美術史・技法

書く人と、書かれた物と、書く道具——仇英・杜堇・尾形光琳ほか九点

インク壺付きの文具台
サンスニー窯《インク壺付きの文具台》1746年。館の記録では、錫釉の陶器に上絵付け。全体17.2×26.9×17.8センチ。番号は1963.516。クリーヴランド美術館蔵。サンスニー窯《インク壺付きの文具台》クリーヴランド美術館蔵

白い陶器の台である。

上に、背の高い板がある。

その面に、花と虫が描かれる。

青、赤、緑、黄で塗り分けられる。

下の部分は、波打つ形の台になる。

台の上に、円い穴が二つある。

そこにインク壺が入る。

前のほうに、浅いくぼみがある。

筆や羽根を置くところだろう。

縁は、細かく波打つ。

館の記録によれば、この窯は別の産地の系統だという。

そして、花と虫の様式が、この窯の典型だと書かれている。

これは館の記述である。

書く道具が三点も集まったのは、記録の語のためである。

「書き物」という語が、道具の名に入る。

第八回でも、同じことが起きた。

足の話では、器の脚が足の語で拾われた。

体の部位や行為の名が、道具の名になる。

書く姿勢は、決まっている

書く三点の姿勢を比べたい。

いずれも、座っている。

そして、上半身を前に傾ける。

顔は下を向く。

右手に筆を持ち、左手は紙か机に置く。

この形は、三点とも同じである。

理由は、体の作りにある。

書くには、手先を安定させなければならない。

そのためには、肘か手首をどこかに置く。

そして、目を紙に近づける。

近づけるには、体を折るしかない。

つまり、書く姿勢は選べない。

道具と体の関係が、姿勢を決めている。

第十二回で、座る場所が体の角度を決めると書いた。

座る話で見たとおり、高さが姿勢を決める。

書く場合も同じである。

机が低ければ、体はもっと折れる。

九点のうち、机が描かれているのは二点だった。

どちらも、低い机である。

床に座って使う高さに見える。

そして、顔はどちらも下を向く。

第二回で、こちらを見る顔を数えた。

視線の話では、目が合うのは半分だった。

この回では、書く三点とも目が合わない。

書いている人は、手元を見ている。

道具は、何を守るか

道具の三点を、もう一度見たい。

いずれも、箱か台である。

つまり、物を入れる形をしている。

なぜ入れるのか。

墨も、インクも、こぼれるからである。

そして、筆や羽根は転がる。

紙は風で飛ぶ。

書くという行為には、細かい道具が要る。

その道具を、決まった場所に置く仕組みが要る。

三点とも、仕切りやくぼみを持っている。

金属の箱は、内部が四つに分かれる。

陶器の台には、円い穴と浅いくぼみがある。

漆の箱には、硯と筆と墨が入る。

つまり、形は用途から決まっている。

そして、その上に装飾が乗る。

金の粉、浮き彫り、上絵付け。

装飾は、用途を変えない。

三点とも、実際に使える形をしている。

第十九回で、器の形と装飾の関係を扱った。

曲面の話で見たとおり、面の形が絵の置き方を決める。

書く道具でも、同じことが起きている。

九点を並べて、数えられたこと

書いている人が描かれるのは三点。

学ぶ人が描かれるのが一点。

書かれた物そのものが一点。

道具が三点。

そして、書く人が小さすぎて読めないのが一点である。

つまり、書く姿が主題なのは三点しかない。

材料も数えた。

絹が二点、紙が二点、羊皮紙が一点。

陶器が一点、金属が一点、漆が一点、そして版画が一点。

産地も数えた。

中国が三点、日本が一点。

イタリアが二点、フランスが二点。

そして、フランスの写本が一点。

東アジアの四点のうち、三点は書く人を描いている。

ヨーロッパの五点では、書く人は一人も描かれていない。

道具か、書かれた物か、学ぶ場面である。

九点だけの数だが、はっきり分かれた。

記録に書かれていないこと

館の記録は、何を書いているかを題に書くことがある。

九点のうち、書かれる内容が分かるのは二点だった。

経を書き写す一点と、古い書物を伝える一点である。

残る七点では、内容が分からない。

そして、書いている文字も、たいてい読めない。

画面の中の文字は、小さすぎるか、省略されている。

第十六回で、画面の中の文字を扱った回があった。

書かれた物そのものの一点だけが、例外である。

そこでは、文字が読める大きさで書かれている。

館の記録も、冒頭の一句を引用している。

つまり、書かれた物は読めるが、書く場面の文字は読めない。

これは当然でもある。

書いている途中なら、まだ文字は少ない。

そして、絵の中では読ませる必要もない。

大事なのは、筆を持つ手と、紙に向かう姿勢である。

館の記録は、道具については用途を書く。

何を入れる箱か、どこに壺を置くか。

そういう説明が、三点とも付いている。

だが、道具の三点には、使った人の記録がない。

誰の机にあったかも、何を書くのに使われたかも、どこにも書かれていない。

書く人が誰かは、二点で分かる。

どちらも、名の残る書家や学者だった。

残る一点では、人物が小さすぎて分からない。

そして、書くのにかかった時間も書かれない。

経を一巻書き写すには、何日もかかる。

写本の一葉を作るにも、同じだけの手が要る。

だが、絵はその全部を一つの姿勢に縮める。

筆を持ち、紙に向かった一瞬だけが残る。

第十五回で、絵は一瞬しか描けないと書いた。

動く体の話で見たとおり、どの一瞬を選ぶかで絵が決まる。

書く場面では、始めた瞬間でも、終えた瞬間でもない。

途中が選ばれている。

九点のうち三点とも、そうだった。

次の回は、書かれたものが届く先を見る。

手紙という主題である。

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