COLUMNSコラム: 画家を知る

  • 画家を知る

    底の刻印だけが、写っている——チェルシー・ケラミック

    九点のうち一点は、公開画像が器の底だけである。工房の印が押された部分を大きく撮ったもので、色も形も分からない。貫入、光沢釉、粒を貼る技法。一人の収集家が集めた九点で、工房の実験の幅を見る。見えないものは見えないと書く。その上で数字だけを伝える。

  • 画家を知る

    硝子に、商品名が付く——ニューイングランド・ガラス製造所

    上下で色の変わる硝子には、それぞれ独自の名が付けられた。当時の市場の言葉が、いまも館の記録に残っている。銀を差した帽子掛け、頭文字を刻んだ水差し。分類の欄が素材と合わない一点にも触れる。美術館の記録は、産業の記録でもある。

  • 画家を知る

    型で押して、量産する——ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス

    溶けた硝子を型に落とし、上から押す。同じ形がいくつでも作れるようになり、硝子器の値段が下がった。同じ品を色付きと白黒で撮った二枚が並ぶという、めったにない例も含む九点。何が失われ、何が残るかを見る。唯一でない品を、何を見るために並べるのかを考えたい。

  • 画家を知る

    六枚が、白黒で残る——ベンジャミン・トロット

    九点のうち六点は色のない記録写真で、うち一点は写真を撮った写真である。色のある三点では、水色の背景や橙の布が画面の構成を担っていると分かる。同じ画家でも、画像の質が鑑賞を左右する。見えているのは器物ではなく、二重に媒介された像である。

  • 画家を知る

    枠まで、作品である——ジョン・ウッド・ドッジ

    彫りの深い枠、模様の細かい枠、球と輪だけの簡素な枠。同じ画家の細密画でも、仕立ては注文主によって違う。角の欠けた額もそのまま公開されている。四センチの画面に眼鏡まで描いた一枚を含む九点。細密画は絵であり、同時に手に取る物でもある。

  • 画家を知る

    九つの顔を、鎖でつなぐ——トマス・セア・カミングス

    細い金の鎖に、円い細密画が九つ下がる。館の分類欄には、絵画・細密画・首飾りと三つの語が並ぶ。絵でありながら、身に着けるものである。五センチの自画像から十八センチの家族像まで、用途で変わる寸法を見る。象牙という材料と、現在の取引規制にも触れておきたい。

  • 画家を知る

    線で見た木と、色で見た木——デビッド・ジョンソン

    九点のうち五点が、木を主題にしている。油彩では光と色で、素描では線の密度で描かれる。同じ寸法の紙を縦横に使い分けた二枚もある。遺贈から受け入れまで二十五年かかった一枚の記録にも触れておきたい。同じ対象が、二通りに残っているということである。

  • 画家を知る

    石を一つずつ、水彩で——ジョン・ウィリアム・ヒル

    川床の石も、葡萄の一粒も、枯れた葉の縁も省かない。八点はすべて水彩で、館は紙の種類まで記録している。都市の景、遺跡のような建築の内部、そして地面に置かれた果実。時間をかけて描かれた絵は、見るのにも時間がかかる。

  • 画家を知る

    方眼を引いたまま、残る——ケニオン・コックス

    壁画へ写すための細い格子が、消されずに残っている。裸体だけの紙、衣の襞だけの紙、転写用と記された紙。完成した壁画は建物にあって動かせないが、下絵は紙だから美術館に入る。途中だけが残るという事態を見る。

  • 画家を知る

    画面に、名前が書かれている——エルブリッジ・エイアー・バーバンク

    九点の上部には、描かれた人の名と出身の集団名が書き込まれている。名の失われる肖像が多いなかで、これは例外である。同時に、外から来た者が描いたという事実もある。記録の価値と視線の非対称を、両方見る。綴りは描いた人の耳によるものであることも、書き添えておきたい。

