日付のある画帖——メアリー・N・サージェントの航海
1904年、七十代後半の旅行者が地中海を巡り、画帖に98枚を残した。ガリポリ、エルサレム、ヴェスヴィオ。日付と地名の書き込みが、航路をそのまま伝える。九点で、記録が上手さで決まらないことを確かめる。公開画像が白黒であることの影響にも触れる。

頁の隅に、日付が書いてある
一枚の素描から始めたい。

小さな紙である。縦14.9センチ、横21.9センチ。文庫本を横にした程度の大きさだ。
画面のほとんどは、空と海である。水平線は中央よりやや下にある。
その水平線の上に、町が細長く横たわる。建物の輪郭が、点と線で並ぶ。
海は薄く塗られ、紙の白が透ける。空には灰色の帯が二本、横に走る。
右下に手書きの文字がある。地名と日付である。
読み取れる範囲では「Gallipoli」と「Sept 14th 04」。1904年9月14日である。
誰が描いたのか
作者はメアリー・ニューボールド・サージェント。所蔵館の記録によれば、1826年生まれ、1906年没。
つまり1904年の時点で、七十代後半である。
職業画家ではない。所蔵館も、経歴について多くを書いていない。
分かるのは、1904年に長い船旅をし、その道中で画帖を使っていたことである。
当サイトには、この画帖の頁が98点公開されている。
額に入れられた頁もある
保管の状態にも触れておきたい。98点のうち、いくつかは黒い縁の中に写っている。
台紙か額に収められた状態で撮影されたものである。
つまり、画帖から外され、一枚ずつ扱われている頁がある。
綴じられたままの頁と、外された頁が混在している。
外されれば、順序は失われる。日付の書き込みだけが、順序を守っている。
日付をたどると、航路が出る
複数の頁を並べたい。ガリポリは9月14日である。
別の頁には、11月18日の日付がある。エルサレムのゲッセマネの園を描いた一枚である。
さらに別の頁には、12月5日。ナポリ湾のヴェスヴィオ山である。
つまり、少なくとも三か月にわたる旅だったことになる。
地中海の東から西へ、順に移動している。
問い——画帖は、何を記録するのか
ここで問いを立てたい。この98点は、作品として制作されたものではない。
旅の途中で、その場で描かれた紙である。
では、そこには何が記録されているのか。そして、記録として何ができるのか。
頁を並べて確かめたい。
小アジアの沿岸
同じ航海の、別の一枚を見たい。

こちらは黒い縁の中に収められている。台紙に貼られた状態である。
画面の上半分は空である。灰色の絵具が水平に刷かれ、雲の層を作る。
下半分に、低い山並みが横たわる。輪郭は濃い灰色で、内部は塗り分けられていない。
海は一色で、水平線の下に広がる。
寸法は縦13.3センチ、横21センチ。先の頁より、わずかに小さい。
画帖が、複数あった
寸法の差から読めることがある。13.3×21センチの頁と、14.9×21.9センチの頁がある。
つまり、少なくとも二冊の画帖が使われていた。
旅の途中で買い足したのか、用途で分けていたのかは分からない。
分かるのは、寸法が二種類あるという事実だけである。
見開きで、一つの景色を描く
まず、紙の使い方を見たい。

この一枚では、画面の中央に縦の線がある。
画帖の綴じ目である。つまり、見開きの二頁を使って一つの景色が描かれている。
左の頁に低い山並み、右の頁に高い山塊。稜線が綴じ目をまたいで続く。
海は薄い一色で、下端まで広がる。
右下に「Corsica」と日付らしき文字がある。
横に広い景色は、二頁を使う
紙の使い方を整理したい。画帖の一頁は、縦14.9センチ、横21.9センチ。
すでに横長である。しかし、海から見た島影はさらに横に長い。
そこで、綴じ目をまたいで描く。横幅は二倍の43センチほどになる。
つまり、見えているものの形に合わせて、紙の使い方を変えている。
横に長い画面が時間や広がりを入れる器になる話は、
別のコラムでも扱った。
同じ方法が、繰り返される
同じ形式の頁を、もう一枚見たい。

こちらも見開きである。中央に綴じ目の線が走る。
左右に島影が低く伸び、中央付近が空いている。
上部には灰色の帯が置かれる。雲だと考えられる。
海と空の境目は、細い線一本で示される。
つまり、要素は三つしかない。空、島、海である。
海峡を、二頁で描く
もう一枚、見開きの例を見たい。

左の頁に、低い海岸線と町が細く伸びる。塔らしき形が一つ立つ。
右の頁には、高い岬が描かれる。斜面が海へ落ち込む。
つまり、海峡の両岸を一続きに捉えている。
題名にあるスキュラは、メッシーナ海峡の地名である。
同じ画帖には、対岸のカリブディスを描いた頁もある。
古代から難所として語られた海域を、船の上から順に描いていることになる。
何を描かないかが、決まっている
省略の仕方に注目したい。船から見た景色には、実際には多くのものがある。
波、他の船、鳥、甲板の手すり。しかし、それらは描かれていない。
描かれているのは、島の輪郭と、空の調子だけである。
つまり、記録する対象が絞られている。
限られた時間で描くには、何を捨てるかを先に決める必要がある。