画家を知る

画室が、世界の代わりになる——W・M・チェイス

チェイスの主題は、魚と花と家族と同業者である。すべて画室と家の中にある。九点を寸法で並べ、全身像から板の小品までの四つの群を確かめる。黒衣の肖像二点が同じ規格である点にも触れておきたい。室内と屋外の小品にも触れておきたい。

静物——魚
ウィリアム・メリット・チェイス《静物——魚》メトロポリタン美術館蔵

魚が、皿からはみ出している

一枚の静物から始めたい。

静物——魚
ウィリアム・メリット・チェイス《静物——魚》1908年までに。油彩・画布。縦101.9センチ、横114.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・メリット・チェイス《静物——魚》メトロポリタン美術館蔵

大きな画面である。縦101.9センチ、横114.5センチ。

静物としては、かなり大きい。人の上半身ほどの幅がある。

画面の中央に、魚が二尾横たわる。銀色の腹が上を向き、口が開いている。

一尾は白い皿の上に載る。もう一尾は皿からはみ出し、卓に直接置かれる。

その手前に赤い実が一つ、左に緑の野菜が三つ。

左奥に銅の器が立つ。細長い形で、光を鈍く反射する。

背景は黒に近い暗褐色である。輪郭が闇に溶ける。

魚の銀色は、どう作られているか

細部を見たい。魚の腹は、白と灰色と淡い青で塗られている。

その上に、白い絵具が短く置かれる。鱗の反射である。

一筆ごとの跡が見える。混ぜて滑らかにする処理はされていない。

離れて見ると、その粒が濡れた光沢になる。

近づいて見て、離れて見る。この往復が要る画面である。

描いたのは、誰か

作者はウィリアム・メリット・チェイスである。1849年にインディアナで生まれ、1916年に没した。

ミュンヘンで学び、帰国後、ニューヨークで画室を構えた。

その画室は、当時よく知られていた。装飾品や工芸品を集め、来客を迎える場でもあったとされる。

つまり画室は、制作の場であり、見せる場でもあった。

ただし、当サイトの公開分に画室そのものを描いた作品は含まれていない。

静物という主題の位置

主題の格についても触れておきたい。ヨーロッパの伝統では、静物は下位に置かれてきた。

その序列については、別のコラムで扱った。

しかし19世紀後半には、その序列が緩む。何を描くかより、どう描くかが問われるようになる。

魚を大きな画布に描くという選択は、その変化の中にある。

問い——画室の画家は、何を描くのか

ここで問いを立てたい。この画家は、生涯の多くを画室で過ごした。

主題は、静物、肖像、室内である。屋外の風景は少ない。

つまり、身近な人と物だけで仕事が成立している。

当サイトにはウィリアム・メリット・チェイスの作品が20点公開されている。

並べて、画室という場所の意味を読みたい。

壺と花だけの一点

もう一点、静物を見たい。

桃色のツツジ——中国の壺
ウィリアム・メリット・チェイス《桃色のツツジ——中国の壺》1880〜1890年ごろ。板に油彩。縦59.7センチ、横42.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・メリット・チェイス《桃色のツツジ——中国の壺》メトロポリタン美術館蔵

縦長の画面である。縦59.7センチ、横42.1センチ。

中央に、白地に青の壺が立つ。肩が張り、下へすぼまる形である。

表面の青は、筆の跡がそのまま残る。模様は描き込まれていない。

壺の口から、桃色の花が広がる。枝が左右に伸び、葉が濃い緑で置かれる。

右下に、暗い青の物が横たわる。布か器だと考えられる。

背景は暗褐色で、卓の面との境が曖昧である。

板に描くという選択

材料も見ておきたい。この一点は、画布ではなく板に描かれている。

板は硬く、絵具の乗りが違う。細かい筆の跡が残りやすい。

小さな作品では、板のほうが扱いやすい。歪みも少ない。

材料の選択は、寸法と目的から決まる。板絵の性質については、
別のコラムで扱った。

物の数を、絞る

構成を確かめたい。この画面には、物が二つか三つしかない。

壺、花、そして手前の暗い物。それだけである。

物を減らすと、一つずつの形と質感が際立つ。

静けさを引き算で作る方法については、
別のコラムで扱った。

時代も国も違うが、方法には共通点がある。

黒い服の全身像

肖像に移りたい。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
ウィリアム・メリット・チェイス《ジェームズ・マクニール・ホイッスラー》1885年。油彩・画布。縦188.3センチ、横92.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・メリット・チェイス《ジェームズ・マクニール・ホイッスラー》メトロポリタン美術館蔵

縦188.3センチ。等身を超える全身像である。

男が立つ。黒い長い上着、黒いズボン、黒い靴。

右手に細い杖を持ち、床に突く。左手は上着の裾を押さえる。

顔は小さく、髪と口髭が黒い。視線は正面へ向く。

背景は黄土色の平らな面である。家具も窓も描かれていない。

左上に細い文字がある。献辞と署名だと考えられる。

献辞という習慣

画面の文字にも触れておきたい。左上の細い文字は、献辞と署名だと考えられる。

誰に贈るかを画面に書き込む習慣は、19世紀の肖像に見られる。

つまり作品が、贈り物として機能していた。

ただし、公開画像では文字の判読が難しい。所蔵館の記録も内容までは書いていない。

描かれたのも、画家である

主題について補いたい。描かれているのは、同時代の画家である。

つまり、画家が画家を描いている。

同業者の肖像は、単なる注文仕事ではない。互いの方法への評価が含まれる。

背景を平らな一色にする方法は、描かれた側の画家がよく使ったものでもある。

つまりこの画面は、相手の方法を借りて相手を描いている。

対のような、もう一点

寸法を比べたい一点がある。

黒衣の婦人
ウィリアム・メリット・チェイス《黒衣の婦人》1888年。油彩・画布。縦188.6センチ、横92.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・メリット・チェイス《黒衣の婦人》メトロポリタン美術館蔵

寸法は縦188.6センチ、横92.2センチ。

先の一点は188.3×92.1センチである。差は数ミリしかない。

つまり、ほぼ同じ大きさの画布が使われている。

女性が立ち、黒いドレスを着る。袖が肩で膨らみ、裾が床へ広がる。

右手を腰に当て、左手を小卓に置く。卓の上に小さな白い花がある。

背景は、こちらも黄土色の平らな面である。