  • 画家を知る

    板に描いた肖像——サミュエル・ラヴェット・ウォルドー

    九点のうち六点が、画布ではなく板に描かれている。この時期の肖像としては多い。自画像、途中で止まった妻の肖像、そして路上に暮らす人の肖像。注文の絵とそうでない絵が混ざる九点を、支持体から見る。板は重く割れやすい。それでも二百年を経て残っている。

  • 画家を知る

    素描に、日付が書いてある——ジョン・ニーグル

    一枚の小さな紙に、同時代の画家の姿が速い線で写され、下に日付が書き込まれている。もう一枚には、絵の下に七行の文章がある。仕上げられた油彩七枚と並べると、紙の二枚のほうが饒舌なことが分かる。制作の手前には、日付や書き込みが残る。

  • 画家を知る

    縁が塗り残された肖像——ヤコブ・アイクホルツ

    小さな板の三枚は、楕円の内側だけが描かれ、外は木の地が見えている。制作の順序が、そのまま残っているということである。別の二枚は、画布から板へ画面を移す処置を受けている。作られる側と、守られる側の記録である。

  • 画家を知る

    同じ湖を、二度描く——ジョン・ウィリアム・カシリア

    同じ年に、ほぼ同じ寸法で、同じ湖を描いた二枚がある。いまは別々の館にあり、並べて見る機会はない。二十年前の写生帖五葉には、同じ建物を三通りに描いた頁が並ぶ。線で決めた形が、色になるまでを追う。若いころに写した形が、二十年後の油彩に生きている。

  • 画家を知る

    ほとんど白い頁も、残す——トマス・ヒューズ・ヒンクリー

    犬と鼠を描いた油彩二枚に、同じ写生帖から外された七葉を添える。鹿の素描もあれば、線が数本しかない頁もある。完成品と、その手前。美術館は白い紙も収蔵し、寸法と紙の色まで記録している。帖のまま残ったからこそ、頁ごとの差が見える。密な頁と、白い頁。

  • 画家を知る

    四センチの象牙に、四十年——ジェームズ・ピール

    縦4.4センチの自画像から、四十二年後の果物の静物まで。細密画を六枚含む九点で、一人の画家の長い活動をたどる。九点のうち五点は色のない古い記録写真で、そのことが何を隠すかも書いておきたい。細部を追う手つきは、顔から果実へ移っても変わらない。

  • 画家を知る

    等身大から、四センチまで——チャールズ・ウィルソン・ピール

    二メートルの全身像と、四センチの象牙の細密画。同じ画家が、二十倍以上ちがう寸法を手がけている。壁に掛ける絵と、身に着ける絵。九点を並べ、公と私という用途の差を見る。三点は色のない記録写真である。撮影の条件が、いまの見え方を決めている。

  • 画家を知る

    絵を描く部屋を、描く——マシュー・プラット

    画架、絵の具を載せる板、石膏の像、卓に広げた紙。そして教える人と学ぶ人。一七六五年の一枚は、絵がどう作られるかを主題にしている。規格の肖像四枚と並べると、注文の仕事と自分のための絵の差がはっきりする。

  • 画家を知る

    港町の顔を、三十年描く——ジェレマイア・テウス

    現在のスイスに生まれ、北米の港町で没した画家である。八点はすべて夫婦の肖像で、五枚が同じ規格の寸法に収まる。楕円の枠、暗い背景、白い襟。型の中で何が変えられるかを見る。町の富がどこから来たかにも触れる。

  • 画家を知る

    積み藁と、低い地平線——ジャン=シャルル・カザン

    六枚のうち五枚は、制作年が確定していない。「以後」とだけ記される。それでも絵は残り、公開されている。積み藁と月、風車と雲、白い石を切り出す崖。十九世紀フランスの平らな土地を、抑えた色でたどる。記録の少なさは、見る妨げにはならない。空の広さを味わいたい。

11 / 19 ページ(全 380 件)