美術史・技法

かぶった帽子と、手に持った帽子——欧米の肖像・版画ほか九点

幅が二つ書かれている

寸法の欄に、幅が二つ書かれている。

四十五・七センチと、六十三・五センチ。

これは、円ではないということである。

楕円か、あるいは前後に長い形だろう。

真上から見た画像では、円に見える。

しかし、記録は二つの数字を書いている。

第十八回で、寸法の欄の食い違いを何度も扱った。

こちらは食い違いではなく、形の説明である。

一つの数字では足りないので、二つ書いている。

そして、高さが二・八センチしかない。

つまり、頭にすっぽりかぶるものではない。

頭の上に載せ、紐で留める形式である。

防具としての笠

この笠は、武具の部門に属する。

つまり、頭を守るためのものである。

第十八回で、甲冑の記録には重さが入ると書いた。

しかし、この一点には重さがない。

寸法だけである。

同じ部門でも、記録の詳しさが揃っていない。

そして、材料の欄には四つの金属が並ぶ。

鉄、金、銀、銅。

第十八回で読んだ刀装具と、同じ構成である。

鉄の地に、他の金属で模様を象嵌する。

つまり、これは実用の防具でありながら、装飾品でもある。

帽子
ドーフリンガー・ガラス製作所《帽子》1865年から1921年。館の記録では、自由吹きの緑ガラス。高さ15.9センチ。番号は1974.364.1。メトロポリタン美術館蔵。ドーフリンガー・ガラス製作所《帽子》メトロポリタン美術館蔵

白黒の画像である。

ガラスでできた帽子である。

筒形の胴があり、上が開いている。

そして、下のほうで、つばが外へ広がる。

つばの縁は、不規則に波打つ。

一方が高く、一方が低い。

表面はなめらかで、光を返す。

そして、透けている。

向こう側の輪郭が、うっすら見える。

高さ十五・九センチ。

技法の欄に、自由吹き、とある。

型を使わず、吹いて形を作ったという意味である。

かぶれない帽子

これは、かぶるための帽子ではない。

ガラスだからである。

重く、割れる。

つまり、帽子の形をした置物である。

第十八回で、型で押したガラスの器を読んだ。

動物の形をした蓋物だった。

同じ系統の品である。

日用品を模した装飾品。

そして、この一点は自由吹きである。

型を使わないので、一つずつ形が違う。

つばの波打ち方が不規則なのは、そのためである。

年の欄が、一八六五年から一九二一年と広い。

作られた時期が特定できていない。

九点を、帽子の扱いで分ける

九点を、帽子の扱いで分けたい。

かぶっているものが五点。

ハルス、ルノワール、白い帽子、写生帖の頁、そして二枚続の一枚。

手に持っているものが三点。

帽子屋、笠を提げる役者、笠を掲げる役者。

そして、かぶれないものが二点。

ガラスの帽子と、陣笠である。

陣笠はかぶれるが、この画像では単体で置かれている。

つまり、身に着けた状態ではない。

帽子の大きさ

九点の帽子の大きさを、頭に対する比で並べたい。

いちばん大きいのが、鉄の陣笠である。

幅が六十センチを超える。

頭の三倍近い。

次が、掲げられた編笠。

頭の二倍ほどある。

そして、ハルスの帽子。

顔の幅の二倍近い。

ルノワールの帽子は、頭とほぼ同じ。

白い室内用の帽子は、頭にぴたりと沿う。

つまり、大きさに三倍以上の幅がある。

そして、大きいものほど屋外用である。

日や雨を防ぐには、面積が要る。

小さいものは室内用である。

髪を覆うだけでよい。

第十七回で、置く場所が形を決めると何度も書いた。

帽子でも、使う場所が大きさを決めている。

そして、大きな帽子は画面で目立つ。

顔より広い面積を占めることもある。

だから、構図の要素として強く働く。

帽子は、外せる

最後に、帽子の性質をまとめたい。

帽子は、外せる。

そこが、布と違うところである。

衣は、脱げばその人ではなくなる。

帽子は、外してもその人のままである。

だから、手に持った状態で描ける。

そして、手に持つと、帽子と人が二つのものになる。

顔と、帽子。

二つを同時に見せられる。

九点のうち三点が、その方法を選んでいる。

いずれも、顔を見せたい絵である。

一方、かぶっている五点では、帽子が顔の一部になっている。

影を落とし、輪郭を作り、色の対比を生む。

同じ帽子が、外すか否かでまったく違う働きをする。

次の回では、腰に帯びるものを見たい。

剣もまた、身に着けるものである。

そして、身分を示す。

帽子の形は、四通りある

九点の帽子を、形で分けたい。

平たいつばが張り出すものが三点。

ハルス、ルノワール、そして編笠。

頭に沿う袋状のものが二点。

白い室内用の帽子と、ボンネット。

円錐に近いものが一点。

掲げられた笠である。

皿のように浅いものが一点。

鉄の陣笠。

そして、筒とつばの組み合わせが一点。

ガラスの帽子である。

つばのあるものが多い。

つばは、日を遮るために付く。

そして、顔のまわりに輪郭を作る。

つばのない帽子は、頭の形をそのまま見せる。

だから、輪郭が単純になる。

第十六回で、布の襞が体の形を示すと書いた。

帽子は逆で、頭の形を隠す。

そして、代わりに別の形を与える。

つまり、帽子は形の置き換えである。

誰の頭も、同じ帽子をかぶれば同じ輪郭になる。

画面の形と、帽子

九点のうち、画面が正方形に近いものが二点ある。

帽子屋の一点と、陣笠の画像である。

前者は、六十九・二センチ四方。

後者は、真上から撮った円である。

そして、残る七点は縦長か横長である。

正方形の画面は、上下の方向を持たない。

だから、そこに置かれたものが自由に向ける。

帽子屋の一点では、人物が斜めに配置されている。

体を丸め、手を上げる姿勢が、画面を斜めに横切る。

縦長の画面では、こうはいかない。

上下の方向が強いので、人物も立つことになる。

九点の縦長の五点は、いずれも人物が立つか、正面を向いている。

画面の形が、姿勢を決めている。

第十七回で、判型と構図の関係を何度も扱った。

同じことが、ここでも起きている。

そして、正方形の画面は少ない。

作るのが難しいからではなく、収まりが悪いからだろう。

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