美術史・技法

織るは、交差させること——歌麿・モリス・アルマ=タデマほか九点

糸を交差させれば布になり、花を交差させれば輪になる。織るの九点を数えると、機に向かう人は二人しかおらず、残りは編まれた花輪、機械が織り出した顔、蜘蛛の名、うねる柵の線だった。何千回の繰り返しのうち、絵に写るのは一回である。

機に向かって織る女
喜多川歌麿《機に向かって織る女》メトロポリタン美術館蔵

機の前に、女が一人だけ座っている

縦長の版画である。

37.5×25.1センチしかない。

画面の右寄りに、機がある。

機は木の枠でできている。

枠は縦に二本、横に数本が渡る。

上の横木から、糸が斜めに下りる。

糸は細く、まっすぐである。

線の間隔は、ほぼ等しい。

その糸の束が、手前で一つに絞られる。

絞られた先に、平たい板がある。

板は横長で、両端が丸い。

女は、その板を両手で持つ。

体は前へ傾き、肩が下がる。

顔は板のほうを向く。

目は伏せられ、口は閉じる。

髪は結い上げられ、白い布が巻かれる。

衣は黒地で、細かい白の斑がある。

袖は肘までまくり上げられている。

腕は細く、手首が見える。

裾は床に広がり、大きな面になる。

床には、白い布が垂れる。

織り上がった布らしい。

背景には、何も描かれていない。

画面の上には、二つの枠がある。

一つは題、一つは印である。

機に向かって織る女
喜多川歌麿《機に向かって織る女》1796年ごろ。館の記録では、木版多色摺・紙。37.5×25.1センチ。番号はJP152。メトロポリタン美術館蔵。喜多川歌麿《機に向かって織る女》メトロポリタン美術館蔵

館の札には「女性たち」と「機」の二つがある。

つまり館は、この一枚を機の絵として登録している。

織るという仕事は、糸を交差させることである。

縦の糸を張り、横の糸をくぐらせる。

それだけを、何千回も繰り返す。

一枚の布ができるまでに、日数がかかる。

この画家の描いた台所については、台所で扱った。

織るは、九つの場所に現れる

この一枚を出発点に、織るにまつわる九点を数えていく。

織るという語は、布だけを指さない。

花を編むことも、そう呼ばれる。

蜘蛛が巣を張ることも、そう呼ばれる。

道が曲がりながら続くことも、そう呼ばれる。

先に言ってしまうと、九点のうち、人が布を織っているのは二点である。

三点は、織り上がった布そのものである。

二点では、人は花を編んでいる。

一点では、織る者は神話の名である。

そして一点では、織るは蜘蛛と柵の呼び名である。

つまり九点のうち、機に向かう人は二人しかいない。

床に座って、経糸を張る

二点目も、織る人である。

ホピの織り手
カール・ムーン《ホピの織り手》1937年から43年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。76.3×61センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。カール・ムーン《ホピの織り手》スミソニアン協会蔵

縦長の画面である。

76.3×61センチある。

画面の中央に、人が座る。

背中がこちらを向く。

顔は見えない。

上半身は裸で、肩の筋が見える。

髪は黒く、額に赤い布を巻く。

布の端が、右の耳の後ろへ垂れる。

腰から下は、緑がかった衣である。

足は組まれ、床に着く。

その前に、機が立つ。

機は天井から吊られている。

上の横木から、糸が縦にまっすぐ下りる。

糸は白く、本数が多い。

下のほうで、織り上がった部分がある。

そこには、赤と黒と白の文様がある。

文様は四角と三角の組み合わせである。

左右対称に並ぶ。

人の右手は、糸のあいだへ入る。

床には、毛足の長い敷物がある。

左には、土器が二つ置かれる。

右下には、籠がある。

籠の中に、色の付いた玉が入る。

毛糸の玉らしい。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

つまり、この人が誰かは書かれていない。

書かれているのは、どこの織り手かということだけである。

先の一枚と、機の形がまるで違う。

こちらは縦に糸を張り、あちらは横に張る。

座り方も違う。

こちらは床に、あちらは高い台に座る。

同じ仕事でも、体の使い方が変わる。

糸を張る向きが、姿勢を決めている。

道具が先にあり、体が後から合わせる。

九点のうち、機の全体が見えるのは、この一点である。

機械が、顔を織り出す

三点目では、織るのが人ではない。

ナポレオン三世皇帝の肖像
マルク=ローラン・ブリュイヤス《ナポレオン三世皇帝の肖像》十九世紀。館の記録では、絹、経畝の平織にジャカード装置の機で織り出す。30×22.2センチ。番号は1956.119。シカゴ美術館蔵。マルク=ローラン・ブリュイヤス《ナポレオン三世皇帝の肖像》シカゴ美術館蔵

縦長の小さな布である。

30×22.2センチしかない。

台紙に貼られている。

画面の中央に、男の胸から上がある。

顔はやや左を向く。

髪は短く、額が広い。

口の上に、太い髭がある。

顎にも、細い髭がある。

上着は暗く、胸に飾りが並ぶ。

飾りは星の形と、帯の形である。

肩には、房の付いた飾りがある。

人物のまわりには、枠がある。

枠は楕円で、細い線でできる。

その外側に、月桂の葉が広がる。

下には、文字の帯がある。

色は、黒と灰と白だけである。

明暗は、細かい階調で作られる。

館の記録は、材料の欄をきわめて細かく書いている。

絹の経畝の平織である。

そこに、二次の綴じ経が平らに交差する。

補助の文様緯と、地の自己文様緯が加わる。

そしてジャカード装置の付いた機で織られたという。

館の記録は、そう説明している。

つまり明暗は、絵の具ではない。

糸の上下の組み合わせである。

穴を開けた紙が、その組み合わせを指示する。

顔の陰影も、髭の一本ずつも、糸で作られている。

近づけば、糸の目が見える。

離れれば、写真のように見える。

距離が、見え方を切り替える。

九点のうち、織りが絵になっているのは、この一点である。

織った布に、文様を刷る

四点目では、織りは地になる。