画家を知る

水彩は、決める道具である——ジョン・ラ・ファージ

ラ・ファージの水彩は、旅の記録であり、色の覚書であり、ステンドグラスと壁画の下絵でもある。九点を用途で分け、決めるための紙という役目を確かめる。半円形の画面と、残りやすさにも触れておきたい。和紙を支持体にした一点にも触れておきたい。

バーハーバー、たそがれ
ジョン・ラ・ファージ《バーハーバー、たそがれ》メトロポリタン美術館蔵

紙の余白に、覚書がある

一枚の水彩から始めたい。

バーハーバー、たそがれ
ジョン・ラ・ファージ《バーハーバー、たそがれ》1896年。オフホワイトの織紙に水彩とグワッシュ。縦19.7センチ、横26.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・ラ・ファージ《バーハーバー、たそがれ》メトロポリタン美術館蔵

小さな紙である。縦19.7センチ、横26.4センチ。

画面の中央に、横長の色の帯が並ぶ。上から、淡い黄、桃色、水色、青緑。

形らしい形はほとんどない。水平の線が数本引かれているだけである。

つまり、空と海の色を記録した習作である。

紙の下部には、手書きの文字が数行ある。日付と、色や光についての覚書だと考えられる。

四辺には、紙の地色がそのまま残る。塗った範囲だけが画面になっている。

色を、覚えるために描く

この紙の役目を考えたい。夕暮れの色は、数分で変わる。

その場で油彩を仕上げることはできない。

だから、色の並びだけを紙に写す。あとで別の作品に使うための記録である。

つまりこれは、完成作ではなく資料である。

問い——水彩は、何のために描かれたのか

ここで問いを立てたい。この画家の公開分は、ほとんどが紙の作品である。

しかし、その用途は一様ではない。

旅の記録、色の覚書、ステンドグラスの下絵、壁画の色彩習作。

同じ水彩でも、目的がまるで違う。

当サイトにはジョン・ラ・ファージの作品が31点公開されている。

並べて確かめたい。

日本で描いた一枚

旅の記録を見たい。

徳川家康の廟
ジョン・ラ・ファージ《徳川家康の廟》1888年。オフホワイトの織紙に水彩と黒鉛。縦27センチ、横23.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・ラ・ファージ《徳川家康の廟》メトロポリタン美術館蔵

縦長の画面である。縦27センチ、横23.2センチ。

石段の上に、宝塔が立つ。屋根が六角形で、上部に細い装飾が伸びる。

塔の周りには、石の欄干がめぐる。

手前には、大きな石の台がいくつも並ぶ。表面が苔むしている。

色は褐色と灰色が中心である。強い色はない。

左下に手書きの題がある。地名と、その説明らしき文が読める。

さらに、赤い印が押されている。

印が、押されている

この赤い印について触れておきたい。形は方形で、文字が刻まれている。

東アジアの落款に近い形式である。

つまり、日本の慣習を取り入れた可能性がある。

ただし、誰の印かは記録に書かれていない。断定は避けたい。

物語を、絵にする

日本に関わる、別の一点を見たい。

小さな暁斎が川で見た不思議なもの
ジョン・ラ・ファージ《小さな暁斎が川で見た不思議なもの》1897年。和紙に水彩とグワッシュ、白い織紙に裏打ち。縦31.6センチ、横39.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・ラ・ファージ《小さな暁斎が川で見た不思議なもの》メトロポリタン美術館蔵

画面のほとんどが水である。青と緑が混ざり、うねりが描かれる。

その中央に、人の顔がある。目を閉じ、口をわずかに開く。

顔の左右に、黒く長い髪が水に広がる。

手前に桃色の花が一輪、水面に浮かぶ。

つまり、川に流れる首の場面である。

支持体が、和紙である

材料の記録を見たい。「和紙に水彩とグワッシュ、白い織紙に裏打ち」とある。

つまり、日本の紙が使われている。

和紙は薄く、繊維が長い。水を含んでも破れにくい。

そのままでは扱いにくいため、丈夫な紙に貼って補強している。

材料の選択に、旅の経験が反映されている。

題名の人物

主題についても補いたい。題名にある人物は、日本の絵師の名だと考えられる。

つまり、その人が幼い頃に見たという逸話を絵にしている。

逸話の出所は、記録に書かれていない。旅先で聞いた話である可能性が高い。

伝聞は伝聞として扱いたい。

花を、正面から描く

主題の幅を見たい。

夜想曲
ジョン・ラ・ファージ《夜想曲》。紙に水彩とグワッシュ。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・ラ・ファージ《夜想曲》メトロポリタン美術館蔵

青い地の中央に、朝顔が二輪咲く。

花は正面を向き、五つの筋が中心から放射する。色は淡い紫と白である。

葉は濃い緑で、蔓が下へ伸びる。

背景は青一色に近い。上部が明るく、下部が濃い。

つまり、背景が空間ではなく、面として塗られている。

花と背景の関係

構成について考えたい。この画面には、奥行きがほとんどない。

花は背景の上に浮かんでいる。影も落ちていない。

平面として構成する方法は、東アジアの絵に共通する。

その参照については、別のコラムで扱った。

ステンドグラスの下絵

用途の違う紙を見たい。

三聖人(ニューポート、コールドウェル邸礼拝堂の窓のための代替習作)
ジョン・ラ・ファージ《三聖人(ニューポート、コールドウェル邸礼拝堂の窓のための代替習作)》1886〜1887年ごろ。白い織紙に水彩とグワッシュ、台紙に貼付。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・ラ・ファージ《三聖人(ニューポート、コールドウェル邸礼拝堂の窓のための代替習作)》メトロポリタン美術館蔵

画面が、三つの縦長の区画に分かれている。

各区画に、立った人物が一人ずつ描かれる。

左は横を向き、腕を上げる。中央は正面を向き、両手を体の前で組む。

右は手を胸に当てる。いずれも長い衣をまとう。

区画のあいだには、細い余白がある。

つまり、これは窓の形に合わせた下絵である。

窓の形が、構図を決める

形式について整理したい。ステンドグラスの窓は、細長い区画に分かれる。

石やガラスの桟が、画面を縦に切る。

だから、一つの区画に一人ずつ配置するしかない。

つまり、建築の構造が構図を決めている。

同じ関係は、別のコラムでも扱った。

色を、先に決める

下絵の役割にも触れておきたい。ガラスは、焼いてしまえば色を変えられない。

だから、制作前に色を決める必要がある。

水彩で色を試し、承認を得てから、ガラスを選ぶ。

つまり水彩は、意思決定のための道具である。

半円形の下絵

もう一種類の下絵を見たい。

個人と国家の関係——ソクラテスと友人たちが「国家」を論じる。ミネソタ州議事堂最高裁法廷の壁画のための色彩習作
ジョン・ラ・ファージ《個人と国家の関係——ソクラテスと友人たちが「国家」を論じる。ミネソタ州議事堂最高裁法廷の壁画のための色彩習作》。紙に水彩。メトロポリタン美術館蔵。ジョン・ラ・ファージ《個人と国家の関係——ソクラテスと友人たちが「国家」を論じる。ミネソタ州議事堂最高裁法廷の壁画のための色彩習作》メトロポリタン美術館蔵

画面の上辺が、半円を描いている。

これは、部屋の壁の上部に嵌まる形である。ルネットと呼ばれる。

画面には、人物が十人ほど描かれる。長い衣をまとい、石の階段や台のそばに座る。

中央に立つ人物が、身振りを交えて語る。周囲がそれを聞く。

背景に建物の柱と、遠くの風景が見える。

つまり、古代の議論の場面である。