やガラスの桟が、画面を縦に切る。
だから、一つの区画に一人ずつ配置するしかない。
つまり、建築の構造が構図を決めている。
同じ関係は、別のコラムでも扱った。
色を、先に決める
下絵の役割にも触れておきたい。ガラスは、焼いてしまえば色を変えられない。
だから、制作前に色を決める必要がある。
水彩で色を試し、承認を得てから、ガラスを選ぶ。
つまり水彩は、意思決定のための道具である。
半円形の下絵
もう一種類の下絵を見たい。

画面の上辺が、半円を描いている。
これは、部屋の壁の上部に嵌まる形である。ルネットと呼ばれる。
画面には、人物が十人ほど描かれる。長い衣をまとい、石の階段や台のそばに座る。
中央に立つ人物が、身振りを交えて語る。周囲がそれを聞く。
背景に建物の柱と、遠くの風景が見える。
つまり、古代の議論の場面である。