鏡が入ると、顔が二つになる——ヴィジェ=ルブラン・ドガ・北斎ほか九点
鏡のある絵では、見ている顔と映った顔が別の向きを取る。九点で、鏡の扱いを数えたい。ただし映す鏡は三点だけで、残りは眼鏡、鏡餅、そして書物の題だった。語が六つの意味に広がっている。映った顔だけがこちらを見て、実物は目を伏せている。

顔が、二つある
暗い背景の前に、少女がいる。
緑の衣を着ている。
袖が膨らみ、襟元が白い。
頭に、白い布を巻く。
その端が、肩へ落ちる。
髪は明るい褐色で、頬にかかる。
体は左を向く。
顔は下へ傾き、目は伏せられる。
そして、両手で四角い枠を持っている。
赤茶色の枠である。
その枠の中に、もう一つの顔がある。
同じ少女の顔である。
だが、向きが違う。
こちらを、まっすぐ見ている。

館の記録によれば、描かれているのは作者の娘である。
生没年が、題の括弧に入っている。
1780年生まれで、この絵は1787年の作だ。
つまり、七歳ごろの姿である。
前の回で、子どもの絵を数えた。
子どもの話では、年齢が記録にない例ばかりだった。
この一点は、例外である。
生年が分かるので、年齢が計算できる。
そして、描いたのは母である。
第四回で、自画像を扱った。
自画像の話では、この作者と同じ時代の女性の画家も出てきた。
鏡が画面にあると、顔が二つになる。
一つは、そこにいる人の顔。
もう一つは、映った顔である。
そして、その二つは同じ向きを向かない。
見ている顔は下を向き、映った顔は正面を向く。
だから、見る側は二つの視線を同時に受ける。
九点を並べて、鏡の扱いを数えたい。
ただし、先に言っておきたいことがある。
九点のうち、実際に鏡が写るのは四点だけである。
残る五点は、別の意味の「鏡」だった。
鏡は、家具でもある

ガラスの鏡は、この時代には高価だった。
大きな一枚を作るのが難しかったからである。
だから、鏡は家具として扱われる。
そして、彫刻と金で飾られる。
館の記録は、この一点を家具と木工の分野に入れている。
絵画でも彫刻でもない。
第十九回で、家具が館に入る話に触れた。
用途のある品が、作品として並ぶ。
横に長い鏡である。
縦78センチ、横186センチ。
中央に、長方形のガラスがある。
そのまわりを、金色の木の彫刻が囲む。
上の縁には、羽根のような形が並ぶ。
左右の端は、渦巻きと葉が絡み合う。
下の縁にも、細かい彫りが続く。
ガラスの面は、灰色に見える。
館の画像では、何も映っていない。
館の記録によれば、上部の羽根はある人物の印にちなむという。
そして、その人物についての説明も書かれる。
これは館の記述である。
こちらで確かめられるのは、彫刻が金色である、ということだ。
この鏡は、暖炉の上に取り付けられる。
だから、横に長い。
そして、高い位置にある。
見る人は、見上げることになる。
つまり、顔は映りにくい。
映るのは、部屋の天井や、向かいの壁である。
鏡の形が、映るものを決めている。

第七回でも、この作者の同じ意匠を見た。
手の話で扱った一点である。
同じ題で、同じ番号の一部だった。
つまり、複数の紙が一括で館に入っている。
意匠の紙は、まとめて残ることが多い。
こちらは、鏡そのものではない。
鏡を作るための図案である。
紙の中央に、丸い形が描かれる。
その丸のまわりを、装飾が囲む。
青緑と金で塗り分けられている。
葉と渦巻きが、絡み合う。
上のほうは、扇のように広がる。
丸の内側は、白いままである。
つまり、そこにガラスが入る。
下のほうに、細い柄の輪郭がある。
薄い線で、途中まで描かれている。
第十回で、装飾の図案を扱った。
面の話で見たとおり、図案は職人が真似るために作られる。
そして、背景を持たない。
この一点も、紙の白の上に浮いている。
館の記録は、寸法を三つ書いている。
紙全体と、額を含む寸法と、もう一枚の紙の寸法である。
つまり、複数の紙が一つの番号で数えられている。
第十七回で、一点の単位を扱った。
鏡が、画面の外にある

館の記録は、支持体をトレーシングペーパーと書いている。
透ける薄い紙である。
下に置いた図を写すために使う。
つまり、この一点も写しから始まっている可能性がある。
第二十回で、輪郭に穴を開けて転写する例を見た。
母と子の話で扱った素描である。
写す方法は、時代によって変わる。
穴を開ける方法から、透ける紙へ。
そして、透ける紙は薄く、傷みやすい。
七十五センチの大きさで残っているのは、めずらしい。
正方形に近い画面である。
色が強い。
背景は、橙と黄と緑が混ざる。
右のほうに、黄色の面が広がる。
左には、青緑の布らしいものがある。
中央に、人物がいる。
体を前に大きく折る。
背中が、大きな弧を描く。
腕は、頭の後ろへ回される。
髪を持ち上げているらしい。
顔は、ほとんど見えない。
肌は、黄と橙で塗られる。
パステルの粉が、紙の目に残る。
線は、輪郭にわずかに見える程度である。
題に「化粧」の語がある。
だが、鏡は描かれていない。
化粧をするなら、鏡があるはずだ。
それは、画面の外にある。
第五回で、髪を扱う姿勢を数えた。
髪の話では、腕を上げる姿勢が共通していた。
この一点も、同じ姿勢である。
そして、そこで見たもう一点には、鏡が二つ描かれていた。
同じ行為でも、鏡を入れるかどうかで絵が変わる。
鏡を入れれば、顔が映る。
入れなければ、背中だけが残る。
この一点は、後者を選んでいる。