織るは、交差させること——歌麿・モリス・アルマ=タデマほか九点
糸を交差させれば布になり、花を交差させれば輪になる。織るの九点を数えると、機に向かう人は二人しかおらず、残りは編まれた花輪、機械が織り出した顔、蜘蛛の名、うねる柵の線だった。何千回の繰り返しのうち、絵に写るのは一回である。

機の前に、女が一人だけ座っている
縦長の版画である。
37.5×25.1センチしかない。
画面の右寄りに、機がある。
機は木の枠でできている。
枠は縦に二本、横に数本が渡る。
上の横木から、糸が斜めに下りる。
糸は細く、まっすぐである。
線の間隔は、ほぼ等しい。
その糸の束が、手前で一つに絞られる。
絞られた先に、平たい板がある。
板は横長で、両端が丸い。
女は、その板を両手で持つ。
体は前へ傾き、肩が下がる。
顔は板のほうを向く。
目は伏せられ、口は閉じる。
髪は結い上げられ、白い布が巻かれる。
衣は黒地で、細かい白の斑がある。
袖は肘までまくり上げられている。
腕は細く、手首が見える。
裾は床に広がり、大きな面になる。
床には、白い布が垂れる。
織り上がった布らしい。
背景には、何も描かれていない。
画面の上には、二つの枠がある。
一つは題、一つは印である。

館の札には「女性たち」と「機」の二つがある。
つまり館は、この一枚を機の絵として登録している。
織るという仕事は、糸を交差させることである。
縦の糸を張り、横の糸をくぐらせる。
それだけを、何千回も繰り返す。
一枚の布ができるまでに、日数がかかる。
この画家の描いた台所については、台所で扱った。
織るは、九つの場所に現れる
この一枚を出発点に、織るにまつわる九点を数えていく。
織るという語は、布だけを指さない。
花を編むことも、そう呼ばれる。
蜘蛛が巣を張ることも、そう呼ばれる。
道が曲がりながら続くことも、そう呼ばれる。
先に言ってしまうと、九点のうち、人が布を織っているのは二点である。
三点は、織り上がった布そのものである。
二点では、人は花を編んでいる。
一点では、織る者は神話の名である。
そして一点では、織るは蜘蛛と柵の呼び名である。
つまり九点のうち、機に向かう人は二人しかいない。
床に座って、経糸を張る
二点目も、織る人である。

縦長の画面である。
76.3×61センチある。
画面の中央に、人が座る。
背中がこちらを向く。
顔は見えない。
上半身は裸で、肩の筋が見える。
髪は黒く、額に赤い布を巻く。
布の端が、右の耳の後ろへ垂れる。
腰から下は、緑がかった衣である。
足は組まれ、床に着く。
その前に、機が立つ。
機は天井から吊られている。
上の横木から、糸が縦にまっすぐ下りる。
糸は白く、本数が多い。
下のほうで、織り上がった部分がある。
そこには、赤と黒と白の文様がある。
文様は四角と三角の組み合わせである。
左右対称に並ぶ。
人の右手は、糸のあいだへ入る。
床には、毛足の長い敷物がある。
左には、土器が二つ置かれる。
右下には、籠がある。
籠の中に、色の付いた玉が入る。
毛糸の玉らしい。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
つまり、この人が誰かは書かれていない。
書かれているのは、どこの織り手かということだけである。
先の一枚と、機の形がまるで違う。
こちらは縦に糸を張り、あちらは横に張る。
座り方も違う。
こちらは床に、あちらは高い台に座る。
同じ仕事でも、体の使い方が変わる。
糸を張る向きが、姿勢を決めている。
道具が先にあり、体が後から合わせる。
九点のうち、機の全体が見えるのは、この一点である。
機械が、顔を織り出す
三点目では、織るのが人ではない。

縦長の小さな布である。
30×22.2センチしかない。
台紙に貼られている。
画面の中央に、男の胸から上がある。
顔はやや左を向く。
髪は短く、額が広い。
口の上に、太い髭がある。
顎にも、細い髭がある。
上着は暗く、胸に飾りが並ぶ。
飾りは星の形と、帯の形である。
肩には、房の付いた飾りがある。
人物のまわりには、枠がある。
枠は楕円で、細い線でできる。
その外側に、月桂の葉が広がる。
下には、文字の帯がある。
色は、黒と灰と白だけである。
明暗は、細かい階調で作られる。
館の記録は、材料の欄をきわめて細かく書いている。
絹の経畝の平織である。
そこに、二次の綴じ経が平らに交差する。
補助の文様緯と、地の自己文様緯が加わる。
そしてジャカード装置の付いた機で織られたという。
館の記録は、そう説明している。
つまり明暗は、絵の具ではない。
糸の上下の組み合わせである。
穴を開けた紙が、その組み合わせを指示する。
顔の陰影も、髭の一本ずつも、糸で作られている。
近づけば、糸の目が見える。
離れれば、写真のように見える。
距離が、見え方を切り替える。
九点のうち、織りが絵になっているのは、この一点である。
織った布に、文様を刷る
四点目では、織りは地になる。