彫って、描いて——A・B・デュランドの三つの職
名前と金額の並ぶ紙が一枚ある。画家たちがモデル代を出し合った教室の会計である。デュランドは彫師から肖像画家、風景画家へと移った。九点で三つの職を並べ、線という共通点を確かめる。森の大画面と、灰緑の紙の素描も並べて見ておきたい。

名前と金額が、並んでいる
一枚の紙から始めたい。絵ではない。

小さな紙である。縦11.7センチ、横17.5センチ。
上部に見出しらしき文字がある。「Life School」と読める。
その下に、名前が縦に並ぶ。氏名が七つか八つ、続けて書かれている。
最初の行の右には、金額が添えられる。十ドル、支払済みという意味の記載である。
下部にも二人の名があり、それぞれに数字が付く。
つまり、これは教室の会計である。
「ライフ・スクール」とは何か
用語を確かめたい。ライフ・スクールは、生きた人物を前に描く教室である。
モデルを雇い、その報酬を参加者で分担する。
つまり、この紙に並ぶ名前は参加者の名簿であり、
数字はそれぞれの負担額である。
画家たちが自分たちで費用を出し合い、練習の場を作っていたことが分かる。
制作の裏側が、残っている
この紙の価値を考えたい。作品としては、何も描かれていない。
しかし、当時の画家がどう学んでいたかが記録されている。
美術の教育制度が整う前、こうした自主的な集まりが行われていた。
つまり、絵の外側の仕組みが読める。
同じ性格の資料は、別のコラムでも扱った。
問い——一人の画家は、いくつの仕事をしたのか
ここで問いを立てたい。この作者は、彫版の職人として出発した。
その後、肖像画を描き、最後に風景画家として知られるようになる。
つまり、生涯のうちに職業が変わっている。
当サイトには24点が公開されている。三つの時期が含まれる。
並べて確かめたい。
まず、版画の仕事
最初の職を見たい。

小さな版画である。縦14.6センチ、横11.7センチ。
年配の男の胸像である。白髪で、額が広い。
黒い上着と、白い首布を着ける。背後に暗い背景がある。
画面全体が、細い線の集合でできている。
顔の陰影は、線の間隔で作られる。密なところが暗く、疎なところが明るい。
下部に文字がある。原画の作者と、彫った人の名が記されている。
線で、階調を作る
技法を確かめたい。エングレーヴィングは、銅板に刃で溝を彫る技法である。
彫った溝にインクを詰め、紙に写す。
線の太さと間隔だけで、明暗を作らなければならない。
つまり、面を塗ることができない。すべて線である。
この訓練は、のちの絵にも影響したと考えられる。
描かれたのは、画家である
主題にも触れておきたい。描かれているのは、同時代の画家である。
その人物については、別のコラムで扱った。
歴史画を描き、版画で広めた画家である。
つまり、版画を作る側と、版画に描かれる側が、同じ世界にいる。
次に、肖像の仕事
第二の職を見たい。

胸像の肖像である。縦76.5センチ、横64.5センチ。
男が椅子に座り、体をやや右へ向ける。顔はこちらを見る。
黒い上着、白いシャツ、黒い首布。髪は短く、耳の上で膨らむ。
背景は暗い緑褐色で、右に壁の縁が見える。
左に赤い椅子の背が覗く。
つまり、簡素な構成の肖像である。
誰を描いたのか
描かれた人物についても補いたい。所蔵館の記録は、名前だけを伝える。
しかしこの人物は、当時の商人で、若い画家たちを支援したことで知られる。
つまり、注文主であると同時に後援者である。
画家と後援者の関係は、作品の残り方にも関わる。
森の中へ入る
第三の職を見たい。

大きな縦の画面である。縦153.4センチ、横122.2センチ。
画面の左と右に、大きな木が立つ。幹は太く、樹皮の質感が細かく描かれる。
二本の木のあいだから、遠くの谷が見える。川が曲がり、その奥に山が霞む。
空は夕方の色である。黄と桃色が混ざる。
手前の道に、羊の群れと人がいる。小さく描かれる。
つまり、木が主役で、風景が背景になっている。
木を、主役にする
構図の特徴を整理したい。従来の風景画では、遠くの眺めが主題になる。
しかしこの画面では、手前の木が画面の大部分を占める。
樹皮の割れ目、枝の分かれ方、根元の苔まで描かれる。
つまり、視点が近い。
同じ関心は、別のコラムで扱った画家にも見られる。
素描で、木を調べる
観察の記録も見たい。

木の根元だけを描いた素描である。
幹が斜めに立ち、根が地面へ広がる。
根は複雑に絡み、瘤や割れ目がある。それが細かい線で描き分けられる。
背景は描かれていない。紙の色がそのまま残る。
つまり、対象を一つに絞って観察している。