美術史・技法

書く人と、書かれた物と、書く道具——仇英・杜堇・尾形光琳ほか九点

記録の中の書くの語で九点を集めた。書く姿が主題なのは三点で、東アジアの絵に偏る。残りは写本の一葉と、硯箱や文具台である。九点で、書く姿勢と道具の形を並べたい。東アジアの四点では書く人が描かれ、ヨーロッパの五点では一人も描かれていなかった。

茶と引き換えに般若心経を書く趙孟頫
仇英《茶と引き換えに般若心経を書く趙孟頫》クリーヴランド美術館蔵

巻物の中で、筆を持っている

きわめて横に長い一点である。

館の記録によれば、全体の長さは553.6センチある。

高さは21.1センチしかない。

つまり、縦の二十六倍である。

館の画像には、その一部が写る。

右側に、文字が細かく並ぶ。

その左に、絵がある。

木が数本立ち、低い岡が続く。

その手前に、人物が何人かいる。

一人は、机に向かって座る。

手に筆を持つ。

その前に、紙が広げられている。

まわりに、立って見ている人がいる。

さらに左には、荷物を運ぶ人らしい姿がある。

色は薄く、墨の線が主である。

茶と引き換えに般若心経を書く趙孟頫
仇英《茶と引き換えに般若心経を書く趙孟頫》1542年から43年。館の記録では、巻子。紙に墨と淡い色。画面20.6×78.3センチ。全体21.1×553.6センチ。番号は1963.102。クリーヴランド美術館蔵。仇英《茶と引き換えに般若心経を書く趙孟頫》クリーヴランド美術館蔵

巻子という形式について、少し書いておきたい。

紙を横につなぎ、軸に巻く。

見るときは、両手で少しずつ繰る。

一度に見えるのは、腕の幅ほどである。

だから、五メートルを超える長さでも扱える。

そして、右から左へ進む。

文字が先にあり、そのあとに絵が来る。

読んでから見る、という順序になっている。

第十七回で、一点の単位を扱った。

巻子は、全体で一点である。

だが、一度に全部を見ることはできない。

館の画像も、一部しか写していない。

館の記録は、この場面の由来を書いている。

十四世紀の書家が、ある僧のために経を書き写した。

その報酬が、茶だったという。

そして、この絵は十六世紀の画家が、注文に応じて描いたものだと記録は書く。

これは館の記述である。

こちらで確かめられるのは、筆を持つ人がいる、ということだ。

九点を選ぶとき、記録に書くの語があるものを拾った。

すると、三種類のものが集まった。

書いている人。

書かれた物。

そして、書くための道具である。

順に並べたい。

書く姿が、絵になる

尚書を伝授する伏生
杜堇《尚書を伝授する伏生》15世紀から16世紀半ば。館の記録では、掛幅。絹に墨と色。画面147×104.5センチ。表装を含めて301.6×127.6センチ。番号は1991.117.2。メトロポリタン美術館蔵。杜堇《尚書を伝授する伏生》メトロポリタン美術館蔵

館の記録は、寸法を三つ書いている。

画面が147×104.5センチ。

表装を含めて301.6×127.6センチ。

軸端まで含めると、幅が134.6センチになる。

縦は、画面の二倍を超える。

上下の裂が、それだけ長い。

大きな掛軸である。

画面だけで、縦147センチある。

表装を含めると、三メートルを超える。

九点でいちばん大きい。

画面の上半分は、芭蕉の大きな葉である。

太い葉脈が、放射状に伸びる。

その奥に、岩がある。

下半分に、人物が数人いる。

右に、老人が座る。

その前に、若い人物が机に向かう。

筆を持ち、紙に向かっている。

左に、女性が一人立つ。

さらに左に、もう一人座る。

地面には、草が生える。

館の記録の札には、書くの語がある。

題によれば、古い書物を口伝えで伝える場面である。

老人が語り、若い人物が書き取る。

つまり、この絵には二つの行為がある。

話すことと、書くことである。

そして、書く人は下を向く。

第七回で、手が何をしているかを数えた。

手の話では、手の行為が主題を決めていた。

書く場面では、筆を持つ手が中心にある。

松の木の下で書を書く
王蒙《松の木の下で書を書く》14世紀。館の記録では、画帖の一葉。紙に墨と色。画面39.8×56.9センチ。全体67.6×71.4センチ。番号は1997.94。クリーヴランド美術館蔵。王蒙《松の木の下で書を書く》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、画面と全体の寸法を分けている。

画面が39.8×56.9センチ。

全体が67.6×71.4センチである。

画帖の一葉は、台紙に貼られる。

その台紙まで含めた寸法が、全体になる。

第十七回で、画帖の一葉の数え方を扱った。

一冊が散らばると、一葉ずつが一点になる。

横長の画面である。

左右に、高い山がそびえる。

山肌は、細かい点と短い線で埋まる。

中央に、松の木が数本立つ。

幹が曲がり、枝が横に広がる。

その根元に、小さな建物がある。

屋根の下に、人物がいるらしい。

だが、非常に小さい。

判別は難しい。

右上に、文字が数行書かれる。

館の記録によれば、この作者は生涯の多くを隠棲して過ごした。

そして、この絵がそれを表しているという。

これは館の記述である。

題には「書を書く」とある。

だが、書いている姿はほとんど見えない。

見えるのは、山と松と建物である。

第十九回で、遠くの人は点になると書いた。

遠くの人の話で見たとおり、大きさが情報量を決める。

ここでは、書く人が景色の一部になっている。

書く行為が、山中の暮らしを示す印として使われている。

園中の文人(古人に倣う画より)
陳洪綬《園中の文人(古人に倣う画より)》17世紀前半。館の記録では、画帖の一葉。絹に墨と色。全体30.2×26.7センチ。番号は1979.27.1.1。クリーヴランド美術館蔵。陳洪綬《園中の文人(古人に倣う画より)》クリーヴランド美術館蔵

正方形に近い画面である。

上のほうに、青と緑の点で葉が描かれる。

大きな木が、画面の中央を占める。

幹はねじれ、枝が横へ伸びる。

その根元に、岩がある。

左下に、二人の人物が座る。

一人は、白い衣を着る。

もう一人は、その前で身をかがめる。

二人の前に、平たいものが広げられている。

紙だろうか。

左上に、小さな建物の屋根が見える。

右下に、赤い印がある。

館の記録によれば、これは二十枚からなる画帖の一枚である。

風景、人物、花が含まれるという。

そして、晩年の作の特徴が書かれている。

これは館の記述である。

三点を並べると、共通することがある。

書く人は、木の下にいる。

そして、屋外である。

机は、簡単なものか、地面に近い。